ギリシア神話によせて
〜星矢小説補足解説2〜


 今回からは第2部から活躍予定のオリンポスの神たちについて焦点を当てていきます。


1、ゼウス
 さて、今回はゼウスという人物に焦点を当ててみよう。「ゼウスというとどんな神ですか?」と聞かれた場合、たいていが「あのスケベ親父だろ?」と答えが返ってくる。そのくらい、さまざまな女性と関係を持つ人物だ。しかし、ゼウス自身はその妻であるヘラに比べると日本ではよいイメージを持つ事が多い。それはさまざまな英雄の後押しをしたり、悪を懲らしめたりといったシーンが存在するからだ。正義の神の印象も強いだろう。そんないわゆる絶対的な権力を持つゼウスは、いわゆる権力の象徴として捕らえられ、それによって、ギリシアなどの地方における絶対的な正義としての存在が確立されていったのであろう。

 では、なぜゼウスはこんなに好色なのかという話を少ししよう。実はこれは上記の権力と大きな関係があるのだ。
 ゼウスというのは古代において、北方系のひとつの民族であったと捉えるのが有力な学説であるようだ。ギリシアの北方に住む民族というのがどのようなものなのかはよくわからないが、ゲルマン民族などの機動力などをかんがみればさぞ屈強な民族だったのだろうと考えられる。
 で、だいたいこういう民族というのはおそらく略奪、強姦系を平気で行うような民族で(実際に新たにその地を平定した王はそこの后をそのまま娶るというのは普通であったようだ)おそらくギリシア地方に住む民族はこのような古代の戦争でずいぶんと財産を奪われてしまったろうことが容易に想像できる。そして、そのとき、そんな彼らを受け入れ、自らの子孫を残し、文化を伝えていくには、彼らを正当化し、その武力でその地を収めてもらうしかなかったのだ。こうして、この北方系民族はギリシアのとくに北部、マケドニア、テッサリア、トラキアと呼ばれる地域では猛威を振るっていたらしい。オリンポスが存在するのもこのギリシア北部に近い中央に位置する。
 で、ゼウスの権力が大きくなってくるとどうなるか?これは民衆というものの弱いもので、この大いなる王の后になったりしたいものだ。そうすれば王の親戚になるのだから身の安全は保障される。だから、当時の王の中には、うちの娘はゼウスの子を産んだのだ。だからうちはゼウスに守られた強い国なのだ。と主張できるようになる。こうして、本来的にはありもしないゼウスのスケベ親父振りが時代がたつにつれおひれのようにどんどんとついたのだ。そしてそれがしだいに神格化されてくる。ゼウスとはラテン語などの読み方で"Deus"と書く。そしてこの"Deus"とはキリスト教における神である。当然ヨーロッパの文化を形成する前の文化としてのギリシア神話から、絶対的な神とはゼウス=神という言葉として認識されていったに違いない。

 ただ、言葉としての神という意味であり、ゼウスがキリスト教においてうんぬんという話はない。語源という意味で捉えてほしい。
 またゼウスが誕生した時期とそのほかのオリンポスの神が誕生した時期も考えて見てほしい。ゼウスは古い神なのだ。ゼウス信仰は有名な神話が確立される以前にすでに全能な神としての地位を確立していたと考えられる。後にアテナやアレス、ポセイドンなどの信仰がなされていくが、それはゼウスに反旗を翻したのではなく、まずゼウスありきでその中で何を重視した都市国家であったかが、その地域の特徴を持ったのだと思われる。そこから、ゼウスの子としての12神が出来ていくのだろう。

補足、ゼウス以前の神たち

 ギリシアの神々はたくさんいる。その中心は現在ゼウス(天空の神、神々の父、王)であるといわれるが、その前には、血みどろの戦いがあったのだ。それらを簡単に説明し、オリンポスの神の説明をする。
 一番はじめ、混沌(カオス)の中から、ガイア(大地)が生まれた。ガイア(女神)は、その中から、天空である(ウラヌス)を生み出す。ガイアは自分の生み出したウラヌスと交わり、さまざまな物(それぞれの物の神でもある)を生み出した。その中には、巨人や、ヘカトンケイル(手がいっぱいある人)なんかを生み出した。最後にクロノスを生み出した。
 ウラヌスは、息子たちに権力を奪われないように、もっとも深い地獄の牢獄(タルタロス)に息子たちを封じこめた。それに、怒ったガイアは、末子のクロノスに、父親が暴れまわれないように、金剛の斧を持たせ、歯向かわせた。クロノスは、ウラヌスの男根を切り、海に投げ込んだ。こうして、実質的な権力はクロノスに移る。
 クロノスも、やはり、父と同様に、自分の息子たちが生まれてきては、その子供ごと飲み込んでしまった。それは、やはりウラヌスと同じように、自分の子供の一人が自分を倒し、権力を奪うだろう。という予言を受けていたからだ。ガイアと同じ悲しみをを受けたクロノスの妻のレアは、ゼウスを身ごもると、クレタ島にいき、ゼウスが生まれるとその洞窟に隠してしまった。そして、何食わぬ顔でクロノスには毛布に包んだ石を渡した。クロノスはそれをゼウスと勘違いし飲み込んでしまった。こうして、ゼウスは殺されずにすみ、現在のようなゼウス全盛の時代がやってくるのだ。

 

次回はヘラについて焦点を当ててみる。

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