低い生産力と重要な乳製品

(リポート:中村民夫)

低い家畜の生産力

 この地の家畜生産力について考えてみました。家畜は子供を産み増えていきます。その一方で家畜を販売し、自家利用して牧民は生活しています。1年に家畜群が子供を産む割合を「群繁殖率」として計算しますと、平均30%でした。100頭の羊群から30頭が産まれてくるのです。子羊1/3、親羊2/3(雌70%、雄30%)という群があって、受胎率が70%だった場合に 2/3×0.7×0.7=33%となります。受胎率が90%に上がれば郡繁殖率は42%となり、10%の生産頭数増加となるのです。
 また、牛はについて見ると、1日当り1.5〜2kg程度しか牛乳を出さない。年間1頭当り搾乳量は500kg程度です。日本のホルスタイン種(搾乳用品種)では8000kgですから、牛の搾乳量はかなり低い。

 では、家畜改良をして、生産性の高いホルスタインを導入すれば豊かになるのか? 私はそうは思いません。干ばつと雪害が頻繁に発生するこの国に、仮にホルスタイン種を導入しても生き残れるかどうか・・。多分、ムリでしょう。また、1日の乳量が30kgになったら牧民の皆さんは加工して保存するのが間に合わなくなる。牛は毎日、牛乳を絞りきらないと病気になってしまいます。加工が間に合わないからと言って搾乳を止めるわけにはいきません。つまり・・この国の家畜の飼い方では、高能力の牛を持つことにメリットはないのです。

 この国の牧畜指導者は高能力品種の導入や受精卵移植などの先進技術に興味があるようですが、問題は先進技術の導入にあるのではない、遅れている社会・産業インフラにあると思うのです。
 高泌乳牛を飼っても、その牛乳の販売先がなければ意味がありません。生乳の需要は都市部でかなり高いと言われていますが、そのためには冷蔵状態で牧民から牛乳を集めて、牛乳工場に運び、殺菌処理をして、消費者の手元まで冷蔵状態で運ぶことが必要です。冷蔵技術と道路網整備は、消費者に生乳供給を行なうために必須のインフラです。ところが、ウランアオジュ村を見たときに、これらの整備は立ち遅れています。
 この地方最大の赤峰市でも、ホテルの食事に生乳はの代わりにスキンミルクが出ました。生乳がないのです。大畜産地帯のホテルにしても、この程度なのです。逆に言えば、私たち日本人が普段飲んでいる生乳は、実は日本社会のインフラに支えられて商品化している、ということなのです。

 

 


とても重要な乳製品

 8組の組長である老少さんに協力いただいて、牧民経済を知るために収入と支出を調べさせていただきました。短時間の聞き取りですから正確ではないことを、はじめに断っておきます。
 老少さんは期首に牛13頭、馬1頭、羊・山羊38頭を飼養し(羊換算108頭)、水田7ムー(47a)を栽培しています。1年間の農畜産物生産額は18,582元(28万円)となりました。でも、外部に販売しているものは家畜、羊毛、皮革と米で12,650元。自家消費は5,932元でした。農畜産物の自家消費割合は32%となりました。
 さて、自家消費の農畜産物ですが、米の他に乳製品と羊です。乳製品は外部に売ることは少なく、ほとんどを自家利用しています。自家製チーズ、ヨーグルト、バターなどで、この消費量は4,800元程度(推定)にもなっています。一方で、意外と少ないのが肉(羊)です。年間わずか2頭しか自家消費していないのです。昨年夏に、私たちは老少さんのお宅で羊をご馳走になりましたが、貴重な1頭だったのですね。
 内モンゴルの日常食に小麦や粟などが使われています。食事について、明和学園大学教授堀口先生が「内モンゴルの日常食」としてレポートしていますのでご覧ください。(http://www5a.biglobe.ne.jp/~aojukai/contents/syokuji.htm
 堀口レポートを見ると、この地域の食生活の素材の中で、穀物やミルクティーで使うお茶、秋冬用の野菜などは自給は出来ません。老少さんも、粟・小麦・野菜など年間3,000元の食料を購入していました。食費は自給分5,932元も含めると年間8,672元ですから、食料自給率は66%となります。特に注目されるのは、食料費の中で乳製品の占める割合は54%にもなっている点です(金額ベースですが)。農畜産物生産額から見れば、「この地域の食料消費の中で乳製品が大きなウエイトを占めている」となりますが、食品消費や栄養の面からはどう言えるのでしょうか・・? この方面からどなたか明らかにしてください。



(搾乳)