サインはV

キャラクター説明  
性別 キャラクター 性  格   
浅岡ユミ 主人公  表面はおとなしいが芯は熱血  岡田可愛さん
       
椿 マリ ライバル  自分が1番気質  中山麻里さん
 小山チイ子    立木大和のチームメイト ユミとなかよし  
       
ジュン・サンダース 立木大和のチームメイト  母に捨てられ寂しい、他人に対しては心を開かない  范文雀さん
松原カオリ 立木大和のキャプテン  信頼が厚く、優しい  岸ユキ
     
牧 圭介 立木大和の監督  表面は冷静、芯は熱血  中山仁さん
       
アナウンサー     羽佐間道夫さん
村田  椿マリの父の秘書   マリをお嬢様と呼び、慕っている  
医者  ジュンの病院の先生     
   
ナレーション  納谷悟郎さん
     
  その他 特殊名称など   
   立木大和 たちきやまと  ユミ達の所属するチーム名  
   大本竜子 おおもとりゅうこ     
         

2:3

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サインはV
おことわり
この作品は、1969年(昭和44年)の作品です。
劇中のバレーボールのルールは、その当時のものであり、現在のルールとは違います。
なお他、病名や方言などの表現は現代においては不適切と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、
当時の物を再現させてもらってます。

前  編
001


「サインはV・・・、監督、牧圭介の掲げたヴィクトリーの頭文字。
勝利を表すVサインを元に、全国から有名選手達が続々と立木大和へ集まった。

「キャプテン松原をはじめ、魔の変化球サーブと言われた、強烈なサーブの名手、浅岡ユミ。
その力、高校生ナンバーワンと言われ、スパイク、レシーブに抜群の力を持つ、椿マリ。
チーム随一の頑張り屋、東北出身の小山チイ子。
今や、チームになくてはならない存在となった、オールラウンドプレイヤー岡田キミエ。
関西出身の、ファイトの塊のような久保田サチコ。

6人のレギュラーをはじめ、立木大和は全員が一流チームを目指して毎日激しい練習に明け暮れていた」

「みんなよく聞け、俺たちの目標はもちろん全日本を制覇し、世界選手権を取ること。
しかし俺の言う勝利とはスコアではない。
いかにプレーしたか、いかに戦ったかだ。
Vサインの合言葉は、自分自身に勝つことだ。
お前たちのその若さと青春を掛けて悔いのない立木大和を作るのだ。

そのためにお互いがライバル意識を持って各々ファイトを燃やすのはいい。
よきライバルであってこそチームは強くなる。
しかしそれが、感情的なものでは絶対にいかん・・・、いいか?」
「練習後、ユミのもとにマリが駆け寄る」
椿 「浅岡さん・・・、さっきの監督の話、あたしたちへの当てこすりかしら?
でも、あなたには負けないわ」
005 ユミ 「マリさん・・・」
椿 「どんな所でも、エースはひとりよ、立木大和のエースは私よ」
「そう言うと、マリはその場から去っていった」
ユミ 「そう・・・、それだったら私だって負けない・・・、負けるもんですか

「立木大和の体育館、
部員たちはキャプテン松原のトスに合わせスパイク練習をしている」
010 椿 「キャプテン、もっといいトス上げてくれないと打てやしないわ」
松原 「えっ?」
椿 「スパイクが決まるか決まらないかはトスいかんに掛かっているんですからね」
松原 「わかっているわ、ごめんなさい」
「行くわよ、ファイト!」
「トレーニングが再開される。
ユミのスパイク練習になった、ユミのスパイクを見たマリが声を掛ける」
015 椿 「浅岡さん、もう一度ジャンプしてみてよ」
ユミ 「え?」
椿 「さぁ」
「ユミはマリに言われた通り、ジャンプしてみせる」
椿 「それしかジャンプできないの?」
020 松原 「マリさん、およしなさい」
椿 「これはチーム全体のことよ。
あなたを除いてあたしたちみんな、
ネット上40cm以上のジャンプ力を持ってるわ。
たとえ魔の変化球サーブがあっても、
あなたのジャンプ力じゃレギュラーとして失格ね」
ユミ 「なんですって?
マリさん、あなた一体、あたしに何が言いたいの?」
椿 「決まってるじゃない、
欠陥のある選手がひとりでもいたらチームは強くならないわ!」
「どうしたんだ」
025 椿 「監督! 浅岡さんのジャンプ力はあたしたちに比べて落ちます。
監督もそれに気が付いているはずです」
「だからどうしたんだ?」
椿 「レギュラーから外すべきです」
「それはオレが決める。
椿の言うように、浅岡ばかりでなく、
まだみんながウィークポイントを持っている。
それをこれからひとつづつ克服していくんだ。
そのためには、人によっては特別の訓練を命じるかも知れないが、
絶対にくじけず頑張るんだ・・・、いいな」

N 「翌日の休養日、選手は皆、それぞれの時間を過ごしていた。
マリは牧を誘うつもりで外出の準備をしていた。
その牧は、体育館に向かっていた。牧を見つけたマリはそっと追いかける。
牧が体育館に入ると、ユミがひとりジャンプ練習をし、思い悩んでいた」
030 「浅岡」
ユミ 「監督!
ダメ・・・、あたしはダメだ・・・、
人は、ネット上40cmは飛べるというのに、あたしは・・・・、あたしは!」
「さっ、これを履くんだ・・・、
もうすぐ関東選手権大会が始まる。
今日からこれを、このスパイクを履いて特訓だ」
ユミ 「え? あっ、重い・・・」
「それでジャンプ力を付けるんだ。
さぁ履け、履くんだ!
オレがいいというまで絶対に脱ぐんじゃないぞ」
035 ユミ 「・・・はい」  (半信半疑に)
N 「その光景を、体育館の陰からジッと見ているマリ。
彼女の眼に光るものがあった、そして足早にその場を去った」

