地場産のものの持つ〈ちから〉

6月の始め、群馬・秩父方面に行く機会をいただき、いろいろな刺激を受けてきました。そのうちのいくつかをご紹介します。



高崎市にある金井淵県営住宅(写真上)は、隣接する市営住宅と一体となって、周辺との調和を図りつつ開放的な町並み景観を形成しているところです。RH構法(木質ラーメン構造)による木造3階建てで、地場産の木材や瓦を利用しているなど、その他さまざまな試みがなされています。

ここで使われた十能瓦(じゅうのうがわら)の発祥は、江戸時代にまでさかのぼり、全盛期は明治末から大正のころ、薄い土の板の両端を少し折り曲げた程度で天日乾燥させたものを4時間ほど焼いただけの素焼きのものだったそうで、庶民の住まいや納屋や穀物小屋の藁に代わる屋根葺き材として広まったそうです。
その元祖の火は50年ほど前にすでに消えていましたが、20年ほど前に地元での公共事業に復活させようという声があがったことがきっかけとなって、新しい十能瓦が誕生することとなり今に至っているそうです。
その新しい瓦作りのメンバーのひとりである小林保さんの自邸(写真下)も、今回見せていただきました。
新しい瓦の開発は、まだまだゆっくりと続いていて、いろんな種類のいろんな葺き方が実践されていたりと、様々な見ごたえのあるお住まいでした。



家の内外に瓦の存在 かつて養蚕を行っていたころ、小屋裏で暖をとるために使用されていた火鉢。瓦と同じ材料で作ってあり、今では珍しいものらしい。


ものを余すことなく大事に使い切るという当たり前の行為が、意識しなくてはできなくなってしまった今日、できることから少しずつかたっぱしにやっていかなくてはと、少々焦った一日でしたが、地域の元気な素材たちに出会えて、自分の身の回りを振り返る良い機会となりました。

(写真・文;永田博子)