フラッシュバック |
最近また飲むようになった吉井が、ツアー終了の達成感からか、暴走しはじめたのを見て、「ああ、ヤバいな」と思った。 コイツは普段、途方もない労苦を自ら背負い込む所為か、ふと羽目を外したときには、際限ない子供っぽさを発揮する。周囲にいる人がハラハラするほどの暴走は、俺としては既に見慣れたものではあるけれど。 ・・・前だったら、こういうとき、さりげなくヒーセがブレーキかけてくれたんだけど・・・。 ついこの間、久しぶりに会って「楽しそうで良かったよ」って笑ってくれた親友がここにいないことを、ふと意識して、少しばかり寂しく感じながら、楽しそうに次々と赤ワインを開ける吉井を見ていた。 笑ってる。 すごく、屈託なく笑ってる。 うん。 良かった。 お前が笑ってて、良かった。 そういえば、もうずっと長いこと、こんなふうに羽目を外す吉井を見ることは無かったな。 なんだかいつからか、一人で大人になってしまって、いつもどっか冷静な影を帯びてて、俺としては・・・ちょっとだけ寂しかったんだよ。 ああ、そうだよね。 吉井って、こういう男だったんだよ。 いつだっただろう? 今夜のように酔っ払った吉井が、限界を超えたのか床に寝転がっちゃって、心配したスタッフが駆け寄ったのに、吉井ってば、何を思ったのか、 「エマー!エマー!」 って呼び続けて、仕方なく傍に行ったら、まるでちっちゃい子みたいに、にこっと笑って抱きついてきたことがあったね。 あの頃はまだ二人とも若くて、吉井もどっか美少年めいた風貌を残してたから、俺は思わず吉井のこと、「可愛い」とか思っちゃった。いや、青かったな。はは。 「エマってば、何を黄昏てんの。こっち来て、一緒にアイツ潰そうぜ」 ご機嫌の吉井が、少し離れたテーブルから呼ぶ。 はいはい。仕方ないね。 苦笑しながら立ち上がって、そっちに向かおうとしたとき、丁度携帯が鳴って、それを取ってる間に、急に悲鳴が聞こえた。 「吉井さんっ!だ、大丈夫ですかっ?」 狼狽したスタッフか誰かの声。 慌てて電話を終わらせて吉井のところに行ったら、ああ・・・なんてことだ。 見事にひっくり返ってた。 そこらじゅうにワインをぶちまけて、シャツもなにもかも赤紫に染まってる。 「ちょ・・・吉井?」 呼びかけると、ぐてーんと脱力しながらも、笑った顔のまま、吉井は上から覗き込んでる俺のほうに手を伸ばしてきた。 「エマちゃん」 「なに?」 「エマぁ」 「なんだよ」 「エマちゃん、エマぁ〜」 フラッシュバック。 ふと、俺を呼び続ける吉井の顔が、派手な金髪に彩られた、あの頃の美少年とオーバーラップした。 「エマぁ・・・なんか、思い出すね・・・」 寝言みたいにトロンとした口調で呟いて、吉井はにこっと笑って、あの日のように俺に抱きついた。 「あれからすごく経ったけど、やっぱり俺、エマが好きなままだ」 酒臭い囁きが、俺の耳元で聞こえて。 俺はなんだか嬉しくなって、抱きつく吉井の背中に、そっと腕を回して抱きしめ返した。 あのときは、そんなことしてやらなかったけど。 だけど、フラッシュバックした記憶のままに、俺も今も、吉井を「可愛い」と思うよ。 こういうふうにできるのは、俺も少しは素直になれたってことなのかもしれないね。 「エマちゃん・・・」 もう一回呼んで、でっかい子供は、俺の腕の中ですやすやと寝息をたて始めた。 end |
吉井が打ち上げで酔いつぶれた実話をもとにいじってみました。この人たち、臆面なく抱き合ってるけど、周囲には沢山の人がいると思うんだが(笑) いっか。それが悲しいのはネギくらいだろう(笑) |