「マリはその足で実家に戻っていた。
家では父の秘書である村田が車の洗車をしていた」
アナ
(村田)
「お嬢さんお帰りなさい」
椿 「パパは?」
040 アナ
(村田)
「昨日から軽井沢の方へ・・・」
椿 「じゃあ今日は村田、暇ね?」
アナ
(村田)
「はい」
椿 「じゃ、今日はわたしに付き合って」
アナ
(村田)
「はい、喜んで」
045 椿 「今日から当分、毎日よ」
アナ
(村田)
「はい」

「同じ頃、ユミは牧から手渡されたスパイクを履いて、牧の特訓を受けていた。
だが、鉛の仕込んだスパイク、ブラックシューズはユミのフットワークを完全に奪っていた。
いつもなら素早く簡単に反応できるボールにも、ユミは追いつけずにいた」
「どうした! これくらいでフラフラするな!」
ユミ 「(M) 負けるもんか・・・、負けるもんか・・・」
050 「どうした、どうした! そらっ!」
ユミ 「・・・・うぅぅぅ・・・、もうダメ・・・
こんな重いスパイク履いて・・・、あたしには出来ない!」
「さぁ立て! 立つんだ!
こんなことでくじけてどうする、
ジャンプ力がなかったらそれを自分で克服するんだ、おい!」
ユミ 「もうダメ・・・、あたしには出来ない!」
「浅岡! お前は何のために立木へ入った、
みんなにちやほやされてバレーボールでスターになりたいためか?
さぁ、立て! 
055 ユミ 「・・・・」
「どうした・・・、嫌ならやめろ、
お前が自分自身に勝てないのなら、何をやってもダメだ。
バレーなんかやめちまえ!」
「牧はその場から去ってゆく
その場に残されるユミ、ユミは悲しかった、取り残された気持ちになった、
このままでは置いて行かれる・・・、ユミは思い出した、
ユミは監督を追いかける」
ユミ 「監督・・・、すみませんでした。あたし・・・、忘れてました」
「え?」
060 「ユミはVサインを作って見せる」
「よーし、そのファイトだ、飯を食ったらまた続けよう」
ユミ 「いいえ! あたしひとりでやります」
「ユミは、再び体育館でひとりジャンプ力を付ける練習に励む」
椿 (ユミの回想)
「ふふふふ、それしかジャンプできないの? それじゃレギュラー失格ね」
065 ユミ 「(M)あたしはやるわ、自分に勝つためにも、そしてチームのためにも」
「己に勝つ、それがVだ。
ブラックシューズを履いて、いかに厳しく険しくとも、必ずこの試練に耐えるのだという決意に燃えてユミは来る日も来る日も頑張った。
そして関東選手権大会の日が来た」
松原 「がんばっていこうね」
「浅岡!」
ユミ 「はい!」
070 「その黒いシューズを脱げ」
ユミ 「え?」
「普通のシューズに履き替えるんだ。
そして思いっきりジャンプしてみろ・・・、
君は、今までとは違った身体になっているはずだ」
ユミ 「軽い・・・、軽いわ・・・」
「第1回戦、丸毛光学との試合、立木大和は浅岡ユミの縦横無尽の活躍によって大差で楽勝した。
ユミの活躍でチームは盛り上がり皆はしゃいでいた。
マリはそんな中に入らず、ひとり外へ向かう」
075 「椿、外出か?」
椿 「はい、門限まで必ず帰ります」
「わかった、なるべく早く帰って来いよ」
「マリはニコリと笑うと外出していった。
ユミ 「あ、監督、いまお呼びしに行こうかと思っていました。
とっても盛り上がているんですよ」
080 「おい、浅岡・・・、何か忘れていることはないか?」
ユミ 「は?」
「特訓だ」
ユミ 「あぁ、あれはもうジャンプ力がついたから・・・」
「馬鹿!

ジャンプ力がついたからそれでいいのか?
今日の試合に勝ったからそれでいいというのか?
バレーへの執念というものが、どういうものなのか、君はまだわかっていない。
そこの林で何が起こっているか、自分の目で確かめてみろ。
オレの言うことはそれだけだ」
085 ユミ 「・・・・・、林?」
「ユミが牧の言う林に行ってみると、そこではマリが目隠しをして、秘書の村田が投げるボールをレシーブする特訓をしていた」
椿 「村田! もっと強く! 強く投げるのよ!」
アナ
(村田)
「お嬢さん、今日はもうやめましょうよ」
椿 「さぁ、投げて!」
090 アナ
(村田)
「毎晩こんなことを続けていたら、死んじゃいますよ
椿 「あたしは命を懸けているのよ!
さぁ、投げて! 浅岡さんだけには負けたくない!」
ユミ 「(M) マリさん・・・


マリさん・・・、マリさん、あなたって人は・・・、
あのトレーニングからどんなプレイが?


マリさん・・・、あたしは負けた・・・、あたしは、あなたの情熱に負けた」


「やるわあたしも・・・、あたしも、新しい魔の変化球サーブを作り出す」
「マリの特訓を見て、ユミは新たな闘志と決意に燃えた。そのユミの練習を、鋭い目が見ている」
095 ユミ 「あたしもやる・・・、マリさんには負けない!」
「浅岡ユミと椿マリの激しいライバル意識は、立木大和に思わぬ戦力をもたらし、初出場ながら次々と強豪を倒し、ついに誰も予想しえなかった、関東女子バレーボール選手権大会の決勝戦に進出した。

