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前川國男から
「埼玉県立博物館(現在は埼玉県立歴史と民族の博物館)」

 さる6月4日、地元浦和と大宮にまたがって、「前川國男の建築と埼玉の地域空間」という催しが開かれ、参加してきた。主催は建築学会の関支部埼玉支所。それに県や建築士会など関連団体が後援したものだった。2005年に生誕100年を数えた巨匠の回顧展が、昨年末から東京をかわきりに全国を巡回中だが、浦和と大宮に重要な作品を残した前川國男をこの地から考えてみようという試みだった。

 午前中、浦和の「埼玉会館」を、前川國男事務所所長の橋本功氏の案内で見学。僕の小学校3年生の時に、ふるさと浦和に誕生したこの「埼玉会館」こそ、僕にとっての最初の建築らしい空間体験だった。敷地の高低差を利用したアプローチ。ホワイエに降りていくと正面に広がる中庭。大ホールの圧倒的な空間量。裏周りの楽屋などをつなぐ迷路のような通路。舞台から客席を見た時の広がり・・・。かつて、ピアノの発表会で体験した「埼玉会館」は、その時まで全く体験したことがなかった建築空間だったのである。僕にとっての「建築」は、前川國男から始まった・・・。

 今回の見学では、ホールの内部までは見られなかったが、初めて、高層の集会室棟に茶室がある事を知った。階高の限られたなかでの躙口(にじりぐち)まわりなど、前川らしい実直さを感じることができた。写真下。
「埼玉会館」茶室
 午後は大宮の「埼玉県立博物館(現在は埼玉県立歴史と民族の博物館)」に移動して、見学とシンポジウム。このページ最初のスケッチは、1994年6月の日付があるので12年前のものになるが、印象としては今日の姿とほとんど変わっていない。設計から現場まで中心になって担当された中田準一氏の解説でグルリと見学する。特別に、二階のテラスに上がらせていただいて写したのが下のパノラマ写真。最初のスケッチとは、視線の方向はほぼ同じものの、視点が1フロア分高くなって、よけいに木々と建築とが融合して感じられた。既存の樹木を残し、建築はより控えめに、オブジェとしてというより、環境としての空間が意図されているのが良く理解できる。
「埼玉県立博物館(現在は埼玉県立歴史と民族の博物館)」二階テラスから
 場所を、同館の講堂に移してのシンポジウムは、ものつくり大学の八代克彦氏の司会で、4名の方々の講演と、引き続いてディスカッションが行われた。
 ・ 日本のモダニズムと前川國男 松隈洋(京都工芸繊維大学)
 ・    前川國男の空間と反モダニズム性 宇杉和夫(日本大学)
 ・   埼玉県の地域性と公共建築 樋口和男(埼玉県庁)
 ・    建築倫理と建築家前川國男 橋本功(前川建築設計事務所)

 それぞれに興味深い話が聞けたなかで、以外だったのは、樋口氏が、「埼玉の空間は、水辺が重要なのではないか」と言われたことだった。海無し県埼玉に、水は無縁かと思っていたが、実は利根川・荒川を始めとした河川や、その蛇行によって生まれた地形、また、水田を中心にした里山の風景があった訳だ。前川國男自身は、埼玉でそこに切り込んだ造形を残してはいないのだが、地域で景観や建築を考えていくのはどういうことなのか、課題は深く、興味はつきない。前川國男からの問いは、世紀を超えて、建築に根を下ろしている。(文・スケッチ・写真;青山恭之)