ヘリコプターの材料を利用したオヴェーションギターの開発

オヴェーションギターは、1966年に、アメリカのカマーン・コーポレーションが誕生させたギターである。当時、航空エンジニア関係の会社の社長であったチャールス・カマーンは、「政府相手の仕事以外にできること」をしたいと考えた。彼はブルーグラス・ミュージックの愛好家であり、自らがギター演奏者であったことから、新しいギター開発を行ったという。そして、ヘリコプターの材料であるリラコード製(特殊樹脂加工グラスファイバー)の丸い背面を持つオヴェーションギターを作り上げた。また、オヴェーションギターは、世界に先駆けて、ブリッジの骨板の下にピエゾ・エレクトリック・ピックアップを取り付け、胴には専用プリ・アンプを備えたエレクトリック・アコースティックギターも完成させた。

チャールス・カマーンは、マーチン・ギターの愛用者で、1964年頃、マーチン社を買い取ろうとマーチン社に接触したがうまくいかず、その後、別のギター・メーカーのハーモニー社にも接触したが、それもうまくいかなかったため、1965年から自ら制作するようになったという。カマーン・コーポレーションの持っていたヘリコプターの工場を利用し、工具もヘリコプターを作るものを転用した。最初はギターの胴のみを作り、背面も平らなものだったという。しかし、背面が平らだと胴に後から強化板を入れる必要があり、それを省くために丸い背面を取り入れたという。胴5本の試作・実験を行い、6本目でプロトタイプが完成した。

その後、1967年より、ギターの専用工場での生産が始まった。1980年代に入ると、演奏者の低価格のギターへの要望が高まり、韓国でも生産するようになったという。

オヴェーションギターは、表面板全体で音を出すことをねらいとして、独自に複数の響孔をつけたアダマスタイプの表面板についても研究した。弦振動が響孔の周りにそって伝わっていることに気づいたことから、ジャズギターのFホールについての音響特性の研究等もしたそうだ。結果として、ギターの胴の両端(Fホールのある位置)に中音域の音が集まることがわかり、その位置に穴をあけると効率的だと考えたそうだ。背面の丸さによる音の反射のデータからも、そこが音の出口としての位置が最適だとの結論に達したという。また、響孔は、面積が同じであれば、表面板の面積も変わらない設計とし、響孔どうしを中でつなげていくことで音域を広げることができたという。(Fホールの実験では、二つの穴が遠くにあるために、オヴェーションギターのコンセプトに取り入れるのは難しいことがわかったそうだ。)

オヴェーションギターは、表面板の振動を計測したり、出力を計る機材による分析を行ったり、様々な試行錯誤をして完成させたものだが、最終的な判断は、自分たちの耳で行ったという。最新技術は、理想のギターを作る手立ての一つとして位置づけられていたそうだ。

アダマスタイプのギターは、デザイナーが曲線に合わせてブドウの葉をイメージして作られたという。

オヴェーションギターの音色は、比較的、倍音が豊かで温かい音のするものが多く、どのフレットで押弦しても均質な音質で出音する印象がある。フレットも、エレキギターを想起させる、弾きやすさである。用途により、ディープボウル(深い胴のもの)とシャローボウル(浅い胴のもの)のギターがあるが、生音で使用するなら、ディープボウルの方が音量もあり音が深くもある。シャローボウルのものは、バンド演奏など、ハウリングを気にする場面ではとても有効で、演奏場面により使い分けられる設計だ。

革新的なオヴェーションギターは、フォーク・ソング・ブームが衰退し、市場が縮小していく中で、スチール弦アコースティックギターがバンド演奏等で生き残っていく一つの道を示したという面がある。エレクトリック・アコースティックギターにもかかわらず、1970年代以前のアダマスなど、オヴェーションギターのビンテージとしてファンから大切にされている。