「小高い丘、ひとりギターをつま弾く少女。その目は、ユミの練習を見ていた鋭い目の持ち主だった
その少女の頭上をジェット旅客機が飛んで行く」
ジュン 「アメリカ・・・」
「立木大和対ミカサの決勝戦が始まった。
大本竜子の殺人スパイクが立木コートに炸裂した。
点差はどんどん開いていった」
100 「いいか、今は向こうのペースだが、バレーボ―ルには波がある。
きっかけを掴むんだ。
がんばれ、歯を食いしばってここを乗り切るんだ。いいな!」
椿 「(M) いよいよあたしの出番のようね。見ていなさいよ、浅岡さん」
「大本のスパイクがユミを襲う」
「浅岡!」
「その時、ユミの前に現れレシーブする椿マリ、
それをうまくトスする松原、
そしてマリのスパイクが決まる。
あっけにとられる大本竜子、そして浅岡ユミ。
それは何度繰り返しても大本のスパイクはマリに拾われ、マリの速攻スパイクが決まる」
105 ユミ 「わかった、音、音だわ。あの目隠しの秘密はこれだったのね。目隠しをして音を頼りに追いつく。
相手がボールを打った瞬間の音で、どの方向にボールが飛んでくるかを見極める能力を養っていたのね。どんなボールでも受けられる力を・・・」
アナウンサー 「立木の反撃が続く、おっと大本竜子スパイクした! 椿回転レシーブでうまくこれを拾った。
さぁ、松原がトスを上げた、立木チャンスだ、椿スパイク! 決まりました!
立木大和に椿マリあり、見事なプレーです」
「マリの活躍で、立木は逆にミカサを圧倒していった。マリのプレーは満場を魅了していく。
ユミはジッと自分の出番を待っていた」
椿 「どう、浅岡さん、だいぶショックの様ね?」
ユミ 「あたしも負けないわ。見ていて、あたしの新しい魔の変化球サーブを」
110 椿 「うまく決まればいいけど・・・」
「ユミはサービスエリアに着いた、クルリと背を向け腕を回転させて大きく反転しサーブを打ち出す」
アナウンサー 「すごい! ものすごいサーブであります!
稲妻のように変化しながら急降下する、浅岡ユミの新しいサーブ。
大本、倒れました。
拾えません、全く拾えません。稲妻落としとでも申しましょうか?
おっと、大本は? 起き上がれません。立ち上がれません」
椿 「(M)すごい、素晴らしいサーブだわ。あの大本さんを倒すなんて・・・、
でも、あたしなら・・・、あたしなら受けられる!
アナウンサー 「浅岡ユミ、頑張ります。
連続5点をサービスエース。ミカサ、手も足も出ません。
さぁ、いよいよ立木、マッチポイントであります」
115 「立木大和はユミの稲妻落としで勝った。初出場ながら関東選手権大会に優勝したのだ


だが、最優秀選手賞はマリの頭上に輝いた」
椿 「(M)あたしは嬉しいはずなのに・・・、なぜ? なぜ?」

(記者A)
「これからの抱負は?」
アナ
(記者B)
「いま1番したいことは何ですか?」

(記者C)
「椿さん、感想を一言お願いしますよ」
120
(記者A)
「あぁ、それ是非聞きたいですね〜」

「数日後」
椿 「浅岡さん」
ユミ 「あっ・・・、どうしたのその恰好」
椿 「あたし、立木を出ていくの」
ユミ 「ええ? どうして? どうしてマリさん」
125 椿 「あたしが出ていくのは、今度こそあなたと正々堂々と勝負がしたいから」
ユミ 「なんですって?」
椿 「同じチームで張り合うよりも、
敵味方に分かれた方がはっきりと勝負が着くでしょう?
ユミ 「マリさん」
椿 「あなたの稲妻落としを見たとき、やっとそれが判ったの。
あなたに挑戦し、あなたに勝つことがあたしのVだって・・・。
必ず稲妻落としを破ってみせるわ。
全日本で会いましょう、その時こそ勝負よ」
130 ユミ 「マリさん!」

「椿マリは、立木大和から去った。そして関西の名門レインボーに入団した。
立木大和から椿マリの抜けた穴は大きかった。ユミとマリ、この二人の大黒柱を中心にチーム作りをしてきた牧にとって、これは大きな誤算だったのである。
ところが・・・」
ジュン 「このチームに入ってやろうかな?」
「ユミのサーブ練習を見ていた、少女だった。
突然押し掛けるように、しかも態度も悪い。
立木大和のメンバーからは非難の声が上がる」
「おい、どうしたんだ?」
135 ジュン 「あんたが監督かい?
テストしてくれないかなぁ?」
「いいだろう、テストしよう。誰かサーブしてやれ」
ジュン 「それなら、そこの浅岡って人がいいな」
ユミ 「(M) この人はあたしに挑戦している」

「いいわ、あたしが打ちます」
「ユミはサーブを打つ。それを難なく受ける少女」
140 「(M) 粗削りだが、素晴らしい運動神経だ」
ジュン 「なによこんなもん! 打ちなさいよ稲妻落とし」
「よーし、もういい。テストはおしまいだ」
ジュン 「どうしておしまいなのよ・・・」
「・・・、よかったらこのチームへ入ってくれ」
145 「少女の名は、ジュン・サンダース。
ジュンは立木大和のメンバーとなり、合宿へ入所したが、メンバーたちとは折り合いがつかず、打ち解けずにいた。
チームの練習にも参加せずに、ひとりで練習をしていた」
ユミ 「ジュン、どうして体育館に来ないの?」
ジュン 「ほっといてよ」
ユミ 「あなたはもう立木大和の一員なのよ」
ジュン 「だからどうしたっていうのよ」
150 ユミ 「みんなと一緒に練習すべきよ」
ジュン 「お断りよ」
ユミ 「なんですって?」
ジュン 「あたしはね、あんたたちみたいにお遊びでバレーをやってるんじゃないのよ」
ユミ 「お遊び?」
155 ジュン 「そうよ。
あたしのプレーを、あんたたちのお嬢さん芸と一緒にされたらたまらないわ。
嘘だと思ったら、勝負してみようか?」
ユミ 「勝負?」
ジュン 「あんたが稲妻落としを見せてくれたら、一緒に練習してもいいわ」
ユミ 「そんな!」
ジュン 「どう? やっぱり自信がないのね」
ユミ 「馬鹿なこと言わないでよ。あたしたちは同じチームメイトじゃないの、みんなで力を合わせて日本選手権を取るのよ」
160 ジュン 「怖いのね、あのサーブを破られるのが」
ユミ 「・・・・、誤解しないでよ、あたしはね、あなたの味方なのよ」
ジュン 「味方・・・・?
なにが味方よ、あたしはそんなものいらない、あたしはひとりよ!


