さみしい



エンジンをかけたのに、一拍遅れて、カーラジオが音を出した。
知らない曲の、ちょうど間奏にさしかかったあたりだった。

別に気にも留めずに、シートベルトをつけて、発車する。

今日の予定を考えながら、ふと、流れている曲に気を惹かれた。
控えめなバッキング・ギターに被さる、独特の溜めを含んだリフの音は、俺が好きなスタイルだった。


シンプルだけど、兄貴みたいな弾き方するギタリストだな・・・。


何となくそんなことを考えた・・・というか、そこまではっきり言葉にして考えたわけでもなく、ポンと浮かんだインスピレーションみたいな、ふとした感覚だった。


そういえば、暫く会ってない。
兄貴にもだし、ロビンにも、ヒーセにも。


解散したての頃は、ベスト盤のこともあって、休止中より却ってマメに連絡をとっていたというのに、流石に最近はそれも途切れがちだ。
あんなにべったりだった兄貴とも、たまに電話をするくらい。

そういえば・・・。

兄貴が参加したって言ってた、ロビンのアルバム、そろそろ発売だったっけ?



そこに思い至ったとき、丁度曲はサビに突入した。



あれ。
これ・・・?



耳慣れた声は、ついこの間まで俺のドラムで歌っていた男のもの。
ということは・・・。
このギターは、やっぱり・・・?
俺のドラムで弾いていた男のもの?



兄貴のギターと交じり合う、ロビンの歌う歌は、かつてのようなねっとりしたラブソングではなかった。



耳に馴染んだラブソングではないけれど。
けれど、その音は、長年の慣れが産み出す以上の親密さで絡み合っている。
――――なんて、気持ちよく鬩ぎあってるんだろう。



解散したあとも、一時的なのかもしれないとはいえ、兄貴を連れて行ったロビンの『俺とエマはバンドのコンディションからひとつ抜けてて、既に次のステージという感じで』っていう持論を、イマイチ納得しきれてなかった俺だったけど、これが・・・これが、そうなのか。



ロビンの歌も。
兄貴のギターも。
かつてのものとは、変貌している。

そしてそれは、明らかに意図的な変貌。
計算でそうしたというよりは、この曲の表現のために変貌している、そんな、アーティストとしての器用さを兼ね備えた変貌。



はは・・・。
そういうこと、ね。



あの二人ってば、生き方においては、笑えるくらい不器用だっていうのに、こういうのってさ、もう・・・音楽バカっつーか・・・いいよね。すごく好きだよ、二人とも。



「あーあ・・・さみし・・・」



なんていうの?
寂しいじゃん?
認めちゃってるよ、俺。
はは、そうだよ。寂しいよ。


今、違うとこ歩いてるんだなっていうのが、身に沁みた。


「やってやるか・・・」


独り言の、軽い決意表明。
寂しいままなんて、嫌だからさ。

負けてらんねぇよね、俺も。



「今に見てろ?」



『YOSHII LOVINSONでした』


DJの声をきっかけに、ラジオを切って、今聴いた音を忘れないように、俺は大きく息を吸い込んだ。



end



解散連作、アニーだけ書いてなかったな、と思って。WHITE ROOM発売記念。
よしーのアルバム、1stが『ブラック』で、2ndが『ホワイト』で、なんとなく自分ちのサイトを連想した私でした(笑)。3rdが『おもちゃ箱』だったら運命なのに(笑)

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