許さない |
店内に入って、割り箸が足りなくなっていたことを思い出して雑貨の棚を探していたら、友達が 「あれ?あそこにいんの、お前の兄貴じゃない?」 と話しかけてきたので、彼が促すお菓子の棚のほうを見ると、そこにいたのは確かに兄貴だった。 なんだ、兄貴帰ってたんだな。 次の瞬間、見えていた兄貴のふわふわ頭が、すっと下がって消えた。 棚を回りこむと、兄貴はチョコの前でしゃがみこんで、手に取った二つの新製品のパッケージを、何やら真剣に見つめている。 ・・・・迷っちゃって。かっわいい。 心の中では、感想は手放しだ。つい表情にも顕れ、自然と頬の筋肉が緩む。 「あに・・・」 声をかけようとしたときだった。 ガーっという自動ドアの開く音に、条件反射で目を向けると、意外な男が入ってきた。 ――――・・・ロビン? なんでロビンが、こんな俺らの地元のコンビニにいるんだ? 俺の疑問を他所に、ロビンはまっすぐお菓子コーナーにやってくる。 俺は何故か、咄嗟に棚を回って姿を隠した。 「あった?煙草」 兄貴の声。 は?一緒にいた訳? 「あったあった。外の自販機に」 ロビンもごく自然に受け答えしてる。 変なの。一緒に遊ぶほど仲良くなかったのに、この二人。 それどころか、ついこの間まで、ちょっとギクシャクしてたくらいだったのに。 「何?エマちゃん、まだチョコで迷ってたの?」 「だって、こっちのコレ、この間買ったら美味しかったじゃん」 「だったらそれにすればいいじゃない。俺もそれ好きだし」 「そうだよね。吉井、コレ随分気に入ってたもんね。・・・あ、でも、こっちはまだ食べたこと無いんだ」 随分・・・仲いいな。どうしたんだ?それに、実は二人でよく会ってるのか?なんかそんな口振りだけど。 「両方買う?」 「太っちゃうよ」 「だったら、俺がコレ買うから、エマはこっちの買ったら?」 「同じでしょ、それは」 そして二人でくすくす笑ってる。 なんか変だぞ? なーんか、妙に甘ったるい空気を感じるのは・・・気のせいか? いや、気のせいだ。うん。仲良くなったんだから、たまたまこうして遊んでるだけだよな。 「やっぱ、こっち。この子がお気に入りになるかどうか試したい」 「あとで文句言わないでね?」 「言わないよ」 「どうかなぁ?『よしー これいらないー』とか言わない?」 「・・・それはコイツの実力次第」 「あ、実力本位なんだ」 「当たり前でしょ」 「判った。俺も頑張る」 「は?」 「チョコには負けらんないでしょ」 「・・・何言ってんの。・・・バーカ」 何の実力だろう?・・・・や、きっとバンドだな。そうに違いない。祝・兄貴正式加入って訳だ!・・・・でも、チョコに負けるって? 「・・・っと、本来の目的を忘れるとこだった」 ロビンは立ち上がり、何と俺のいる、生活雑貨ほうの棚に入ってきた。兄貴もチョコを手についてくる。 まだ俺には気づかない。 気付かないで、二人は、チョコと似たようなサイズの箱を手に取った。 !!?? ここは、生活雑貨の棚。 微妙なセンスのあの派手な色合いの箱は、大人なら当然察しがつく物体のような気がする。 いや、まさか。 んな訳ないだろう? おにーちゃーん、それはチョコじゃないですよー? だって普通、アレは男二人で買いに来るようなものじゃない。 「あ、待って、エマ。こっちのほうが薄い」 ああああっ!でも間違いないか?間違いないのか? 俺は脳内で、何とか事態を収拾させようと設定を考えてみた。 そうだ。きっとアレは、たまたまロビンの私物として買うんだ。 ――――でもさっき、本来の目的と言っていた。 あ、じゃあ、多分女の子が一緒なんだ! ――――待て、それじゃ乱交になる。 しかも、さっきウチの灯りがついていた。だとすれば、二人のこれからの行き先は、うちの家だ。仮に乱交する気でも、自分の実家ではしないだろう、普通。 色々考えてみても、結論はどうしてもひとつの答えに辿りつく。 