あたしはひとりでここまでやってきたし、これからもやっていく、
あんた、わたしに同情してるのね? そうなんででしょ!
ユミ 「違う、そんなんじゃないわ」
ジュン 「行ってよ! あんたの顔なんか見るのも嫌だわ。
あたしはね、夢中になると何するかわからないのよ、
行けったら、行ってよ!」
165 ユミ 「違う! ジュン、違う、聞いてよ!」
ジュン 「行ってよ!」
「ジュンはユミを突き飛ばし、走り去っていく

チームメイトがジュンのうわさをしている。
チームワークが乱されるならばジュンはいらない。監督に抗議すべきだと声があがる」
椿
(小山)
「あたしたちがこれから日本選手権を取るためにも、絶対チームワークは必要だと思うんだな、キャプテンはどう思う?」
松原 「あの人の力は、もしかしたらあたしたちより上かもしれないわ。
あたしたちが目的を遂げるためには、あの人が必要なのよ」
170 椿
(小山)
「でも、チームワークがバラバラになっちまったら元も子もなくなっちまうよ?
やめてもらうべきよ」
ユミ 「ちょっと待ってよ。

あたしは反対よ」
椿
(小山)
「ユミさんどうして?」
ユミ 「あの人は、あたしたちに無いものを持っているわ」
椿
(小山)
「あたしたちに無いもの?」
175 ユミ 「そう、素晴らしい根性よ、負けじ魂、それをあたしたち、あの人に見習わなくちゃ」
椿
(小山)
「ユミさん、それは肩持ちすぎだな
わたしはあいつのひがみっぽいところは、絶対に好きになれない」
ユミ 「そんなこと言ってないで、あたしたちはあの人をこっちに引き寄せるのよ。
あたしたちのチームの中に引きずり込むのよ」
椿
(小山)
「そうだけど、向こうからシャッター降ろされたらどうしようもないじゃないのよ」
ユミ 「シャッターを降ろされたら、それを開けるのよ。あたしたちが開けるのよ。
やるわあたし、稲妻落としで、あの人に挑戦する」
180
「チームメイトが見守る中、ユミはジュンに挑戦した」

ジュン 「わるいわね、あなたの自信をつぶすことになって。

さぁ、打ちなよ!」
「稲妻落としが炸裂し、ジュンは吹っ飛ぶ」
椿
(小山)
「ジュン、大丈夫?」
ジュン 「平気よ、あんなもの」
185 椿
(小山)
「だめだ、やめたほうがいい」
ジュン 「うるさい!

あたしは受ける! 絶対に受けてみせるんだ!」
椿
(小山)
「ジュン!」
ユミ 「みんな、どいてよ、この人がやると言う以上、あたしはやるわ!」
椿
(小山)
「ユミさん」
190 ジュン 「受ける、受けてやるわ・・・、どいてよ!」
「ユミは打った、心を鬼にして打った
何度打ってもジュンは取れずに何度も吹っ飛ぶ」
椿
(小山)
「やめてユミさん、もういいだべ? もうそれでいいだべ?」
ユミ 「ジュン、あなたのため、あなたのために打つのよ」
「ユミはチームメイトの静止を振り切り稲妻落としを打ちつづけた。
そして、ジュンはついにダウンしてしまった
195 ユミ 「(M) ジュン、よく頑張ったわね」
「ベッドに横たわり泣いているジュン」
ジュン 「さぁ、打ちなさいよ! もっと打ちなさいよ!
・・・・・、負けた・・・・、あたしは浅岡ユミに負けた・・・、うぅぅぅぅぅ」

「翌日、牧がユミとジュンを呼び出す」
「お前たちはこれから特別訓練に入る」
200 ユミ 「特別訓練?」
「ふたりの持ってる力をありったけ出しあって、新しい技に取り組むんだ
この練習に耐えられるのはお前たちしかいないんだ。
頑張るんだ、この苦しみを乗り切って全日本選手権に勝ち、堂々と海外遠征の権利をつかみ取るんだ」
ジュン 「海外遠征?」
「そうだ、アジア、ヨーロッパ、アメリカを回る」
ジュン 「アメリカ・・・」
205 「どうした?」
ジュン 「本当なんだね、優勝すれば、本当にアメリカに行けるんだね?
「うん」
ジュン 「ユミ、やるよ
ユミ 「監督」
210 「頼むぞ浅岡、今度のプレーは君とジュンの心がぴったりと合わなければダメなんだ」
ユミ 「はい」
「ユミとジュンの、激しいトレーニングは続けられた。
その1週間は、二人にとって1年にも2年にも感じられる、苦しい戦いであった。
だが、彼女らは耐えた。


