イエー!!! |
正直に言えば、今年は本気で期待していた。 いや、更に正直になるとすれば、10年くらい熱望しては、いる。 だが、未だかつて望みが叶ったことはなく、それでも捨てきれない幾許かの可能性と、「どうせダメだろう」という諦めが入り混じって、二月は毎年切ない季節となっていた。 だけど。 今年は例年とは違う。 なんせ、俺は今年頑張った。 冗談に見せかけることもなく、正直に本気でアピった。…いや、アピールは昔からしてたけど、今はその気合いが違う。誤魔化せないエリアに踏み込んで頑張った。 そして…、今年、願望が期待にまで成長したのには、きちんと意味がある。 感じるのだ。 手応えを。 これこそ、今までずっとなかったものだ。 解散して、エマを連れてくと公言したときの、エマのあの反応。 レコーディングのときの、あの真摯さ。 だから去年も本当は期待してたんだけど…、まだダメだった。 そこで俺は腹を括って、夏のツアーのリハーサルからこっちは、もう直接的表現に切り替えた。 とはいえ、まだその時点ではコクれてはいなかった。 …仕方ないじゃないか。そう簡単にコクれるほど、積年の想いは単純なもんじゃない。 だけど、可能な限り、エマ本人にも周囲にもアピったのだ。 まぁ、不覚にも忌々しい、新たなライバル出現という憂き目にもあったが。 でも、それでも手応えを感じた。 判る?この天にも昇る気持ち。 いやいや、どうせ仕事上のことだろ、っていう浅はかな考えは捨てていただきたい。今度ばかりは違うね。勿論それもあるが、プライベートに於いてもだ。 電話をかければ出るようになったし、メールアドレスを聞いてすぐは、めったに返ってこなかった返事も、最近では二回に一回は来るようになった。これはエマの面倒くさがり加減からすれば、驚異的なことだ。 その上、頻繁にマンションに出入りできる身分にもなり、ついこの間のリハ後なんか、なんとエマから「今夜、ごはんどうする?」と訊かれたのだ。 その瞬間の、一人でコサックダンスしそうな衝動をこらえるのに苦労した気持ちは、恐らく大勢の人に理解してもらえると思う。 だが、極めつけはアレだ。 俺の誕生日前日にあったイベントライブを、仕事でもないのに見に来てくれて、そのあと一緒に飲みにいけたこと。それからエマの誕生日にあったヒーセのライブにも一緒に行って、打ち上げもその後も一緒にいられたこと。まぁ、はっきり言ったら、仕事でもないのに一緒に誕生日?こんなの初めてだった。どっちにも二人だけでなく他人はいたが、そこに不満はない。それどころか、考えようによってはむしろ良かった。 バーニーと3人で飲んだときは、彼も大人だけあって「俺とエマの間の永年の絆」を気遣い、会話の端々で際だたせてくれる。それにバーニーは誰かと違って、エマを狙うなんていう不届きなことはしないので、俺は存分に浸れたということもある。 ヒーセんときは、THE YELLOW MONKEYメンバー全員をはじめ、昔なじみ大量って状態だったけど、そっちでは俺とエマは「今も一緒にやってる」という特別感が溢れかえってる。少し悔しそうなアニーに必要以上にそれを誇示するのは、今も昔も変わらない俺の娯楽だ。 そこに更にまだ背中を押される事件があった。 他ならぬ、エマ本人にだ。 ステージで、その場のノリで俺がMADさんとキスしたことを、 「お前は本当に誰とでもキスするよね」 と、ちょっと酔っ払ったエマが苦笑気味に言ってきたのだ。 えっと・・・なんて言えば伝わるかな。 それがね、本当に呆れてるんじゃなくて、ほんのちょっとの不機嫌が混じっててさ。 ま、判りやすくいうとヤキモチってやつ? それがね、見て取れて。 ―――――・・・舞い上がったね、俺は。 だからその場で言ったのだ。 「アレは違うでしょ。エマにするのとは」 と。 そうしたらエマは「ん?」って感じで俺の顔を見て、 「違うの?」 と訊いた。 そして・・・笑ったんだ。 もうね、嬉しそうに。 