聖闘士 星矢

〜Last Chapter The Olympus〜

 


36話「神界でもっとも陽気な男!!の巻


   

「サガにカノン。何のつもりですか?星矢たちが必死に戦っているというのに・・・。それに私は自分の身は自分で守れます。すぐにこの場から立ち去るのです。」
 アテナは唐突に現れたこのジェミニの兄弟にそう言った。だが、サガとカノンは立ち去ろうとはしなかった。
「アテナ。この私はアテナの聖闘士として修行を受け、そして前回聖戦において、アテナの聖闘士としてこの世から去りました。つまり私はアテナに命を預けたままこの世を去ったのです。このようにして再び生を与えられたからには、最後までアテナ!あなたのおそばにおりましょう。」
 サガはそういった。その瞳には微塵の曇りもなかった。あの善人サガそのものがあった。そして、
「われら兄弟は、アテナに、女神に会わなければすでに朽ち果てていた未だ未熟な聖闘士。その未熟な我らがアテナの愛でこうして再び復活することができたのです。失礼ながら、ここはわれら兄弟にお任せください。」
 カノンも続けてそう言った。するとアテナは二人の言葉を聞きしばし考えていたが、やがて二人に向かってこう答えた。
「わかりました。あなた方賢い兄弟であれば何か考えがあってのことでしょう。くれぐれも無茶をせぬように。」
 そういうと、アテナは再び神殿の中央に構えられた玉座に座りに戻った。その姿を見ながら、サガとカノンをつれてきた上級天闘士たちがなにやら不適な笑みを浮かべると、こう続けた。
「ともかく、この神殿はサガとカノンの二人に守護させることになったのです。よろしく頼みます。」
 そういうと、残った上級天闘士の3人はアテナの神殿から立ち去った。

 

 ひたすらに続く、石畳の道と階段。その道を黙々と走り続ける。やがて遠く、そう星矢たちが向かっていった方角から大きな爆音が聞こえてきた。男は、その音の方向を軽く見やった。大きな光の柱が立ち上る。それはビッグバンにも勝るとも劣らないほどのものであった。
「あれは!?確か星矢が向かった方向。すでにここまで過酷な闘いが待ち受けていたとは!?」
 そのまま、それを横目に走り続けようとした。だが、何かの異変に気づいた。それは自身の身に起こったことだった。
 おかしい。何故だ。なぜ星矢の向かった方角から光が指していることに自分が気がついているかを。
 男は、紫龍はとっさに目を覆った包帯を取り去った。そこにはもうかれこれ10年近く見ることのなかった視覚による現実世界の映像が映し出されたのだ。
「うむむ。。これは!?もう完全に失明してしまったと思っていたこの目が見えるとは!?」
 紫龍はあまりの喜びに、そのオリンポスの高き場所より下界を望んだ。星矢の方向から立ち上る光柱、それに朝まで宿泊していたあの屋敷。その下には雲海があり、街はみえなかったが、いまの紫龍の気持ちを満足させるには十分なほどの視界だった。
「星矢には悪いが、その大きな光の柱によって私は再び光を得ることができたぞ!」
 紫龍は身にまとう神聖衣を見やりながら、右の拳を握り締めた。
「星矢!約束しよう!必ずやこの先の神殿に待ち受ける神をこの紫龍が倒すと!!」
 だが、紫龍の興奮が冷め遣らぬうちに、前から何者かが接近してきた。

ズシャ〜ン!!

 

 大きな拳によって空を切り裂くような音がすると、それが紫龍の頬を掠めた。
「いかん。視力の回復に心を躍らせ、われを忘れていたか?」
 やがて、紫龍の前に2人の男が立ちはだかった。そして、拳を突き出しながら名乗りを上げようとする。
「俺は、ブルゴーニュの酒闘士(リキューラ)・・・。」
「私は、イギリス、スコットランドの酒闘士(リキューラ)・・・。」

