うた



しのび笑いの午前4時。
ベッドの中で広げたノート。

俺の手に握った鉛筆を、エマの指先が邪魔する。

二人して、いやらしい言葉を綴ってはじゃれあって。
出来上がったどうしようもない歌詞に、思いつきのメロディーに乗せて、耳元で囁くように歌うと、エマは、身を捩って笑い転げ、悪戯な指先に、軽い熱を返してくれる。

「『オス犬みたいで・・・悪いね』ってね」
「はは、なんかどんどん最低になってくよ?」
「ダメ?」
「んー・・・どうだろ?」
「ダメって・・・うん、じゃあ『ダメって言って・・・』と」
「なにそれ・・・・・・ってちょっと、吉井ってば、もうダメだってば」
「ダメって言って〜」
「あはは、もう・・・んっ・・・」
「そ・の。匂いを覚えたい、」
「そんな歌詞やだって」

くすくす くすくす

満ち足りて幸福なひとときが、刺激するイマジネーション。
だけどそれは、切なさと表裏一体。

夜はいつか明けるから。
永遠を望む想いは時の流れと共に、いつか消えてしまうのではないかと不安になる。
時間が止まればいいと思うのは、それが怖いから。
永遠なんてこの世には存在しないと、悲しくも知ってしまっているから。

軽薄な淫蕩の夢に彩られた夜が明けないことを願ってしまう。

そんなじゃれあいの隙間に挟み込ませない、切ない言葉は、エマが眠ってから、静かに綴ろう。





何も無いあなたと
何も無い私。
燃えるほど愛し合って、結ばれてるのに。
キリキリ胸が痛むのは何故だろう。




脳裏に浮かんだ、そんな歌に、一瞬顰めた俺の眉根をエマは見逃さず、伸ばした腕で俺を抱き寄せ、さりげなく鉛筆を手放させると、その先に広がる律動をせがんで、俺を誘う。

楽しい歌と。
切ない歌と。

同時に生まれる、静寂夜。


楽しい夢を歌いましょう。
刹那の恋を歌いましょう。

あなたが眠るまで。

切ない愛を歌いましょう。
真摯な愛を歌いましょう。

願わくば、あなたが永眠るまで。


しのび笑いの午前4時。
甘い吐息の午前5時。
ベッドの下に落としたノート。
やがて俺をつつむ子守唄は、満ち足りた、エマの寝息。



end



どうでもいい会話が長かったような気がする・・・。なんかバランス悪いけど、その気持ち悪さがいい気がして、このままにしておこう(笑)

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