そして秘密兵器は完成した。
前編終了


サインはV
後編
001 「全日本への出場を決める、東京都代表決定戦がやってきた」
「あ〜、それから言っておくが、今度の大会では、浅岡とジュンの連係プレイは使わない。
ミカサの大本、レインボーの椿、きっとどこかで見ている。
だからこれはあくまでも秘密兵器だ、いいな」
「小野電機との第1戦、初出場のジュンは、思い切りのびのびと戦った。
2セットは簡単に取り、第3セットも優勢に試合を進めていった。
アナウンサー 「驚きました、素晴らしい足腰のバネです。ジュン・サンダース大活躍、
おぉ〜とまたスパイク決まりました!
見事なプレーであります」
005 椿 「なかなかやるわね」
「マリがTVで立木大和の様子を伺う、マリは新人ジュン・サンダースの動きに目を止めた。
立木の猛攻は続いた、そして場内の声援にジュンは次第に心の平静さを失っていた」
アナウンサー 「さぁいよいよ立木、マッチポイントであります。立木強い、まことに強い
「ジュンがちらりとユミを見る、それに気づくユミ。
ジュンの目が何かを言っている・・・」
ユミ 「まさか・・・

(M) ジュンいけない!」
010 「セッター松原にボールが渡る」
ユミ 「ジュン! ダメよ!」
ジュン 「レッツゴー!」
ユミ 「あぁっ・・・」
「いかん!」
015 「松原のトスに合わせ、ユミとジュンは前衛両サイドからセンターにジャンプ、空中回転から浅岡のスパイク」
アナウンサー 「お聞きくださいこの大歓声! 
素晴らしいプレイが生まれました。ものすごいトリックプレーであります。
空中でエックス型に交差しながら繰り出す猛烈なスパイク。
魔のエックス攻撃とでも申しましょうか?
まさに超人的なプレーでありました。立木勝ちました、立木勝ちました
ユミ 「(M)ジュン、あれほど止められていたのに・・・」
椿 「恐ろしいプレーだわ・・・、

でもきっと破る方法がある。今からなら何とかなる」
ユミ 「監督・・・、すみません・・、あたし・・・・」
020 「馬鹿者!

浅岡・・・、お前とジュンは明日から試合に出ることを禁止する」
ユミ 「え?」
ジュン 「監督、試合に出してくれないっていうの? 監督!」
「ダメだ。二人に責任を取ってもらう」
ジュン 「なによ、一度や二度あの秘密兵器を出したところで、あれを破る人間がいるわけないじゃない。
心配することないって!」
025 「うるさい!」
ジュン 「ふ、ふ、 ふふふふふふ・・・」
「何が可笑しいんだ!」
ジュン 「だってそうじゃないか、あたしとユミが抜けたら立木大和はガタガタよ。
全日本どころか今日の試合でおしまいってところね」
「思いあがるな!
いいかジュン、お前のその思い上がりが治るまで絶対に試合には出さん」
030 ジュン 「負けてもいいっていうのね!」
「勝つことだけがスポーツじゃない!」
ジュン 「今日負けた後でもそういってられるかしら?  フン!」
ユミ 「ジュン!
「ジュンはその場から立ち去る、追いかけるユミ」
035
ユミ 「ジュン!」
ジュン 「なによ、うるさいわね」
ユミ 「どこ行くの?」
ジュン 「どこ行こうとあたしの勝手でしょ?」
040 ユミ 「ダメよここにいなくっちゃ」
ジュン 「フン、止めったって無駄だよ」
ユミ 「あなたはバレーが好きなんでしょ? バレーを続けたいんでしょ?」
ジュン 「それがどうしたっていうのよ」
ユミ 「やるのよ、ここにいてバレーをやるのよ」
045 ジュン 「試合にも出られないのに何がバレーよ」
ユミ 「出られるわ、もう一回努力するのよ、ここで負けちゃダメ。
あなたにだって夢があるんでしょ? バレーに掛けた夢が・・・」
ジュン 「そんなもの・・・・」
ユミ 「ジュン!」
ジュン 「どいてよ」
050 ユミ 「どかないわ

じゃあ言うわ、なぜ出場停止になったか、あなたにはまだわかってないから」
ジュン 「あぁわからないね」
ユミ 「あなたは自分で自分の首を絞めたのよ。
あの秘密兵器は、あたしたち全員の夢である立木大和を優勝させるためにも、今は絶対に出してはいけないプレーだったのよ
ジュン 「それがどうしたっていうのよ・・・、
いくよ!」
ユミ 「待ってよ!


