アトリエ・リング 一級建築士事務所

home > column > 2009 > 02

monthly column

冬の山岳展望、八ヶ岳・上州武尊山

昨年の2月も、この月のコラムは、「冬の山岳展望」でした。今年も懲りずに、同じテーマです。この時期、少し遠出をすると、遠くの山が気になってしかたがありません。遥かな稜線のかなたに白く雪山でも見えようものなら、デジカメの望遠を最長にして撮影し、帰ってから、山岳展望ソフト「カシミール」で確かめるということになります。

上の写真は、1987年の冬、奥武蔵の丸山山頂(標高960m)の展望台から見えた八ヶ岳です。秩父山地を越えること70数キロ。かつて二度縦走した思い出の山並みが浮かび上がり、その姿は、神がかってさえ見えて感動しました。一眼レフに200ミリ望遠をつけて撮っているので、山の襞までよく写っています。カシミールで確認すると、下の画像のようになります。

さいたま市近辺から八ヶ岳を望もうとすると、秩父が大きく立ちはだかって見えません。ここのところ、ものつくり大や加須など、埼玉県北部に行くことが多いので、秩父の大きな山塊を避けて、八ツを拝めるのではないかと目論んでいました。地図で見ると両神山をかわせるかが鍵になりそうです。そこで、逆に八ヶ岳が見える地域を地図に示す計算をカシミールにさせてみました。それが下の図で、ピンクが八ヶ岳(赤岳)が見える地域。加須の現場のある多門寺地区はピンクになっているので、幾何学的には見えることになります。距離にして112キロ。吹上のものつくり大あたりは、両神山の陰になっています。こちらは104キロ。少し近いのです。

好機は、2月19日に訪れました。加須の現場で、午前中の仕事が終わったので、月見台に出てみました。西方向は隣の屋敷森などで見えにくいのですが、風で木が動いたすきに、両神山のすぐ右に白く光る山並みを確認できました。木の動きにタイミングを合わせながらとったのが下の写真で、2枚を合成してあります。高圧線の鉄塔をはさんで、赤岳と、横岳の南部分が白く見えています。

カシミール画像を添えます。

この日は、空気の透明度が高く、昼の時間帯でも遠くの山が良く見えました。現場から、加須市役所へのバスの中で、赤城山の右に白く見える山が気になったので、役所の5階、エレベーターホールの窓から写真を撮りました。

カシミールで確認したところ、上州武尊山(ほたかやま)です。

新潟へ向かう時など、赤城を右手に渋川から沼田が近づいてくると、右前方に、たおやかに裾野を広げる山塊が見えてきます。それが武尊山で、標高は2158m。深田久彌の日本百名山に選ばれています。その出だしの部分を引用します。

武尊をホタカと読める人は、山好き以外にはあまりいないだろう。山名は大和武尊(やまとたけるのみこと)からきたと言われている。前武尊(まえほたか)の頂上には高さ四尺くらいの銅像が立っているが、それは大和武尊を現したものである。

大和武尊の東征と山は縁が深い。碓井峠、四阿(あずまや)山、両神山、武甲山、神坂(みさか)峠、それから伊吹山へと、みなこの古の武将の言い伝えが残っている。そして武尊山に至っては、名前まで同じである。しかしここには伝説があるだけで、拠るべき旧記がない。(深田久彌、山の文学全集 X 「日本百名山」 朝日新聞社)

八ヶ岳を隠していた両神山の名が出てきました。古の武将の時代に思いをはせると、山を見ていながら、空間の広がりとともに、時間を旅する感覚に出会うようです。上州武尊山。加須からの距離は85キロで、この奥、もう一山越えると新潟です。(写真と文;青山恭之)