誰にも言えない



「あー…もう、吉井のバカ・・・」

思わず口に出して呟いた、ここはTV局のトイレ。
衣装に着替えてばっちりキメて、そのときは何も気付かなかったのに、トイレの洗面所で気がついた。

衣装の襟元から、昨夜の痕跡がばっちり覗いてる。

もう、あれほど跡をつけんなって言ったのに・・・。
あーあ。あと一個くらいボタン留めるべきかなぁ。でも、この衣装、肌蹴てるほうがいいのになぁ・・・。

ったく、いつまで経っても落ち着かないんだよね、ウチら。
ま、確かに俺も同罪なんだけど。
でも俺はちゃんと見えるトコには跡つけないように気をつけたのに!

「もう、吉井もちゃんと考えろっての!」

ブツブツ言いながら胸元の、真っ赤なキスマークを指でなぞった。

のと、ほぼ同時。

「あー!もう!てっちゃんのあほー!」

ものすごく不機嫌な声と共に、腰を擦りながら個室から出てきた人物がいた。
思わずそっちを向いて、俺たちはばっちり目を合わせてしまった。

「あ・・・」
「えと、ど、どうも・・・」

確か、この人は今日一緒に出演するバンドのヒトだったっけ。
んーと・・・そうそう、ラルクのhydeくんだ。そうそう。前に会ったとき挨拶って・・・うん。したよ。したした。
随分キレイなヒトだと思ったんだよね。吉井好みっぽいなーとか・・・あ、いや、あんとき吉井が「美青年!」とか喜んでたのにムカついたとか、そんなエピソードはいいんだって。

それよりも。

気まずい。

俺、「吉井のバカ」とか言いながらキスマーク辿ってたの、もしかして見られた?
なんかhydeくんがちらちら俺の胸元らへんを意識して見てる。
うわ、これは・・・や、ヤバイのでは。

何か別の話題を・・・。

「あの、腰、どうかしたの?」
「え、ええぇっ!?」

別の話題を振ろうとして、痛そうな腰のことに触れたんだけど、それはなんだか彼を吃驚させるようなことだったらしく、びくっとして声を上げた。

「や…あの、えと」

そう言ったきり黙りこんでしまう。
なんか不味いことに触れたみたいなんで、もう退散しようと、挨拶の会釈を送って背を向けた。

ピリっ…。

あ、くそ。俺も腰痛い。もう!何もかも吉井の所為だよ!
思わず自分も腰を擦ってしまったら、背後でhydeくんが「あ」と呟いた。

「え?」
「や、あの、いいです」
「ふうん?」

不審な彼の行動に戸惑いつつ、ふとそれに気がついた。

hydeくんの胸元にも、俺と同じような跡。
そして腰を擦る仕草。
さっきの台詞は確か、「てっちゃんのあほ!」

―――――いや、まさか。
そんなどこのバンドでもウチと同じようなことがあると思ってはいけない。ウチは特殊なんだから。FCの会報で「好きな女性or男性のタイプ」とかいう聞きかたするようなバンドなんだから。

でも。
でも気になる・・・。

「てっちゃんって、ベースのヒトだっけ?」

「あ・・・そ、です」

そのまま、また二人して沈黙してしまう。

「あの!」
「あの!」

次の台詞は同時だった。
うわー・・・もう、どうしようもなく気まずいってば!

「hydeくんからどうぞ?」
「や、えっと、エマさん?から・・・」

あ、俺の名前、覚えててくれたんだ。・・・って、そんなこと、ホントにどうでもいいってば!




――――それから、10分くらい微妙なやりとりが続き、やがて結論が出た――――。




「そうやったんやー!吉井さんとエマさんって、あー・・・なんかほっとしたー」
「俺こそ、すごいほっとしたよー」

結論は、どうやら同じ穴のムジナだったらしいということで。
流石にお互い、秘めた関係に結構ストレス溜まってた身の上同志らしく、急激に打ち解け、日頃の鬱憤をぶちまけ始めた。

「吉井ってさぁ、ホント、加減を知らないっていうか、いい年して落ち着かないんだよね」
「あー、わかるー!てっちゃんもやねん。ていうか、あいつ変態はいってるねん」
「え?そうなの?そんなふうに見えないけどなぁ」
「そうなの!吉井さんは・・・そやなぁ、うーん、確かにえっちそうやね」
「しつこいんだよ」
「っく、ははは」
「こんなこと、誰にも言えないじゃん?一回誰かに聞いてもらいたかったんだよね」
「わかるわかるー!TVの前の日にやりすぎるなんて信じられへんわ」
「ライブじゃないだけマシだけどさ」
「そうやねぇ・・・。ほんと、こんなこと誰にも言われへんもんね!」




いつまで経ってもヴォーカリストが帰ってこないから捜索に出ていた「てっちゃん」と、同じく俺が帰ってこないから様子を見に来たウチの吉井が、
「誰にも言えへんって・・・まる聞こえやっちうねん」
「や、ホントすいません・・・・ウチのエマが」
「いえ、こっちこそ・・・」
なんて、まるで旦那同士のような会話を、トイレの外で交わしていることは、つゆしらず、俺とhydeくんは時間ギリギリまで『誰にも言えない』鬱憤晴らしを続けたのだった。



end



なんか日に日に書くものがサイテーになっていく気がする(苦笑)
やってみたかったラルク絡み。CPは今回tetsu×hydeでしたが、別に私の中で固まっていないので、なんかまた書くときには違う組み合わせかもしれない。ただ、図としてトイレの前で困惑するのは吉井とてっちゃんが自然かな、と思っただけで。
それにしても、どう考えても、エマちゃんとハイちゃんの間でこんな会話が成立するとは絶対に思えない。いくらお互い天然爆弾同士とは言え(笑)

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