息も絶え絶え


メロメロなのは自覚してるから、ホント勘弁してほしい。

気がついたら「彼氏」と呼べてしまうような男がいても、俺だって男だし、精神的にはその「彼氏」よりよっぽど男だと思うのに、なんでお前は時々こんなにずるい?

泣き虫でさ。
ヘタレでさ。
外で偉そうにしている反動か、二人になったら大概、「エマ、エマ」って甘えてばっかりのくせに。


しかも、ついさっきまで甘えたの吉井だったというのに。


何気なく一緒にTVを見てた。
大して面白くも無い深夜の映画。
面白くないもんだから、集中できなくて、退屈凌ぎに俺は雑誌をめくりながら、どっちも頭に入ってない。

だって、さっきから。
吉井だって集中してないもんだから。

指先がしょっちゅう俺に伸びてきて、まるでギターでも爪弾くように遊んでは離れてく。
触れるでもなく、離すでもなく。
今まで俺の髪を弄っていたと思ったら、今度は背筋を辿ってみたり。
その指がどこへ行くのかと思ってるうちに、そのまま抱き寄せられたり。
じゃあ、もうここが定位置でいいのかなって思ったら、ふっと離れて煙草に火をつけてる。

あのさ。
暇つぶしに触んないでよ。
失礼な男だな。

ムカつくもんだから、吉井の膝を枕にごろんと横になって、もうその顔が見えないように雑誌を高々と掲げてしまうと、あろうことか指先は俺のシャツの中に侵入してくる。
しかもすっかり開発された箇所を的確に弄ってくるから始末が悪い。しかも反応してしまう自分が腹立たしい。

「ちょっと、吉井・・・」

流石に抗議の声を上げると、吉井は喉の奥で低く笑った。

「だってエマ、さっきから映画も見てないし雑誌も読んでないし、意識は俺に集中してるんだもん」

「それはお前が要らないことするから・・・・・・・・・・」

文句と共に、睨んでやろうと雑誌を退けた。


ら。


吉井はとっくに映画なんか見ていなくて、俺に触れてないほうの、長い綺麗な指に挟んだ煙草を悠然と燻らせながら、穏やかな愛しげな表情で、ぴくぴく跳ねる俺を見ていた。

その仕草が、やたらと男として色っぽくて、不覚にも俺はうろたえてしまう。
だって、甘えん坊の吉井に俺が構ってやりたくなるのとは違う意味で、こういう吉井には、俺ホント弱くて・・・何かされたくなるんだもん。

「趣味悪いよ、オヤジ!」
「もう、エマ。可愛い顔して、可愛くないこと言わないの」

そんな余裕の口調で、俺をはぐらかそうなんて、なんて生意気。
コドモ男のくせに。
ヘタレのくせに。
なのにほんの僅かな愛撫で俺をこんなにしてしまうなんて、許せないって思うから。


ばしっと吉井の顔をめがけて雑誌を投げつけて、
「うわ、何すんの!」
って吉井が怯んだ隙に、その胸にダイブ。
抱きとめられたぬくもりの中で、もっとちゃんと触れて欲しくて、既に息も絶え絶え。

本当は二人になった瞬間から、抱きしめて欲しくて呼吸が苦しかったなんて。

俺って本当に素直じゃないね。



end



なっ…なんか、ほっぺたが痒い!どうしてくれよう、このバカップル・・・(笑)

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