アトリエ・リング 一級建築士事務所

私たちは、さいたま市浦和区の設計事務所です。環境に向き合う住まいづくりを、お手伝いします。

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渋川の半日

本田貴侶先生の展覧会

彫刻家本田貴侶先生の展覧会が渋川で行われていて、最終日の5月20日に見に行きました。場所は、群馬県の渋川市美術館。駅から北西に10分ほど歩きます。ひとつの建物の中、一階に群馬銀行渋川中央出張所と常設展示室「桑原巨守(くわはら ひろもり)彫刻美術館」が、三階に市民ギャラリー件企画展示室が同居していて、その企画展示室を中心に、本田先生の作品が展示されていました。最初の画像は、企画展示室のパノラマ画像を二方向撮影したものです。

本田先生は、伐採された与野駅前の大ケヤキを、彫刻作品として蘇らせようという活動をされています。今回の展示は、ほとんどが原型をとどめる自然木と彫刻家自身による造形の格闘が赤裸々に表現されたものでした。「羽化」という言葉が多く語られているように、生まれ出ずる生命のイメージと、その裏に時間の止まったような死のイメージが隠れているような、イメージの固定を拒む力強い造形を感じました。

そして、一階の常設展示室、渋川の隣町沼田に生まれた桑原巨守の作品群は、郷土の風や太陽を感じるような、溌剌とした具象彫刻でした。

せっかく渋川まで来たのですから、まっすぐ駅に帰らずに、やや遠回りをして街を歩くことにして、美術館から北西に歩いて正連寺。ボタンで有名ということでしたが、ちょっと遅く、花は地面に落ちていました。


眞光寺本堂

さらに北西に歩いて眞光寺。こちらはアジサイが有名とありましたが、残念、早すぎました。重厚な本堂(上の写真)の他、多くの建物が個性的な伽藍を構成していました。


旧渋川公民館

今度は南に歩いてと、なかなか年期の入った近代建築を発見(上の写真)。地図には、旧渋川公民館とありましたが、金属製の扉には「北群馬信用金庫」の文字が。もとは銀行だったものを公民館に転用したようです。「渋川公民館は市第二庁舎一階に移転しました。長い間お世話になり大変ありがとうございました。新公民館にもお出掛け下さい。」と、貼り紙がありました。

駅に向かって、南へ東へと歩を進めます。渋川の街は、利根川から切り立った台地の上にあって、先程のお寺のあたりなど、大地を切りきざむ細流が地形を複雑にしていて歩いていても面白いのですが、駅周辺は再開発され、碁盤の目のような街区割りになって今っている上、時代を感じさせる建物が少なくて、ちょっとがっかりします。それでも駅にたどりつく直前に、素敵な建築に出会うことができました。カトリック渋川教会です。

カトリック渋川教会、南面

始めに目に入ったのがこの南面。緩やかな屋根とつつましい塔と煙突の表情に、ライト風を感じました。自由学園の建物に似ています。

カトリック渋川教会、東面

正面に回りこんで見た東面です。逆光で撮りにくかったのですが、右には、付属の幼稚園も写っています。マリア像の足元に、献堂25周年の碑があり、その1981年という記述から、1956年(昭和31年)の建築だとわかります。声をかけたのですが無人のようで、中を見せていただきました。

カトリック渋川教会、内部

屋根の高さを切り替えてハイサイドライトが作られていて、そこから様々な色の柔らかい光が落ちてきます。正面のニッチにも左右から柔らかい光が。50年以上の年月が内装の木の表情を落ち着かせていて、半日の旅の最後に、心温まる空間でした。 (写真・文;青山恭之)