ジュン・・・、あたしにちょっと付き合ってくれない?」
055 ジュン (ユミの気迫に押されやや弱気に)  「なによ・・・、しつこいわね・・・」
「体育館へ向かうユミとジュン。
ユミはブラックシューズを差し出した」
ユミ 「これを履いて」
ジュン 「なによこれ?」
ユミ 「鉛が入っているの・・・、
ジャンプ力の無い私はこれで監督に特訓されたの」
060 ジュン 「ふ〜ん・・・、
自分たちのバレーがお嬢さん芸じゃないところを見せようってわけね。
なによこんなもの、やってやろうじゃない」
ユミ 「・・・、行くわよ!」
「ユミはジュンにホールを投げた。ジュンの足は重くレシーブ出来なかった」
ユミ 「どうしたの! 全然動けないじゃないの」
ジュン 「さぁ、投げなさいよ」
065 ユミ 「ジュン! あなたなら出来るわ!」
ジュン 「投げなよ、どんどん投げなよ」
「だが、ジュンは威勢とは裏腹に、全くレシーブ出来ないでいた」
ユミ 「(M) ジュン、何もかも忘れてボールにぶつかるのよ
このボールに、あたしたちの夢を掛けるのよ・・・、それがあたしたちのVじゃないの」
「激しい特訓は続いた、ユミは激を飛ばし、ジュンもそれに応えてボールを追った。
だが次の瞬間、ジュンは勢い余ってネットポストに激突する」
070 ジュン 「あぁっ!ううぅぅぅぅ」
「ジュンはネットポストに肩を打ち付けた。肩に激痛が走りジュンは苦しむ」
ユミ 「ジュン! ジュン、肩がどうかしたの?」
ジュン 「ほっといてよ!」
ユミ 「ジュン、ジュン!]
075 「ジュンを心配するユミ、ジュンは膝も擦り剥ていた」
ユミ 「あっ、血が!」
ジュン 「触らないで!」
「拒絶するジュン、ユミは心配のあまり弱気になった。だがかまわずに手当てをする。
ジュンの脳裏に幼き頃がよみがえる」
ジュン
(子ども時代)
「母ちゃんどこ行くの? 母ちゃん行っちゃやだぁ・・・。
ジュンを置いて行っちゃやだ・・・、母ちゃんジュンを置いていかないで〜!
母ちゃん痛いよ〜! 母ちゃ〜〜〜ん!
(泣きながら)母ちゃん痛いよ〜、血が出てるよ〜・・・・」
080 ユミ 「・・・・・・・・・・・・、
ジュン、ごめんね、あたしがいけなかったわ、ただ、ジュンに出て行ってもらいたくなかったのよ・・・。
あなたとお友達になりたかったの・・・。
でもよかったわ、傷が大したことなくって・・・」
ジュン 「(センチになってるジュン) ・・・・、ユミ・・・・、あたしわね・・・、あたしがバレーをやりたいのはね・・・、」
ユミ 「わかってる、みんな夢があるのよ。バレーに掛けた夢が・・・」
ジュン 「(ふと正気に戻り)  あたしは違う! みんなとは違うのよ!
ユミ 「ジュン・・・、どうしても行くの?
085 ジュン 「・・・・、合宿へ帰るのよ」
ユミ 「(安心して)  ジュン」
「気を取り直し、ジュンは合宿に戻った。

そして数日後、牧はユミとジュンを呼び出した」
「入れ

明日から試合に出ろ」
090 ユミ 「ホントですか?」
「お前たちを遊ばせておく程、うちのチームには余裕がない。
お前たちにとって、試合に出られなかったことがどれほど辛かったことか、オレが一番よく知っている。
これで処罰は充分だ」
「ジュンは黙って部屋から出ていく」
ユミ 「ジュン」
「いいんだ・・・、

いいんだよこれで・・・」
095 「出場停止が解けた、ユミとジュンの活躍は目覚ましく、立木大和は一歩一歩勝利の道を進んでいった。
しかし開きかけたジュンの心はまだ閉ざされていた。

決勝戦が始まった、この試合に勝てば立木大和は晴れて全日本選手権大会への出場権を獲得することが出来るのだ。
だが、立木はピンチだった」
アナウンサー 「立木ピンチ、立木ピンチであります。
大久保工業、いよいよマッチポイントを迎えます。
準決勝までは向かうところ敵なく、破竹の勢いで勝ち進んで参りました立木大和。
大久保工業にいよいよ敗れるか、セットカウントは2対2、得点は14対13。
あと1点を失えば立木大和は敗れ去ります」
「しきりに腕を回し、肩を気にしているジュン、それをみたユミは心配そうに声を掛ける」
ユミ 「ジュン、どうしたの?」
ジュン 「別に・・・」
100 ユミ 「痛いの? 肩・・・」
ジュン 「なんともないよ・・・、
それより、行くよ・・・、エックス攻撃」
「ユミの脳裏に、ネットポストに激突したジュンの姿がよみがえる」
ユミ 「まさかあの時に・・・」
アナウンサー 「さぁ、出るかエックス攻撃。
サーブが立木に入りました、おおっとエックス攻撃!」
105 「エックス攻撃に入った、だがジュンのことを気にしてユミが出遅れた」
アナウンサー 「おおっと、浅岡、エックス攻撃失敗です!
「ユミの失敗に気づいたジュンがカバーに入る」
アナウンサー 「やった、見事。
ジュン・サンダース、神業とも言うべき素晴らしいプレーで立木大和のピンチを救いました」
「だが、ジュンはその場に倒れ、肩を押さえ激痛に苦しむ」
110 ジュン 「肩が!」
ユミ 「ジュン!」
「試合は勝った、だがジュンは救急車で運ばれ入院することになった。

数日後、ユミは見舞いにジュンの元へ訪れた」
ジュン 「まったく、いゃんなっちゃうわ
何を調べるんだか知らないけど、検査、検査でさ」
ユミ 「肩、痛むの?」
115 ジュン 「もうなんともないのよ。それなのに医者の奴ったらムスっとしちゃってさ」
ユミ 「ごめんね」
ジュン 「何が?」
ユミ 「あたしのせいよ、ブラックシューズであんなことさせたから」
ジュン 「違うよ・・・、そうじゃないんだって、
もうすぐ退院できるから心配しなくたっていいんだ。
どこもなんともないんだもん。


