大好き



ステージを降りてしまえば、あの瞳は俺のものじゃない。
知ってるよ、そんなこと。
多くは望まない。

ただね、オマエがあまりにも、本気の仕草で嘘をつくから、最近勘違いしてしまいそうになるんだ。

ゆらり、ゆらりと。
熱に浮かされたような目で、俺の傍にやって来たらいいのに。
―――-この、殺風景な廊下でも。

震える指先で、俺に触れてくれたらいいのに。
―――誰も見ていない、二人だけの場所でも。

聞きたいな。
あの言葉。
吉井の口から、聞いてみたいな。
ライトが眩しく照らさない、静寂の空間で。

きっとこれは、単なる好奇心。
本当に本心からその言葉を使うとき、吉井がどんなふうなのか知りたいだけ。
・・・だったら良かったんだけどね。
そういうごまかしも、最近自分には通用しないや。

だから、まやかしの一瞬でもいいんだよ。
聞きたい。

「ね、吉井」
「ん?」

「好き?」
「・・・何が?」

「俺の・・・」
こと。

―――――なんて、言えないから。

「・・・・・・持ってるヤツ」
「え?コーラ?」
「・・・・・・うん」

たまたま手に持ってたダイエットコークを差し出す。

「好きだよ?」

好きだよ。
好きだよ・・・って。
コーラのことだって判ってる。

「じゃあ、あげる。いらなくなっちゃった」
「いいの?すごい喉渇いてたんだよね」
「はは、そんな顔してた。眉顰めて喉さすって」
「見てたんだ」

見てたよ。いつも見てるよ。
見てるだけでもいいんだよ。
どうせ届かない想いなんだから。

「エマにさ、何も言ってないのに、そういうの気付いてもらったりするとさぁ」
「うん?」

吉井が俺の差し出したペットボトルを嬉しそうに受け取りながら、はにかんだみたいに笑う。

「ちょっと心臓がきゅーってなるよね」
「ならないよ」

嘘。
なる。
吉井がそう言うだけで、きゅーってなるよ。

カラカラに乾いていたらしい喉に、冷たい炭酸を流し込んで、少し噎せる、俺の大好きな人の異変には、些細なことでも動揺するから。

「大丈夫?」

つい、自分に禁じている手を、その背中に触れて擦ってあげると。
愛情を受け取るのが好きな吉井は、嬉しそうににっこり笑う。

「だいじょぶ。生き返ったー!」
「吉井、本当にコーラ好きだよね」

「うん、大好き!」

その賛辞を得ることができる、黒い液体に嫉妬してしまう。
その賛辞が、さっきの・・・誤魔化す前の、俺の問いかけの答えだったらいいのに。

『ねぇ吉井、好き?俺のこと』
『大好き!』

なんてね。
そんなこと考えてる俺って――――・・・死ぬほど、馬鹿。



end



エマが吉井に片想いバージョン。

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