海で溺れかける

その日、私は中学時代の同級生10人あまりとキャンプへ出かけていた。


場所は日本三景のひとつ宮島。


地元の人間以外にはあまり知られていないかもしれないが、観光街となっている桟橋周辺とは違い、島の裏手には海水浴場やキャンプ場がある。

ところが、そこからさらに峠を2つ3つと超えると、お世辞にも綺麗とは言えないような海岸がある。

シャワールームも更衣室もない、売店どころか自販機もない、仮設トイレがひとつだけあるというただの海岸。

そこは石や貝殻だらけの海岸だが、空き地にテントを立て、足場の悪い海岸で泳ぐ。

毎年私たちもそんな風に海水浴を楽しんでいた。





その日は海で泳いでいた。

家から持ってきたゴムボートに乗って3人が海に出ていた。

3人はずいぶんはしゃいでいた。






私は海岸でちょこちょこと泳いでいたのだが、ふと海へ目を向けるとボート組はずいぶんと遠くまで行っているようだった。



ずいぶん遠くまで行ってるなぁ・・・。

と、思ってるとボートに乗ってる3人がこっちに向かって手を振ってる。



「お〜い」



はぁ、元気だな〜あいつら



「お〜〜い」




一生懸命、手を振っている



わかった、わかった



恥ずかしいから、そういう子供じみたことするのはやめてくれ





「・・・・・・お〜い!・・・・・・」




あぁ〜もういい加減に・・・

「助けてくれぇ〜!」

は?( ̄o ̄;)





「お〜い!」







・・・・・・・






「お〜〜い!」







・・・・・・・











「おぉ〜い!助けてくれ〜!」

・・・・・・・・・流されていた(笑)・・・・・・




マジかよ




引き潮ではなかったが、西から東への流れに乗って、かなり遠くまで流されているようだった。

必死に岸に戻ろうとしている様子だが、どんどん流されている。



「あれ、やばいんじゃない?」

岸にいた一人がつぶやく。




仕方ないので、何人かで助けに行くことに。

とはいっても、かなりの距離だ。

各人浮き輪などを手に海へはいる。




私もビーチボールを片手にボート目指して泳いでいく。
(私は子供の頃はカナヅチで、この頃は一応泳げたものの、あまり自信は無かった)

このビーチボールがそもそもの元凶だった。(だいたい想像つくでしょ?)




で、何事もなくボートの元へ到着。

みんなで笑いながらボートを引っ張って岸へ向かう。





その時

スポンッ!

「あっ!」



大方の予想通り、私の手の中にあったビーチボールが滑り抜けてしまった。

あ〜あ、しまった。

「ちょっと、取ってくる。先に岸に戻ってて」

あのビーチボールは自分のものではなく、人から借りたものだから放っておくわけにはいかない。




幸いビーチボールは目の前にある。



泳ぐ




届かない





泳ぐ、泳ぐ






まだ届かない







泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ








いっこうに届かない










まずいなぁ・・・



私が1m泳げば、ビーチボールは1m流される。

私とビーチボールの間は離れず縮まらず。






ふと振り向けば・・・岸ははるか遠くへ・・・。





や、やばい



流れる潮、

遠ざかる岸、


そしてむちゃくちゃあせる俺




本気で身の危険を感じました。

一瞬躊躇した後、結局ビーチボールはあきらめて岸へ向かうことに。

借り物のビーチボールを紛失してしまうのは気が引けたのですが、それ以上に「キャンプに来ていた学生、海で流されて行方不明」などという見出しでメディアデビューするのは、もっと嫌です

その判断の甲斐もあり、何とか体力の尽きる前に岸にたどり着きましたが、そこは最初にいた海岸がまったく見えない岩場でした。

あのまま流されていたら、と思い今でもぞっとします。

やっぱり私の場合、海よりも流れるプールでプカプカ浮いてるほうが性にあってるらしい。

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