キラキラヒカル



「ほんっとにお前は地味だねぇ」

って、何回も何回もヒーセに言われてきた。

「ライブでもよぉ、いつも衣装用意してもらっても、気がつきゃ脱いでるし、オメェの写真だけ見ると、一瞬どのライブがわかんねぇのよ」

ファンクラブの会報用に写真を選んでいるときの話だった。
別に俺はそんなことは気にしないけど、ヒーセのみならず、ロビンも同じように「地味地味、華がない。兄貴はこんなに花ざかりなのに」と、その隣に座る兄貴の頭をくしゃくしゃ撫でた。

その行為以上に、兄貴がそれに、ふわんとした微笑を返すのが気に入らない。
でも、それよりも今は衣装の話だった。

「だってこういう俺がいいってファンの人たちは言うから」

反論しながらも、ちょっとだけ口調が不安になる。
そういえば、本当に俺の写真って同じ感じだなぁ。ライブショットなんかちょっと髪の毛が短いかとても長いか(それもたいした差ではない)くらいで、いつだって元気いっぱい。俺はそれでもいいと思うんだけど、それに比べて、他のみんなの写真は確かにバリエーションに富んでいる。

ヒーセは毎回さまざまな奇抜な衣装を着てるし、兄貴やロビンも表情豊かだし。
第一、みんなは動き回るけど、俺はどうしたってドラムセットから離れる訳にはいかないし。
バンツを変えたところで、そんなの滅多に見えるもんじゃないし、かといって上着を用意してもらっても、うざったくなってくるんだもんなぁ。自分でもいつ脱いでるのかわからないことあるもん。

気がつきゃ裸。いつもいつも。

そういや、風呂上りに上着ないでうろうろしてたら、兄貴に「アニーくん、ステージ衣装だね」とかってからかわれたこともある。

「やっぱり俺も、なんか衣装工夫したほうがいい?」

気弱になって聞いてみる。

ヒーセは
「そりゃそうだよ!オメェもよ、もっと華やかになれ!」
って発破をかけた。

が、ロビンは
「無駄無駄。そんなの予算の無駄遣い。どうせコイツ脱ぐし」
と、冷たい反応。・・・くそぉ。でも、「なんだと!」と怒れない、俺の実態。

真逆の意見を言う二人の顔を交互に見て、兄貴が折衷案を出した。

「じゃあさぁ、ボトムをなんかキラキラのにしたら?結構ドラムセットから立ち上がってるし、お客さんからは見えないかもしんないけど、写真とかなら判るじゃん」

「兄貴v 天才v」

俺は上機嫌でその案を呑んだ。

「とりあえず、次の衣装といえば、新曲のプロモビデオだな」

吉井がそのへんに置いてあった予定表を見ながら言う。

「あ、俺ねぇ、今度はこういうのがいいんだよ!」

写真のセレクトはうっちゃって、ヒーセは衣装の話に夢中で食いついてきた。
その主張を聞きながら、
「ヒーセ、すごい金かかるぞ・・・」
と吉井が呟けば、兄貴は兄貴で
「あのねー、今度のさ、ディスコ調じゃん。ミラーボールまわすでしょ。俺のギターもああいうのしたい」
と主張する。
「ええ?鏡みたいな素材でボディ作るってこと?」
「ううん。もっと目立つやつ。電飾とか!」
「ギター電飾にすんの?」
「うん。そんでサタデーナイトフィーバー!」
「おお!トラボルタ!エマボルタ!いいじゃんいいじゃん!」

みんな、すごい盛り上がる。
いつものことながら、衣装の話になると、俺は置いてけぼり。でも、今回に限っては俺の衣装もキラキラ作戦だよね?

「じゃ・・・じゃあ!俺もキラキラにしよう。ビデオだったら脱がないし、銀とか金とか」

俺の主張は、一応「ああ、いいじゃん!」って頷かれたものの、あっと言う間にスルーされた。

「俺もラメにしよっかなぁ。エマさん、そんなの好き?」
「いいよー。吉井、ラメ似合うし」
「かっくいい?」
「いいと思うよ。でも・・・スーツもいいなぁ・・・」
「ああっ!どっちにしよっかなぁ〜」
「両方作れば?」
「あ、そっかぁ♪」

「俺、ちょっとトイレ」
そんなタイミングで、俺は席を立ってしまった。思えば、これが運のつきだった。



そんな問題の新曲「MY WINDING ROAD」の撮影当日。
俺に渡された衣装を見て、流石に度肝を抜いた。

「・・・これ・・・」

渡されたのは。
見たことのない衣装。
こんな衣装でPV撮るアーティストは、確かに他にいないかもしれない。

マネージャー田中が申し訳なさそうに、
「いや、その・・・皆さんの主張を聞いてたら、衣装と装備だけですごい金額になってしまって・・・。それで、何か削ってくださいって言ったら、ヒーセさんは自分のは絶対譲らないっていうし、エマさんの電飾ギターは自分でさっさと発注しちゃってるし、吉井さんが『だったら削るもんはひとつしかないだろう』って言って。そこへエマさんが『英二の英二らしい面は出してやってね』と言われたもので・・・だんだんアニーさんの衣装が少なくなっていって・・・ついに・・・』

渡されたのは。
キラキラ光る・・・ビキニパンツ、一枚。

「おお、アニー!オメェいつもとなんか違う感じだぞ!どことなく、だけどよ」
「一皮剥けたな」
「さすが、よく似合うねぇ」

口々に褒め称えてくれるメンバーは、そろいも揃ってみんなキラキラ。
ミラーボールもキラキラ。
俺もキラキラ。

「・・・・・・・・。」

俺の衣装が変わり映えしないことの原因は、それを指摘したヒトタチの責任であることを、痛感した一日だった。



end



アニーさんのあのパンツは、実はすごく高価いらしいですけどね。「キラキラヒカル」で、真っ先にあのパンイチが思い浮かんだワタシは、随分ロマンティストだと思います(大笑)

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