アトリエ・リング 一級建築士事務所

私たちは、さいたま市浦和区の設計事務所です。環境に向き合う住まいづくりを、お手伝いします。

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SMF、「ああっと!ファクトリー」

部屋を着る 音を灯す おどりを編む

SMF(Saitama Muse Forum)で、「ああっと!ファクトリー」(共鳴する空間 詩・美術・建築・音楽・ダンス)という事業を行ないました。SMFが拠点を置いている埼玉県立近代美術館が今年で30周年を迎え、その記念事業のひとつとして、地下の一般展示室1という大空間を使った10月31日から11月4日までのイベントです。

これまで、この美術館と関わりながら展開してきた三つのムーブメントがお互いの活動を紹介しながら、相互に共鳴させるというのが趣旨です。一つは、「詩人の夢、ヒアシンスハウス」と題し、ヒアシンスハウスの会の構成で、立原道造の建築図面や模型・パステル画などを展示するスペース。二つ目は「芸術家コロニイの夢 グルグルハウス」で、グルグルハウスというアトリエを共有してきた9人のアーティストが、立原道造の詩にインスピレーションを受けてそれぞれ制作した作品の展示。三つ目が、SMFの運営委員が企画・構成した建築・音楽・ダンスのコラボレーション「部屋を着る 音を灯す おどりを編む」です。この三つ目の、特に会場構成を担当しました。

具体的には、段ボールなどで構成された、家具にも都市にも見える空間が、人々の参加によって日々変化・増殖し、会場などで採集された音や声が構成されなおしてスピーカーから流され、その空間で子どもたちを中心にしたダンスチームが踊って、最後に街を壊してしまうというものです。


ひみつきちをつくろう 1

近代美術館での展示の前に、空間構成の核づくりを、高砂小学校の「サタデーサポート」の中で行いました。お題目は「ひみつきちをつくろう!」。これに興味をもった子どもたちが多数応募し、抽選で60名ほどに絞って10月13日に開催されました。PTAのご協力によって集めた段ボールなど様々な素材を使い、子どもたちが秘密基地をつくりました。

子どもたちに求めたのは、「@じぶんがはいれること、Aそとをみるためのまどがあること、Bかいじゅうやうちゅうじんからじぶんをまもるつもりでつくること」の三点です。子どもたちは、夢中になって、自分の身体にそうように、世界から自分の空間を切り出していきました。興味深い作品が次々と生まれ、会場の生活科室には収まりきれず、廊下や、他の教室にもはみ出していったなかから、6・7名の「ひみつきち」を、トラックで美術館に運びました。

ひみつきちをつくろう 2

子どもたちの「ひみつきち」は、美術館の大きな展示空間に搬入してみると、ほんとにちっぽけに見えました。もちろんそれは予想されていたので、その子供たちのスケールを、展示室のスケールにつないでいくのが、僕たち建築スタッフの仕事でした。ここでは、三六版の8ミリ厚の段ボールを100枚用意し、1800×900と900角の二種類のユニットに切り込みを入れて、自由に組んでいける仕掛けを作りました。(三六という畳の大きさが、日本人の持っているスケール感に、とてもよくフィットするのが、組み立てていって再認識できました。)さらに、小包やポスターを送るための段ボール箱で、積んだり組み合わせたりしていけるパーツも準備しました。

子どもたちは、どんどん作っていく

大きな空間の骨格を展示の初日までに示しておいたので、オープン後、おとなから子どもまで様々な人々が関わって、日々、密度の高い「街」に成長していきました。高砂小学校でつくった自分の「ひみつきち」をさらに進化させに来てくれた子もいました。「街」には、指向性の高いスピーカーがしこまれていて、ある場所に来ると、ある音楽が聞こえてきて、その音も、毎日進化していきました。

段ボールの街

さて、最終日ラストのダンスです。テーマは、「かいじゅう・街に現れる!」。センダックの絵本『かいじゅうたちのいるところ』をモチーフに、15人の子どもたちが、SMFのメンバーと9月から練習を重ねてきました。会場に「はびこった」段ボール群を少し壁際に後退させて、子どもたちはかいじゅうになったように踊ります。おもしろかったのは、段ボールを「着て」踊るところ。身体から街が繋がって見えました。

部屋を着る

子どもたちが「ひみつきち」や段ボールの路地に隠れているあたりも面白かった。

ひみつきちに、潜む

そして、最後に段ボールの街を壊しにかかります。これが意外に、「あ、あっと!」いう間に、ぺしゃんこに! 構築にかけてきたエネルギーを考えると、いさぎよい程に、あっけなく崩れてしまいました。でもその瞬間、かけがえのないアートが発光したような気がします。

かいじゅう、街を壊す!

さて、最後になりましたが、今回のプロジェクトでの、僕側の問題意識を書いておきます。それは二つあって、ひとつは、身体と空間の問題。もう一つは住宅でのスケールの問題です。

身体と空間というのは、最近の私たちは、画面のなかに世界を見ることに慣れ過ぎてはいないかという疑問です。スマートフォンの普及もあって、二次元の画面のなかの世界とやりとりすることが、日常のほとんどの時間になっているような現代人も多いのでは。ゲームに引きずり込まれている子どもしかり。我々人間は、自分の身体(からだ)ごと、具体的で奥行きのある三次元の空間に関わって生きているのです。その中での身体と空間の関係が、希薄になってしまっているのではないでしょうか。

もうひとつのスケールの問題というのは、住宅での部屋という空間が均一になってきているということです。nLDKという言い方があるように、現代の住宅の多くは、部屋の数と都心までの通勤時間の関数で取引されています。nで表される個室は、おおかた6畳か8畳程度で天井高2.4メートル程度の箱にすぎません。その均一化された部屋のスケールを揺るがしたい。我々の現実の設計のなかでは、この問題は、内部空間を考えるときの大きなテーマです。

このふたつの問題は、実は繋がっていて、身体と空間との関係が希薄になった現代人が、均一なスケールの部屋に住んで問題を感じていないということなのです。そのあたりに亀裂を入れたくて、子どもたちに具体的な空間を造形する体験をしてもらい、子どもたちの身体的なスケールが、音楽やダンスとのコラボを通じて、固定化された大人たちのスケール感に振動をあたえないかという試みだったのです。