だが、紫龍はその名を聞き終わる前に技を繰り出していた。

「盧山龍飛翔!!」

 紫龍がそう叫ぶと、2人の酒闘士はふっとんだ。
 そして、
「俺は、、、」
 何かを告げようとしたが男は風前の灯火だった。
 紫龍は男に、
「ふっ・・・。大方、ボジョレーとスコッチだとでも言うのだろう。」
 と、紫龍にしては珍しく冗談を言ったが、2人の男は不適な笑みを浮かべてそのまま息絶えた。
 紫龍の珍しいジョークがもしや2人の酒闘士(リキューラ)の本当の名前だとも知らず、ほどなくして神殿の入り口にたどり着いた。
 そこには、盃を持つひげを生やした大男と、その両側から大きな瓶を持って男に献上する2人の乙女のレリーフが刻まれていた。
「さきの男たちが酒闘士と言ってだけあって、この神殿。バッカスの神殿のようだな。」
 紫龍はその中に足を踏み入れた。
 なかは金色に輝くまばゆいばかりの神殿でよもや中世王朝のそれを思わせるほどであった。よくよくみると明かりは少ない。所々にともるランタンだけがその神殿内を照らしていたのだが、壁に使われる黄金と、ステンドグラス、宝石などがランタンの光を反射しより一層明るいものへと見せていた。暗さにか、それとも逆に反射したばかりの光なのか?復活したばかりの紫龍の目にはどちらにしてもしんどいものではあったが、その奥へとすこしずつ足を進めていく。
「ようこそ!バッカスの神殿へ!!」
 野太くも高い、通りのいい男の声が紫龍の耳に聞こえた。声のする方角に目を向けるとそこには体格のいい色黒の男とそれに付き従ううら若き乙女が二人いた。それはまさに入り口のレリーフに書かれたものと同じ構図であった。
「ようこそ!バッカスの神殿へ!紫龍君!!!」
 バッカスと名乗る男は軽く左手を下方に払った。女に何かを指図したようで、女はそれに従うとどこからともなく空のグラスを取り出し紫龍のほうへ持ってきた。
 紫龍はグラスを手荷物かと思えば、そのまま女の方へと返した。機嫌を悪くしたのかと思い、女は少しばかりおびえるとその場にへたり込んだ。
「あいにく私は酒は飲まぬのだ。好意は受け取りたいところだが、ここは断っておこう。」
 そういうとへたり込んだ女を立たせるようにと抱えあげようとした。しかし、女はおびえて、一向に動かない。ばかりかますます体を硬直させてその場にへたり込む始末であった。するとバッカスはいたわるように紫龍の前にへたり込む女に声をかけた。
「その男は何もせん。私のところに戻りなさい。」
 言うが早いか女はすぐさま元いた場所に収まった。 
「ウハハハハ・・・!噂にたがわぬ実直、純朴ぶりよ。紫龍!!」
 バッカスはその姿を見て高笑いを上げた。
 だが、紫龍はそれに怯まなかった。
「酒の神バッカス!!あなたに問いたい!!」
 紫龍は逆にバッカスに問いかける。
「いまは大切な神と人との最後の聖戦。そのようにかよわき乙女をはべらせ、戦に対峙するとは!?」
 そして小宇宙を高めながらもさらに続けた。
「この紫龍、いかに青銅製闘士といえども、前回聖戦より生き残った聖闘士の端くれ。勝機が万に一つといえど、そのような態度に出られては憤りも起きようというもの。」
 そして紫龍は最大限に高めた小宇宙を一気に爆発させると、昇竜の勢いで十数年ぶりに最大の奥義を打ち出したのであった。

 

「盧山昇龍覇!!」

 

天を駆けんばかりの紫龍の拳がバッカスを捕らえる。周囲の乙女はあまりの恐れにいずこかへ身を隠してしまった。しかし、バッカスは怯みもしない。

「わからぬか!?紫龍!!」

 

カッと目を見開くと、紫龍の拳は昇りすぎその身を翻してしまった哀れな龍のように自らのほうへと大きく飛ばされ、体全体も後ろの円柱にたたきつけられてしまった。
だが紫龍は立ち上がる。
「分からぬ?と!!この私に何が分からぬと。。」
 紫龍はそういうと再び戦闘の構えを取った。
 しかしバッカスは先ほどと同じようにもたれていた玉座に座りなおすとこういった。
「私の麗しき乙女たちがいなくなってしまったではないか!?どうしてくれる紫龍君。。。」
 完全に小ばかにするバッカスに紫龍は再びその最大の奥義を繰り出した。

