アトリエ・リング 一級建築士事務所

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金沢の一日

東の廓

さる2月24日、金沢で一日を過ごしました。この春のダイヤ改正で無くなる電車、夜行の急行「能登」号と、寝台特急「北陸」号に乗っておきたいというのが目的か、金沢の街を歩くのが目的か、まあどちらでもいいでしょう。行き・帰りが夜汽車で、ゼロ泊一日と数えるのか二泊三日と数えるのか・・・
 鉄道ファンのひしめく上野駅16番ホームから、ボンネット型の急行「能登」は23時33分に発車。長岡で向きが変わり、朝6時29分には、高架になった金沢駅に着きました。約20年ぶりで、駅前は大きく様変わりしていました。北陸新幹線を受け入れる準備が進んでいるのです。
 せっかく金沢に来たのだから日本海に触れたいと、金沢駅の新しい地下ホームから、北陸鉄道浅野川線に乗りました。初乗りです。かつて京王井の頭線で走っていた懐かしい電車に揺られ、20分とかからずに終点の内灘着。そこから歩いて、砂丘を越えて日本海にさわってきました。順光で青く輝く朝の海でした。あのあたり、新しい住宅が増えていて、金沢に戻る電車は、朝の通勤ラッシュでした。
 金沢駅でバスの一日乗車券を買って、東の廓へ。きれいに手入れがいきとどき、天気にも恵まれて、まるで映画のセットのように見えたのが、最初の写真です。

歩いて金沢城へ。以前は石川門を眺めただけでしたが、今回は復元整備が進んでいるとのことで、中まで入ってみました。

金沢城

上の写真で左から、太鼓塀、橋爪一の門、橋爪橋。後方左から、橋爪門続櫓、五十間長屋、菱櫓です。
 菱櫓は、直交グリッドではなく、菱餅のようにかしいだ平面で成り立っています。城全体のなわばりによる角度を、建築本体で受け止めた造形で、見事です。
 隣接する兼六園は、団体客など、大変な人出。この時期、雪景色を想像していたのに、春のような庭でした。

次に訪れたのは、日本基督教団金沢教会(下の写真)です。香山壽夫氏の設計で2002年に建てられました。内部も快く見せていただき、木を主調としたインテリアに、グリーンに塗られた鉄骨がアクセントをそえて、柔らかだけれど緊張感のある空間が実現していました。

香山壽夫氏の日本基督教団金沢教会

昼食を市内南部の野町駅のそばで食べ、寺町をぶらぶら歩きながら、犀川を桜橋で渡って、市の中心部にもどってきました。金沢21世紀美術館が、舞い降りたUFOのように見えてきました。

妹島和世氏・西沢立衛氏の金沢21世紀美術館

妹島和世氏と西沢立衛氏の設計で、2004年にオープンした話題作です。東側から近づいたのですが、道路より低い位置に床が設定されていて、ゆるやかにスロープを下りていくアプローチが新鮮でした。円という外形に、ランダムに四角い部屋を配し、フラットでニュートラルな空間がやわらかく繋がっていきます。一部改修工事が入っていましたが、構造・設備も含めて、限りなくディーテイルを消していく処理が徹底していて、恐れ入りました。

企画展で「オラファー・エリアソン ―あなたが出会うとき―」が開催中でした。人間の視覚のありように切り込んだ、興味深いものでした。

また、常設もおもしろく、下の写真、ジェームズ・タレルの「ブルー・プラネット・スカイ」では、日が西へと傾いていく時間帯、空の色のうつろいに魅了されました。

ジェームズ・タレルの「ブルー・プラネット・スカイ」

美術館を後に、武家屋敷のある界隈を歩きました。家々の塀は、雪に対する防御のための縄で編んだスカートをはいたようで、金沢らしい冬の景観がすばらしい。

武家屋敷の町並み

続いて訪れたのは尾山神社。和洋折衷の神社の楼門で、ステンドグラスが、落日を受けて輝いていました。

尾山神社

最後に、村野藤吾氏の若き日の造形、北國銀行武蔵ヶ辻支店です。昭和7年、加能合同銀行本店として建てられたものが、開発に伴って解体されそうになり、曳き屋をして、昨年春から保存利用が実現したものです。市内の中心部で、どんどんビル化されていくなかで、昭和初期の遺産を今に伝えています。

村野藤吾氏の北國銀行武蔵ヶ辻支店

金沢駅で夕食をとり、22時過ぎにホームに上ると、急行能登と寝台特急北陸が並んで、鉄道ファンたちのフラッシュを浴びていました。夜汽車の友とともにB寝台の下段に乗り込み、22時18分発車。一日良く歩いたので、よく眠れました。それでも外が明るくなってくると目が覚めて、6時2分ぐらいに浦和駅を通過、上野には6時19分に着きました。さらに浦和に戻り、通勤ラッシュで混みはじめた駅に降り立って、ハードな旅が終りました。(文・写真;青山恭之)