・・・・・、それより・・・、ユミ・・・・、あの時、足の手当てをしてくれたわね」
120 ユミ 「ごめんね」
ジュン 「そうじゃないのよ、
・・・・・、すごく嬉しかったの・・・」
ユミ 「え?」
ジュン 「あたしが立木に入ったのは、お金が無かったからよ。それだけよ。
タダで、何とかしてアメリカへ行こうと思っただけなのよ。
・・・・、あたしのお母さんはね、アメリカ人と結婚して、あたしを捨てて行っちまったのよ。
そんな人だったのよ、あたしのお母さんは・・・」
ジュン
(子ども時代)
「母ちゃんどこ行くの? 母ちゃん行っちゃやだぁ・・・。
ジュンを置いて行っちゃやだ・・・、」
125 ジュン 「でもダメなんだよ、あんなお母さんでも、この世の中にはたった一人っきりしかいないんだもん。
・・・・会いたい・・・、会いたいんだよ・・・、うぅぅぅ(泣く)」
ユミ 「ジュン・・・、
やろうよ、やるのよ!」
ジュン 「え?」
ユミ (もらい泣きしつつ)
「優勝して、アメリカ行きの権利を・・・、この手につかむのよ。
そしてアメリカに行って、お母さんに言ってあげるのよ・・・、
ジュンはひとりでも、こんなに立派になって・・・、今、日本代表になって・・・、来たって、
堂々と胸を張って、お母さんにそう言ってあげるのよ」
ジュン 「ユミ・・・、」
130 ユミ 「ジュン・・・、
1日も早く良くなって、戻って来て・・・・、ね?   ジュン・・・」
アナ
(医者)
「あと、3か月しか持たないんだよ・・・・、
そういう結果が出たんだ」
「え?
・・・・・、ジュンの命があと3か月しかない? 先生、それは本当ですか?」
アナ
(医者)
「僕も今日、大学病院でのジュンの精密検査の結果を聞いて驚いたんだが・・・・、
骨肉腫と言えば、いわば骨に出来たガンだ。
それがどうして出来たか、どうしたら完全に治すことが出来るのか、現代の医学では解明されていない・・・」
「じゃあ、どうしてもジュンを助けることは出来ないんですか?
・・・、バレーなんか出来なくたっていい・・・・、
片腕を切断してでもジュンを助けてやることは出来ないんですか?」
135 アナ
(医者)
「残念ながら手遅れだ・・・・。
肉腫が、身体中に転移してしまっているんだ。
「ジュンの病室から、医者元に立ち寄ったユミは、その話を聞いてしまった」
ユミ 「ジュンは・・・、ジュンは死ぬんですか?」
アナ
(医者)
「浅岡君」
ユミ 「あたしが・・・・、あたしがいけなかったの・・・
140 アナ
(医者)
「なにを言うんだ浅岡君」
ユミ 「あの時、ブラックシューズなんか履かせて・・・、あんなことしなければ!」
アナ
(医者)
「キミのせいじゃない!」
ユミ 「でも、あの時!
・・・・、あの時ジュンは・・・、肩をぶつけて・・・、それでじゅんは!」
「違う!
・・・・、違うんだ浅岡」
145 アナ
(医者)
「ジュンの肩はね、骨肉腫と言って、ずっと以前から病気に侵されていたんだ。決してキミのせいじゃない。
・・・、いや、むしろそういうことがもっと早くに起きてればよかったんだ。
骨肉腫は、早期に発見することが難しい・・・、時には自覚症状もなく、まったく思わぬことから病気が発見されることもあるんだ・・・。
ジュンの場合がそれだ」
ユミ 「・・・・、そんな・・・・、そんなことって・・・・、ジュン・・・・、ジュン!」
ユミ 「ジュンが・・・、ジュンが・・・・、あのジュンが死ぬ!


ジュン・・・・、ジュン・・・、ジュン・・・・、」
「泣くな浅岡・・・、

さっ、練習だ」
150 ユミ 「ジュンはね。日本選手権に出ようとして・・・・、」
「そのジュンの為にも勝ってやろうとは思わんのか?

ジュンのことで嘆き悲しむことで、ジュンが喜ぶと思うか?
俺たちが今してあげられることは、ただバレーをやる事しかないんだ。
ジュンが出来なくなったバレーをお前がやるんだ。ジュンの分まで頑張るんだ」
ユミ 「無理よ・・・、あたしは・・・、、無理よ!」
「何のために今までお前は苦しい練習に耐えてきた。
あれはただ、試合に勝つためのトレーニングじゃなかったはずだ。
自分に勝ち、どんなに辛いことがあっても耐えしのぐ、そのためのトレーニングだったはずだ。
頑張るんだ浅岡、それがお前のVじゃないか。
今の自分に勝つんだ。必死になって練習し、この悲しみを乗り越えるんだ。
今お前がくじけたらジュンはどうなる。
お前がしっかりして、1日でも長くジュンが元気いてくれるよう祈ろうじゃないか。
なぁ浅岡・・・」
155 「全日本選手権大会の決勝戦。
今年度、女子バレーボールの覇者を決めるこの試合は、永遠のライバルと言われる、
立木大和・浅岡ユミ、レインボー・椿マリが、最初から激しくぶつかっていた」
アナウンサー 「素晴らしい試合になって参りました。まさに1点を争う好試合であります・・おぉっと浅岡ユミがスパイクした! 椿、回転レシーブでこれを拾った、さぁトスが上がった、おっとフェイントか? 決まったか? いや突っ込んだ、突っ込んだ、久保田が突っ込んだ、球が上がった、松原がトスを上げた・・、浅岡ユミがジャンプをしたスパイク!」
「病院では、ジュンがテレビで試合を観ている」
アナウンサー
(TV)
「椿、振った、椿マリ、また拾いました! 椿マリ頑張ります。さぁ、イージーボールが立木へ入った。
松原へボールが返った、短いトスが浅岡へ上がった、そこでクイック!