二人が男女だったら自然にそこに結びつく。 家族の留守に、彼氏(もしくは彼女)を家に招いて、初めてのH―――とか、なんか・・・そうとしか見えない・・・。 どういうことよ、兄貴ィ・・・。 生まれつきの女好きなくせに・・・。 そりゃ、ロビンはキレイかもしんないけど、あんたと同じ体の構造なのよ? 「えー・・・?でも、それジェル少なくて痛いんだもん」 「大丈夫だよ。優しくするから・・・」 「嘘ばっかり」 「この前だって、優しかったでしょ?俺」 「そうかなぁ?」 !!!!????? 初めてじゃない!? しかも、うっすら予感はしてたけど、兄貴が痛いほうか!? 痛いのキライな癖に―――――・・・!! 瀕死の状態で、何とか二人に気付かれないように隣の棚に回りこんで、俺はぺたりと座り込んだ。 今見つかったら、何を言うか判らない。 てめぇ、人の兄貴に何をする気だ?ナニをする気か!って、もう既成事実だし・・・。 っていうか、家の近所のコンビニに、男二人で堂々とそんなもん買いに来んなよ!っていうか何だそのあからさまな会話は!っていうかそもそも実家に連れ込んでやんなよ!っていうか仲良くなってくれとは思ったけど、そこまで仲良くなってんじゃねぇよ!っていうか、いつの間に仲良くなったんだよ! 俺の兄貴だぞー!!! 込み上げてくる怒りが、何に起因してるのか判らないまま、「ロビン、許さん」と呟いた。 しかし、時既に遅し。 意を決して顔を上げた俺の目に飛び込んできた光景を見て、危うく失神しかけた。例のブツを持って、仲良くレジに向かっている二人。密着具合は、今にも手を繋がんばかりだ! バイト君が無関心を装いながらも、レジを通しながら、時々ちらちらと二人の様子を見てる。 ふと、兄貴が振り返って、つかつかとこっちに近づいてきた。・・・ヤバい! でも俺ときたら、腰が抜けちゃってる。 兄貴は座り込んでる俺を発見しても、驚くこともなくにっこりと笑って、俺の目の高さに屈みこんだ。 「英二」 「・・・・は、はい」 「今夜、帰ってきたら・・・殺すv」 それだけ言い置くと、すっと立ち上がった。 ロビンが会計を済ませて、 「エマ、どうしたの?」 と、聞いたこともないような甘ったるい声で呼んでる。 「何でもないよぉ。落し物しただけ」 たたたっと、兄貴は小走りで駆けていって、仲良さげに連れだって店を出て行った。 ああ・・・兄貴。 俺の、可愛い兄貴。 カムバーック! 気付いてたのかよ。 しかも帰ってきたら殺すって・・・。 今まで、女連れ込む時ですら、そんなこと言われたことなかったのに・・・。 ラブラブってやつですか? マジですか? あにきィィィィ・・・・!! 心で絶叫しながら、涙を浮かべて項垂れる俺に、友達の 「なにやってんの、お前」 っていう、冷たい声が突き刺さった。 翌日の夕方、スタジオで顔を合わせたロビンが、日頃の生活苦を感じさせないツヤツヤした顔色で、昨日買っていたチョコレートをつまんでいるのを見て、通りすがりに、俺は思いっきり、その巨大な足を踏んづけた。 「って!何すんだアニー!」 「煩い。自分の胸に聞けっ!」 「俺が何したって言うんだよ」と、しれしれとボヤいてるロビンと、それを見ながらも、「自分には関係ない」という顔をしている兄貴。 二人して、本性隠しやがって! 吉井和哉!貴様だけは、絶対に・・・・絶対に許さないからなっ!! 俺たちのバンド、THE YELLOW MONKEYがメジャー・デビューし、だんだんと堂々といちゃつくようになったロビンと兄貴が、以来長年にわたってステージ上でさえもいちゃつきまくり、全国で公認のカップルになってしまい、それをどうしても認められない俺が、全国で公認のブラコンになってしまうのは。 それから、ほんの少し先の出来事だ。 end |
くだらない割に、やたら長い話になってしまった。 この間、74えいじと電話してたときにできたネタを、宣言どおり書いてみた。ちょっと面白かった。 |