「そっか」 って。 Congratulation!俺っ! これが神の啓示でなくてなんだというんだ? 今こそチャンスだ。腹を括れ! 「だって、エ・・・エマは俺にとって、と・・・特別だから」 一世一代の大告白だ。 声が上擦ったのは仕方ない。大目に見てくれ。 エマはそんな俺をまじまじと見つめて、やがて小さく 「うん」 と言った。 ―――――・・・以上が、俺の「今年は願望でなく期待」という根拠だ。 俺たち、やっぱり両想いってヤツじゃない? 「・・・って、それを俺に言ってどうしろっていうんスか・・・」 電話の向こうで、嫌そうな声がくぐもった。 なんだコイツは。久しぶりに電話してやったのに。 「あのねー、吉井さん。だから、俺に言われても、今回俺、ツアーメンバーじゃないじゃないっすか。フォローもなんもできないでしょ?俺には」 「そう冷たいこと言わないでよ、あっくん」 そりゃ、夜中の3時に電話したのは悪いかもしれないけど、眠ってられなかったのだ。 明日は2月14日。 そう、俺は今年は本当に期待しているのだ。 長年夢にまで見た、エマからのチョコが、今年こそ!いよいよ!やってくるかもしれないと思うと。 「だいたい、他にこんなこと話す相手いないんすか?あんたは」 だが、あっくんはどこまでも冷たかった。 馬鹿を言うな。話さなかったわけがあるか。 「ヒーセは爆笑しやがって話になんないし、アニーは無言で電話切りやがったんだよ」 「・・・・・・・・・・」 あっくんは黙ってしまった。 「バーニーさんに言うのはなんか照れくさいし、柴田さんやシータカさんはまだ俺たちのこと全然気付いてないと思うし、ネギ坊に言ったら、先回りされる危険があるじゃないか」 だが、あっくんなら若いだけあって、こういう純粋な恋愛相談には乗ってくれると思ったのだ。 「・・・あのさぁ、一個つっこんでいいっすか?」 「何かな?」 やがて、あっくんは疲れ果てたように溜息をついて、俺が思ってもみなかった宣告をした。 「吉井さん、アンタ、告ってないっすよ?」 「――――――――・・・え?」 「特別っていうのは、ほら、アレでしょ?あんたたちはずっと一緒に活動してきたから、MADさんなんかとキスするのとは違うっていう、そういう意味でしょ?」 「は?違うよ、何言ってんだよ。俺はエマには本気のキスだってそういう・・・」 「だから、普通はそうは取らないって。MADさんは知り合い、エマさんは親友。そう取られたと思いますよ?」 俺の心に、ブリザードが吹き荒れた。 そんな馬鹿な。 じゃあ・・・俺のここ2ヶ月の浮かれ気分はなんだったんだ? でも、だってエマもすごく俺と仲良くしてて・・・ 「そんなの、前からあんたたち仲いいじゃん。見ててびっくりするほど。今に始まったことじゃあるまいし・・・。大体、エマさん男なんだから、もしも両想いでも、チョコなんかくれるわけな――――――・・・」 あっくんはまだ何か言っていたが、俺は呆然自失の呈で無言で電話を切った。 馬鹿な。 そんな馬鹿な。 俺がその夜、毛布の中でしくしく泣いたのは、もう皆さん察してくれると思う。 翌日。 15日の札幌に向けての移動日。 奇しくもバレンタインデー当日だ。 「吉井、おはよー」 って、エマはいつもどおり無邪気。何かくれる気配もない。 飛行機では少し離れた座席で、ネギなんかと楽しそうに喋ってる。 ・・・やっぱり・・・そうなのか? 俺はギリギリと歯軋りしそうな気分だった。 やがて、エマがトイレにでも行くつもりなのか立ち上がった。 俺は無意識にそれを目で追ってしまう。 だが。 エマはとことこと俺の座席のほうに近づいてくる。 俺の隣はいつものように空席だったから、エマはそのまますとん、とそこに座った。 「どうしたの?」 普段しない行動に面食らっていたら、エマはひょいっと指先を俺に差し出した。 「な、何?」 「いいから、口開けろ」 言われるままに口を開けたら、ぽいっと何かを放り込まれた。 