秘密


秘密にしていることがある。
誰にって、誰にも。
特に、当事者である兄貴と、それにひっついて回ってる狂犬男には知られてはいけない。

それは、俺たち兄弟がまだ穢れを知らぬ子供の頃。
兄貴もまだ小学生で。俺なんかまだ小学校低学年で。

夏休みの、暑い午後。

そのときプールに行ってた兄貴は知らないけれど、俺はその日はずっと家にいたから、お昼ご飯の素麺を食べながら、なんとなくついていたTVを眺めてた。
にぎやかなトーク番組が終わって、お昼のメロドラマになっていたのを、ちょうど台所に立っていた母親は気付いてなかった。

TVで展開していたのは、なぜかのっけから濃厚なキスシーンで。
俺はよくわからないままぼんやりそれを見てた。
すぐに母親が気付いてチャンネルを変えたけど、なんだかそれはとっても印象的なシーンだったので、

「あの人たち何をしてたの?」

って母親に聞いてみたら、彼女は少し困った顔をして暫く考えた後、

「大人になったら、大好きな人にすることなのよ」

と教えてくれた。

やがて夕方になって兄貴が帰ってきて、疲れ果てて居間で昼寝を始めた。
なんとなく俺も眠たくなってその横に寝転がって、兄貴の顔を眺めていた。
ふと、思い出したさっきのドラマ。
あの人たちもこんなふうに隣に寝てたっけ。

「大好きな人にすることなのよ」

とお母さんは言ってた。

俺は兄貴がちっちゃい頃から大好きなので、さっきのドラマのマネをして、兄貴の唇に自分の唇をくっつけてみた。

なんとなくほんわかした気持ちになって、その日の昼寝はとてもよく眠れた。


ずっと秘密にしてること。
実は兄貴のファーストキスを奪ったのは弟の俺なんだということ。
その強みがあるから、あの狂犬男と兄貴がいちゃこらしてるのを、笑いながら見てられるんだってこと。

誰にも知られてはいけない。
しかも、たまに。
今でも兄貴が眠ってるときに、ときどきキスしちゃってること。
そしてこれは兄貴は知っていることだけど、
本当にその中でもごくごくたまに。
兄貴がそれに気付いて笑って、軽くキスを返してくれることは。

あの狂犬男にだけは絶対に知られてはいけない秘密。

(まぁ、うちのお兄さんのことだから、あれは単に身内の過度なスキンシップなんだけどね)


end


アニーさん生誕記念、救済SS。でも微妙に報われていない気もする(笑)
Happy birthday アニー。君に幸あれ。

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