アトリエ・リング 一級建築士事務所

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崎津カトリック教会

昨年の7月から、「監査研究」という月刊誌に、1ページのコラムを担当しています。「建築、街に在り」というタイトルで、毎月一つの建築をスケッチ付で紹介しているのです。日本内部監査協会という社団法人が発行しているA4サイズ100ページ程のいわば業界誌で、内容は建築とは全く関係ないのですが、専門的な文章の合間の口直しに、他分野のエッセイを入れるというもの。この2月号のコラムを紹介します。(上のスケッチは、下の文章とともに掲載されたものです。)



建築、街に在り 〔スケッチブック、page7〕

崎津カトリック教会(熊本/天草)

(絵と文)青山恭之


熊本県天草下島の、東シナ海に面した西海岸。やや入江を入った崎津という漁村集落にこの教会は建っています。昭和9(1934)年、大工棟梁出身の建築家鉄川与助によって設計施工された鉄筋コンクリート造の建物です。西からの風と共に、キリスト教が直接伝わった、長崎・熊本の西海岸沿いには村の教会が多く、今でも信仰を培っています。その多くが村を見下ろす丘の上に建てられていますが、ここは、村の家々と同じ土地に礎を築いて建てられているところが注目されます。その土地はそのまま漁港に連続していて、まさに村の生活と同じレベルに信仰が根付いているようすが伺えるのです。外壁の色も落ち着いた灰色で、周りの家々と連続して見えます。

鉄川は、ここから遠くない大江という里にも教会を建てています。崎津より2年前の建築である大江教会です。こちらは、崎津と違って丘の上に独立して建てられ、外壁は真っ白に輝き、塔のいただきにはドームを載せています。この二つの教会を対比的なデザインとしたことに、鉄川がどの程度意識的だったかは今となっては知るよしもないのですが、崎津に関しては、彼が、漁村の景観の中での建物の見え方を注意深く扱ったであろうと想像できます。教会の軒の高さを抑えているので、家々の屋根の連続はそのまま教会の屋根にもつながり、そこから尖塔だけがすっと天を目指して屹立して見えます。

すでにある景観の文脈のなかに新しい物を造る時、その文脈を大切にしながら、新しい物が異物として排除されないように配慮しながら、新たな景観が創造されているのです。


また、このスケッチは、2月20日から25日まで神楽坂のアユミギャラリーで行われる「神楽坂美術塾展」に出品されます。神楽坂美術塾は、僕がデッサンの講師として関わっており、この展覧会は、講師連と塾生の作品展です。案内のハガキの画像(塾長の鈴木喜一先生の絵)をのせておきます。