NO TITLE



エマちゃんからのメールには、しょっちゅう長いタイトルがついている。
これが本文なんだろうかって思うときがあるくらい。

他の人ともメールするじゃない?そうすると、普通は『先ほどの件』とか『わかりました』とか『至急確認』とかってつけてくるじゃない?それか、『うーん』とか『それはさ』とか会話の書き出しみたいなヤツ。
もしくは『Re:○○』ってなってるやつね。最初コレ、なんでこんなめんどくさいことするんだろうって思ってたけど、返信ってボタン押したらこうなるのね。昨日知った。
俺がつけるタイトルは、なんかフザケたやつか、ご多分に漏れないタイトルが多いんだけど、エマは特殊だ。
えーっと、待てよ?
んとね、例えばね。おとといの。
タイトルが『こないだ言ってたクイーンのチケット取るんだけど』で、本文が『行く?』とか、
昨日のは、タイトル『明日は友達と約束あるから、悪いけど無理。明後日は泊まっていいよ』で、本文が『ごめんね』
って、アナタ、タイトルと本文と、ボリュームが逆でしょう?って感じ。
これはエマ曰く、
「タイトルのトコに間違って用件書いちゃったんだけど、書き直すのめんどくさいんだもん。でも本文もなんか入れなきゃ変だからさ」
ってことらしいんだけど・・・。
ふふふ。
俺に伝えたいコトが溢れちゃってるのね?だから先走っちゃうんでしょ?カワイイ人だ。(思い込むというのは重要なことだ)

ただねぇ、エマちゃん。
こういうのばっかだと、本文見る楽しみがないじゃない?
それにさ、俺たち今、絶賛ラブラブ中なんだからさ、用事以外のメールもたまには送ってきなさいよ。
―――――って言ってみたのよ。

そうしたらさ。
なんて送ってきやがったと思う?エマのヤツ。
タイトル『大事な話』。
どきっとするじゃない?
だから慌てて本文見たら書き出しからして『今の吉井にこんなこと言うのは、本当に悪いと思うし、申し訳ないと思う』・・・なんてさ!流石に冷や汗かいたよ。次の文章を見たくないような・・・心臓バクバク状態よ。そしたらご丁寧に改行を二つあけた挙句、なんて書いてあったと思う?
『すきやきには、モヤシは入れるべき?』
投げたね。俺は、携帯を。それはエマ、今夜エマが用事あるっていうから、ちゃんと『じゃあ俺は仕事してるからいいよ。楽しんでおいで』って優しくお返事しておいて、オフだってのに一人寂しくスタジオに篭った俺への嫌がらせか。くそぅ、しかも友達とすきやきかよ。しかも文面からして自宅!?ってことはオンナ?っつーか、ヤローでも許せない。エマと自宅でナベなんて、本命の俺ともやんないのに!

用事以外のメールって、そういうんじゃないでしょう?
嫌がらせとか悪戯とかじゃなくてさ、もっとこう・・・甘い感じのさ。ねっとりとしたのがあるでしょう、普通!

珍しく返事しないで朝まで抛っておいて、ふと投げっぱなしのソファの携帯を見たら、メールの着信表示があった。
シカトしようかと思ったけど、気になるから見てみたら、やっぱりエマからだった。
あのメールの1時間後くらいに送信したらしい。
タイトル『吉井が返事くれないから、モヤシ買わなかったからね』
・・・・ん?
本文『もし入れるんだったら、明日自分で買ってきなよ』
あれ?
すきやきの話題は、昨夜の友達との食事のメニューじゃなくて、今日の俺らの晩御飯の話だったの?・・・って、あんな思わせぶりな書き方で、用事だったんかい!更に、モヤシなんか、どっちでもいいわい。

ほっとしたのと楽しくなったのがあって、いそいそと電話をしようとしたけど、発進履歴の『エマちゃん』の名前を見てるうちに、ふと思いついてメールにすることにした。
タイトル『俺からも確認』
本文『仕事してて返事できなかった。ごめん<m(__)m> そのかわり、今夜は寝かさないからね、ハニーv。
ねぇエマちゃん 俺のこと好き?』

こうしておけば、きっと。
一晩抛っておかれたエマは、また勢い込んで、タイトルから『好き』とか入れてくんじゃないかって思ってね。
そうしたらさ、これ保存しとけば、どんなに忙しいときでも、タイトル見るだけで元気になれるじゃんって。

だけど、暫く経って戻ってきた返事には、タイトルがなかった。
「あれ?」
『Re:』さえもない。
本文開けても、そこにも何も書いてない。
勢い込むあまりの空メールか?とも思ったけど、その後、メールは来ない。
アテが外れて、がっかりしながらさっきの空メールを眺めつつ携帯をいじってたら、なんかどんどんページダウンしていけることに気がついた。
「なんだこれ?」
どんどんどんどん下がっていける。
空白部分がずーっと続いて、いい加減疲れてきた頃、現れた文字を見て、目を瞠った。

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送信者:エマちゃん
件名:
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[本文]
















好き
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・・・・・やられた。エマちゃんってば、ホント、なんでもかんでもお見通しなんだから。
しかもこれってさ、なんか、勢い込んでるより更に可愛いじゃない。
あー、もう。
なんて饒舌なNO TITLE。

これじゃ夜まで我慢できない。
モヤシ買って、このままエマのもとへワープしよう。



end



エマからのメールは独特だと、吉井が言っていたので・・・。
あー、二人の交わしてるメールを覗き見してみたい。

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