アトリエ・リング 一級建築士事務所

私たちは、さいたま市浦和区の設計事務所です。環境に向き合う住まいづくりを、お手伝いします。

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黒川紀章の中銀カプセル

埼玉県立近代美術館に設置されたカプセル

1月16日、埼玉県立近代美術館の彫刻広場に、黒川紀章の中銀(なかぎん)カプセルが設置されました。新橋の現物の一階にモデルルームとして置かれていたものが、去年の六本木森美術館でのメタボリズム展の時、森タワーの足元に展示されました。本体の解体が決まり、展覧会後に行く当てがなくなったので、黒川さん設計のこの美術館に声がかかったといういきさつだそうです。

下は、六本木の時の画像です。

六本木にあったころのカプセル

内部のパノラマ画像も載せておきます。オリベッティのタイプライターや、浴室におかれたMG5などが、時代を感じさせます。

六本木にあったころのカプセル、内部

浦和に来てからの内部は、小物も無く、電気が来ていないので暗いのもやや残念。

浦和で展示されているカプセル内部

2009年に撮った全体像です。コアのタワーに錆が出ていて、いたいたしい姿でした。

新橋の街中で撮った、全体像

1972年の発表当時、万博を終えて、黒川紀章は最も輝いていた頃だったかもしれません。このカプセルに込めた意気込みが、文面からも読み取れます。

発表当時

増改築に確認申請がいらない限度の10平米というユニットは、トラックでの運搬も考慮したスケール。図面で見ると、容積率の上ではかなりスカスカで、レンタブル比の低さは、採算を度外視していたといえるかもしれません。でもそんなことを超えて、二本のコアに、140個のカプセルがキャンティレバーで取りつくという構成は、明快そのものです。6階・9階・12階でブリッジで連結されているあたりも、最低限の居住性を確保しようとしています。らせん状の階段の踊り場に住戸が接しているので、基準階でエレベーターから段差なしでアクセスできるのは、8戸の内半数の4戸だけ。残りの4戸は、階段を上がるか降りるかしなければなりません。でも、そのことでランダムな立面が構成されているのも事実です。

図面

かつてない形式の建築は、法規的にも、施工の面からも、実現までに多くの困難があったと想像できます。黒川のカリスマ性と、時代の勢いが立ち上げた記念碑だったともいえるでしょう。そんな時代を感じる贈り物が浦和に着陸したのです。(カラー写真・文;青山恭之)