 

「盧山昇龍覇!!」

 

 だが、何度打ってもその技は通用しないのか、またも紫龍は後方の円柱にたたきつけられる。
「だから言ったであろう。」
 そういうとバッカスは紫龍の技を軽々と跳ね除けると玉座に座りなおした。
「乙女は?乙女をどこへやった?紫龍!」
 紫龍はその言葉を聞くともはや堪忍袋の緒も切れたのか3度目の奥義を放った。
「盧山昇龍覇!!」
 今度ばかりはバッカスも紫龍の頑なな態度に痺れをきらせたのか立ち上がり両手を大きく振り上げ、紫龍ものとも投げ飛ばした。

 

「まだ分からぬのか!小僧!!」

 

 バッカスの渾身の攻撃を身に受けた紫龍は神殿の天井を貫通し、数十メートルもの高さまで持ち上げられた。
 バッカスは立ち上がると数歩前に進み、上を見上げた。
 やがてそこには紫龍が落ちてきた。
「まだわからないか紫龍よ。」
 バッカスは紫龍に哀れみとも思える声でつぶやいた。
 半分気を失いかけた紫龍の前でバッカスはこうつぶやく。
「頑ななまでの紫龍の心よ。この私に答えなさい。そして、その身をすべてこの私に預けるのだ。」
 バッカスが紫龍の体に触れようとする。
 紫龍は消え行く意識の中でその最後のバッカスの言葉を聞いた。

 

 

―――――五老峰
「紫龍よ!!春麗のくれたあの花の首飾りをどうしてこの盧山の大瀑布の中へと捨ててしまったのじゃ!?」
 だが紫龍は満面の笑みを浮かべてこう答えた。
「恐れながら老師。私は修行をするためにこうして盧山の大滝で修行しているのです。そのようなときにこのように女々しい花でできた首飾りなど。。。」
 それを聞くと老師はフン!と鼻息を鳴らすとまた紫龍にたずねた。
「紫龍!!ではその首輪は、春麗が大切に作ったものではないのかのう。」
 言われた紫龍ははっとわれに返るとあわてて盧山の大瀑布の中に飛び込もうとする。
「あわてるな紫龍!!お前がこの大瀑布に入っても戻ってくることはできまいぞ!!」
 紫龍はなおもうろたえ続けた。
「でも老師。老師はさきほど春霊の好意を、、、苦労を、、無駄にしてしまうでhありませんんか。」
 紫龍は今度はその修行の場を立ち去ろうとする。
「どこへ行く!紫龍!!まだ今日の修行は終わっておらんぞ!!」
 紫龍はなおもあわてる。
「でも老師。花輪を捨ててしまったのなら、すぐに春麗に謝らねばならぬでしょう!」
 老師は厳しい顔をして紫龍に言った。
「修行と花輪のどちらが大切なのじゃ!?」
 紫龍は、ますます困惑するばかりであった。
「老師!!一体私はどうすればよいのでしょう!!」
 さすがの老師も実直な紫龍をあまりにもからかいすぎたことをわびこういった。
「すまんのう。紫龍。だが相変わらず実直じゃのう。それではいつか死ぬぞ。」
 紫龍ははっとわれに返ると、老師の顔を真剣にみた。
「春麗!可憐にわしやお前の世話をしておるあの春麗。おぬしよりもずっと苦労しておる。修行をしておる。今度から春麗を師と呼ばねばならぬかもしれんのう。紫龍!!」
 老師は軽く一息つくと、滝のほうに背を向けた。
「今日はこれで終わりにしよう。そして春麗の後をつけ、ただいま何をしておるかしっかりとみておくのじゃ。」
 そういうと老師はそのままその場に寝てしまった。



 


春麗の姿を見つけた紫龍は!?
そして現れた月の女神!!

第37話 蒼い月の女神!!の巻
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
感想どしどしお待ちしています!
2003.12.31更新予定!!


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