事情 | |
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え?なんで髪を切ったかって? やだなぁ、ヒーセ。深い意味なんかないよ。暑かったし、そろそろロングヘアにも飽きたし・・・それだけだって。 別にそんな、隠し事なんかないってば。 ――――え?失恋? やだなぁ、兄貴に失恋なら、吉井と兄貴が結婚したときに切ってるでしょ。だから違うってば。 あー・・・だから・・・失恋なんかじゃ ・・・。 もう、判ったよ!言うってば。 そう!失恋したんだよ。…だから兄貴じゃないって!女の子! いつって、つい先日。 うん。ハワイに行ってたよ。 そう、そのハワイでね。 今度こそ運命の人に出会ったと思ったんだよ。 そうだよ。きっかけは、『吉井と兄貴に新婚旅行なんかさせてたまるか』って思ってたんだよ。まさかあの二人の行き先がグアムなんて思わなかったからさぁ、あれはホント間抜けだったよねー、俺も。 結局ひとりぼっちじゃん。1日ぼけっとしてたよ。っていうかむしろ呆然としてたよ。 でね、泊まってたホテルのビーチで、無性に寂しくなってさ。・・・笑うなって。 ふと気付いたんだよね。同じようにひとりぼっちで海を眺めてる女の子に。 ワイキキのビーチで水着にもならずに、だよ。気になるじゃん。 うん、日本人。 俺のことは知らなかったみたい。 なんかね、この旅行を最後に別れようと思ってた男がいたんだって。 好きで好きで、すごく好きな人なんだけど、本気なのは自分だけで、相手にはどうしても想いが届かなくて、今度こそ諦めようと思って決心したんだってさ。それで、せめて最後に楽しい思い出を作ろうと思ってたんだって。 なのにさ、その男、約束してた空港に来なかったんだって!最低だって思うでしょ。 俺だったら怒鳴り込むとこだけどさ、彼女はなんかそれでいっそ吹っ切れたんだって笑ってたよ。 すごく綺麗に笑う人だった。 うん。 そう。すっごく仲良くなったんだよ。こんな可愛い子寂しがらせるなんて最低の男がいたもんだと思って。 運命の出会いだと思ったね。 でね、俺はこの子を自分が幸せにしてあげようと思ってさ。絶対この子を悲しませるヤツなんか許さないと思って。 一緒に日本に帰ったら、俺ら付き合っちゃおうか、なんて言ってみたんだよね。 え?…ヤッてないよ。そういうことはもっと手順を踏んでから、って ・・・。傷つけちゃいけないと思ってさ。 そのくらい本気になったの。 兄貴のほかに、こんなに本気になれた人って初めてだったんだよ ・・・。 うん。そ。 でも振られたの。 っていうか、ホント、一緒にいる間はすっごいいい雰囲気だったんだよ。2日ほどね。 毎日一緒に出かけてさ。海で遊んだり、買い物したり食事に行ったり。コレはいけると思ったね。 なのに、なんで振られたかって? ―――――それがさぁ、もう…なんか、運命ってヤツを呪いたくなったよ。 3日目に、例の男が現れたの。 夕暮れ時だよ。 しかも、まさに俺が告白したその時よ。 ものすごいタイミングで、そいつが現れてさ。彼女を自分の腕に抱きこんで 「どこにも行かないで。一生俺のでいて」 なんて囁いたんだよ。 一瞬だったね。一瞬で、彼女の視界から俺が消えた。 何でも、それまでその男って結構いい加減で、あちこちで女泣かせてたらしいんだけど、彼女の決心に勘付いて、それでいかに彼女が大切か判って、全ての整理をつけてから追いかけてきたんだってさ。 エンゲージリングまで持参して。 その瞬間、彼女はもう大泣きしてさ。けっこうプライドとか高いタイプだったのに、涙でぐちゃぐちゃになっちゃうのも構わず、彼にしがみついたわけよ。 はー…でもさ、本当に落ち込むのは…。 そんな二人を見て、「彼女が幸せだったら、それでいい」なんて思っちゃった自分に。 俺ってこういう運命?とか思ってさ。あはは。 なんかご丁寧に二人を祝福とかしちゃった。 ん? うん。美人だよ、可愛かった。 細身でね、色も白くて。 顔立ち?そうだなぁ…睫毛が濃くてさ、目がくりっとしてて、あ、眉がね、ちょっとだけ太くてね。それがなんか今時の子っぽくなかったけど、全然違和感無いんだよ。それで髪がふわふわでさ、こう、長くて ・・・。 え?ヒーセ、なんで笑うの? エマそっくりじゃんよって ・・・。違うって、兄貴じゃないって!女の子だってば!れっきとした! あー・・・まぁ、ちょっと…いや、結構 …かなり似てた。 あ、写真見る? そう、この子。 瓜二つって ・・・やめてよ。余計落ち込むから。 なんでって…。 ほら、もう一枚の写真見て。何故かその彼とのツーショットも撮ってあげたの。 ね。 似てるでしょ。 こうしてこのカップルが二人並んでるとさ。そっくりだと思わない? 背格好から顔立ちから…。どう見てもちょっと昔のロビンと兄貴でしょ。 ヒーセ!笑いすぎ! なんか俺、嫌になっちゃったもんね。 この手の美人は、こういう顔立ちの、しかも歯の浮くような台詞を吐くヤローとくっつくのが決まりなのか? 誰が決めたんだよ、バカヤロー! そんなわけでね。なんか無性に生まれ変わりたくなって。 イメチェンでもしてみようかなって思って、髪なんぞ切ってみたんだよ。 どうせ女々しいよ。 まぁ、これからの俺を見ててよ。ホントもう生まれ変わるから。 え?この写真? ああ、俺のカメラで撮ったからさ。送ってあげるんだよ。 …なに泣きそうな顔してんの、ヒーセってば。 ん?兄貴のこと? もう俺は、兄貴のことは吉井に任せたの。幸せになってよって感じで! このでかい袋は何かって? ああ、これは兄貴にハワイのお土産。イロイロ、兄貴に似合いそうな服とかアクセサリーとか見つけてさ。 見てみて、コレとかすっごい似合いそうでしょー。絶対カッコイイと思うんだよね。何気に可愛いし。 ああ、それからチョコは欠かせないしね。ほら、兄貴ってば意表をついたものも好きだけど、だからって定番外すと減点のヒトだから。このチョコは兄貴のお気に入りなんだよー。吉井にバレないように渡さなきゃ、とられちゃうし、気をつけよう。 あっ!兄貴が呼んでる!行かなきゃ! そんじゃね!ヒーセっ! 兄貴〜v 何ー? end |
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どうしようもないアニー君の運命でした。 まあ、アニーが女にどうこうと言った時点で、彼女はエマそっくりっていうオチは誰もが予想していたことだろう、うん。 |