カリ。 ・・・・・・・・・・え? これって・・・・・・・・・・・・チョコ・・・レート? 「エ、エマ・・・」 「なんか疲れてるみたいだったからさ。甘いもの食べたらちょっと楽になるんだよ?」 そんなふうに言って、にこっと笑う。 俺は思わず、人目もクソもなく、その場で抱きつきかけた。 ―――――・・・が。 「あれっ?エマちゃん、いいもの持ってるね」 「あ、ネギさんも食べる?」 わざわざエマのあとを追いかけてきやがったネギに、エマはまだ手に持ってたチョコを「はい」と渡す。 なっ・・・!ネ、ネギも貰いやがった! 更にその上、 「バーニー、いる?」 通路を挟んでバーニーにまで! 挙句に 「もうその箱、そのまま回していいよ」 ときた。 エマが持ってたチョコは、冷静に見てみたら、ただの市販の、普通の、コンビニで240円で売ってるようなチョコ。 あれは・・・ただのおやつだったのか・・・。 俺はその夜、かなり素でグレた。 メンバーにもスタッフにも誘われても飲みに行かなかった。エマに誘われても行かなかった。 この調子では、明日のライブはMCなんか一言もできないかもしんない。打ちひしがれて声も出ないかも。 北海道の皆さん、ごめんなさい・・・。 ライブ当日、流石北国という寒さ以上に寒い心を抱えて会場入りし、楽屋に足を踏み入れるなり、バレンタイン翌日ということもあって、ファンから届けられたチョコレートの山を視覚に捉え、恨めしくそれを睨みつけてたら、いつものようにご機嫌よくエマがやってきた。 「あ、やっぱり吉井のが一番多いね」 「・・・ああ、チョコ、ね」 ふん。多かったらなんだと言うのだ。っていうかこの上、ソロツアーで楽屋付けのチョコが他のヤツに数で負けてたらとことん落ち込むわい。 ・・・っていうか、既に気分はどん底ですけど。 だがエマは、そんな俺のやさぐれ切った表情を見て、くすっと笑った。 「拗ねてやがんの」 「何がっ?」 思わず食って掛かった俺に、エマはますます笑う。 「吉井って、こんな・・・」 「何よ」 「こんな、可愛かったっけ」 からかい口調に赤くなった。 そりゃ、大人気ないことは判ってるけど・・・。 ついそう言いそうになって、ふと小さな疑問が浮かんだ。 あれ? なんでエマ、俺が拗ねてること、察知してんだ? その理由を問いかける気配も無く? 「仕方ないから、そんな子供の吉井に、おくすりをあげよう」 そう言って、エマは俺に1枚の板チョコを差し出した。 いや、本当にそれは昨日のよりも更にランク下の、思いっきりチープな板チョコなんだけど。 ただ、そのパッケージには。 マジックで、『吉井へ』と書いてある。 受け取って、まじまじとそれを見てる俺に、エマはもう一度笑って、 「昨日俺がチョコ食べさせたのも、偶然だと思ってた?」 そう言うと、楽屋から出て行った。 数秒後、俺の楽屋から、廊下どころか会場にさえ聞こえそうな大声での 「イエーっ!!!」 という絶叫が響き、スタッフたちが何事かと慌て、それを見ていたエマがくすくすくすくすといつまでも笑っていたというのは、それから少し経ってから聞かされたことである。 いやー、あっくんにいらないことを言われて、すっかり俺は根拠のない不安に陥ってたんだな。 心配なんかする必要なかった。 やっぱり俺とエマは、世界最強の両想いだったのだ! end |
ボーイズラブの禁じ手、バレンタインネタ(笑) 2/8 ZEPP TOKYOの、あまりのラブラブっぷりの報告に、もはや妄想作家としてはこの禁じ手を使うしかない!と、メルトダウン1号、かおるちゃんと話していて、潔く書きました。しかも書いたのが2/9だからまだ未来だし。移動日いつか知らないし(笑) ただ、特筆すべきは、去年から今年にかけてのエピソードに、フィクションも沢山あるが、ノンフィクションもあることが、ロビエマの恐ろしいところだ・・・。 どうだ!ここまでやったら、流石に負けないだろう、本家! |