谷中・根津・千駄木、本郷・西片フィールドワーク

■ 神楽坂建築塾の今年のテーマは、「人が住むって何だろう?」。5月・6月のフィールドワークでは、東京でもかつての住まい方を今に残すエリアを歩き、スケッチを描きました。僕が担当したのは、5月が谷中・根津・千駄木、6月が本郷・西片。両日ともかなりの距離を歩き、歩くたびに違った発見があって、東京という街の襞の奥深さを実感させられました。

■ 上のスケッチ(F−1)は、谷中の朝倉彫塑館。館内のスケッチは禁止されているので、屋上から中庭の池を見下ろして描いたものです。ここは以前も学生を連れて来たりした、楽しいお気に入りのスポットで、コンフォルトという雑誌の取材につきあった事もあります(CONFORT、11、1993)。谷中の街歩きのスタートにもってこいの位置にあり、ここの屋上から谷中の墓地はじめ、地域全体の広がりを説明するのにはもってこいです。谷根千といえば森まゆみさん。彼女には多数の著書があるのですが、今回の街歩きの参考書は、『新編・谷根千路地辞典』(江戸のある町上野・谷根千研究会著、住まいの図書出版局)。いわゆるガイドブックや名所案内には出てこない路地を細かくあつかっています。いくつかの路地は、現在は駐車場になったり、マンションになったりして消失していますが、都市に住まう事のすばらしさを失っていない空間がまだ健在です。

■ 本郷・西片にも、場所性の濃厚な空間がいくつも残っています。この日はスケッチマラソンといって、一箇所を5〜10分で描くというプログラムで、僕も何枚か描きました。そのうちの一枚がこの「伊勢屋質店」で、樋口一葉が通っていたことで有名です。太線の描けるサインペン(COPIC ,MULTI LINER,Brush-S)と色鉛筆で10分以内で描いています。サイズはF-0。ここに関しては、塾生の酒井哲さんのレポートが次のページにあります(http://www.tachikawaonline.jp/back-sakai-01.htm)
近くに一葉の旧居跡も残っており、そのあたりの路地は谷中や根津、あるいは月島などと違い高低差があるため、都内でもおそらくここだけにしかない空間を形成しています。その他、近代和風の旅館や下宿屋などが残る本郷から西片に移ると、町の雰囲気が一転してお屋敷町になります。「江戸東京たてもの園」に移築された堀口捨己設計の小出邸跡の住宅には、「小出」の表札がありました。さらに進んで白山まで足を伸ばしたら、昔の色町の雰囲気を残す一帯を見つけました。細い路地に向かい合って並ぶ華やいだ意匠の店々。消防の問題などで、なかなか現代に残しておくのは難しいのでしょうが、少なくともあのスケール感を体に焼き付けておきたいと思いました。(絵・文;青山恭之)

update030630