決まった、決まりました、浅岡の見事なクイック。レインボー受けられません。立木1点を加えました。
ジュン 「ユミ、その調子よ・・・、がんばって」
160 椿 「(M) 浅岡さん・・・、負けないわ・・・、試合はまだまだこれからよ」
ユミ 「(M)  マリさん、あたしも負けない・・・、お互いに全力を尽くして戦いましょう・・・、それがVよ・・・、
それがあたしたちのVよ」
アナウンサー 「立木大和対レインボー、試合の行方は全く判らなくなって参りました。
セットカウントは2対2、椿マリ、そして浅岡ユミの宿命の対決、お互いに譲りません。
さぁ、立木大和、浅岡ユミのサーブであります。出るか? 稲妻落とし」
ユミ 「(M) 行くわよ、マリさん」
「ユミはクルリと背を向け稲妻落としの姿勢に入った。
腕を回転させて大きく反転し、稲妻落としが打ち出される。
その時、マリはネットに向かって走る、タイミングを合わせジャンブ、ダイレクトスパイクでこれを受けた」
165
アナウンサー 「椿、受けました。あの浅岡の猛烈な稲妻落としを、椿、楽々と受けました。
さぁ、浅岡の稲妻落とし、レインボーには通用しません」
椿 「(M) 浅岡さん、あたしは受けたわ・・・・、稲妻落としを!」
アナウンサー
(TV)
「ここで牧監督、タイムの要求であります」
ジュン 「ユミ・・・、がんばって」
170 「最後の勝負は、技じゃない。気力だ。
無心になってボールにぶつかっていくんだ・・・・。
さぁ行け!」
「マリは、逆サイドのキャプテン磯田にサインを送る。
それに気づくユミ」
ユミ 「(M) なんだろうあのサイン・・・、
今度は何をする気なの? マリさん」
アナウンサー 「立木の岡田、サーブに入ります。打ちました、いいサーブです。
さぁ、レインボー田原、拾った」
椿 「行くわよ!」
175 ユミ 「マリさん、あなた!」
「椿マリは飛んだ、それは立木大和の必殺技」
アナウンサー 「エックス攻撃です。
驚きました、レインボーの椿マリ、そしてキャプテン磯田によるエックス攻撃。
さぁ、立木大和の選手たちは、ただ茫然としております。
無理もありません。故障・欠場のジュン・サンダース、そして浅岡ユミ、その二人によって作り出された立木大和のお家芸エックス攻撃。レインボーはそのトリックプレーをものの見事にやって見せてくれたのであります」
ジュン 「やっぱりエックス攻撃は盗まれたんだ・・・、
あたしのせいだ、行かなくちゃ」
「ジュンは起き上がった。だが肩に激痛が走り、悶え苦しむ。
無情にも、テレビで立木のピンチが実況される」
180 アナウンサー
(TV)
「立木大和、レインボーのエックス攻撃で完全にペースが乱された、さぁトスが上がった、またエックス攻撃です!」
ジュン 「ユミ・・・・、がんばって・・・・、今あたしが行く・・・うぅぅぅ・・・」
「ボールから目を離すな・・・、
いいな浅岡・・・、お前には拾える。エックス攻撃をやったお前には拾えるはずだ」
ユミ 「・・・・・は、い・・・・」
「よ〜し、行け!」
185 アナウンサー 「イージーボールがレインボーに入った、さぁまた出るかエックス攻撃!」
「ユミは、マリを追った、マリのジャンプに合わせ自分もジャンプした。同じタイミングでボールを追う・・・、
見えた、マリのスパイク、それをスパイクで返す」
「よし!」
アナウンサー 「やりました、浅岡ユミ、空中回転でついに拾いました。さすが立木のエース浅岡ユミ。
大熱戦、全日本選手権大会の決勝にふさわしい白熱したゲームになって参りました」
「立木は立ち直った、ユミは打った、打った、
そして試合はジュースジュースを重ね、サイドアウトが果てしもなく続いた」
190 アナウンサー
(TV)
「ようやく立木1点をリードしました。
得点は17対16・・・、浅岡、サービスエリアに立ちました。
さぁ出るか・・・、稲妻落とし・・・」
ジュン 「ユミ・・・、これで決めるのよ・・・、」
マリ 「(M) 受ける・・・、あたしは受ける・・・」
「ユミは稲妻落としを放った、マリはダイレクトスパイクでこれを受ける。
だか、立木大和の底力、岡田君江がこれを拾う、そしてそれを浅岡、ツーアタックで返す」
ユミ 「(M) ジュン・・・、勝った・・・、勝ったわよ!」
195 アナウンサー 「立木勝ちました、立木大和、チーム結成1年にして、見事初優勝を飾りました。
それにしてもよくやりました。浅岡ユミ。ジュン・サンダースの欠場を補ってよく戦いました。
見事、浅岡ユミ」
ジュン 「ユミ・・・、ユミ・・・、
ユミ 「監督・・・」
「よくやった」
ユミ 「優勝したんですね? あたしたち」
200 「喜んでるぞ、ジュンも」
椿 「浅岡さん・・・、

おめでとう・・・」
ユミ 「マリさん」
椿 「思い切り戦ったわ・・・、
負けても悔いはないわ」
「黙ってうなずくユミ、そしてふたりは固い握手をする」
205 アナウンサー 「ただいま最優秀選手が発表になりました。
最優秀選手は・・・、立木大和・・・、浅岡ユミ、浅岡ユミであります」

(記者)
「浅岡さん、おめでとう・・・、最優秀選手に選ばれたご感想は?」
ユミ 「これは、あたしひとりの物ではありません・・・、
チームメイトと、立木を支え・・・、あたしを支えてくれた・・・、
あたしの心の友・・・、ジュン・サンダースの物です」
ジュン 「ユミ・・・、

ユミ・・・、

ありがとう・・・、

(M) よかった・・・、お母さんには会えなかったけど、
あたしは、バレーをやって・・・、
あなたたちを知っただけで、
この世の中に生まれてきてよかった・・・・・・・」
「立木大和、背番号4、ジュン・サンダースは・・・、18歳の短い生涯を遂げた・・・」
210 ユミ 「ジュン・・・・、アメリカに行って・・・、あなたのお母さんに会って来る。
必ず探して会って来る。
「牧監督の前には、立木大和のメンバーをはじめ、レインボーの椿マリをはじめ、ミカサの大本竜子らが並んでいる。日本選抜チームのメンバーがなのだ。
牧は、みんなにVサインを作って見せる」
「なにもいうことはない、このVサインの意味を、お前たちが立派に生かして、世界選手権で戦うんだ。
・・・・・いいな。

さぁ行くぞ!」
おしまい