シーツ |
「見て、すごい稲妻」 絵に描いたような見事な稲妻に続いて、即、物凄い雷鳴が響く。 「近いな」 雨が横殴りに窓を叩きつけた。 宵闇に、嵐の気配が濃厚。 「エマ?」 さっきから呼びかけに答えない恋人を振り返ったが、その姿が見当たらない。 さっきまでベッドに座っていたというのに。 その代わり、キレイにベッドメイクされたシーツがこんもりと盛り上がってる。 サイドテーブルでは、火がついたままの煙草が煙を上げてる。 「エーマ?」 苦笑しながらシーツをめくると、エマはその中で丸くなっていた。 「エマってば。まさか、雷怖いの?」 「・・・・・・・・・うん」 嘘でしょ。そんなキャラじゃないくせに。 雷が怖いなんて、長い付き合いで一度も聞いたことがない。 大体、雷に怯えるような歳じゃないでしょ。 でも。 うん。 悪くない。 シーツの中で丸くなって、震えてるエマは可愛くて。 ベッドに腰掛けて、その頭を撫でてやりながら、エマの吸いかけの煙草を変わりに吸ってたら、次の稲妻で、ぬっと腕が伸びてきた。 「吉井っ・・・」 雷は近いから、雷鳴もすぐ。 でもその雷鳴よりも早く、俺はベッドに引きずりこまれる。 慌てて火を消してる俺の背中にエマが抱きつくのと、大きな雷鳴が響くのはほぼ同時だった。 ドドーンっていう凄い音と共に、部屋の灯りが消えた。 「停電?」 「大丈夫だよ。ホテルなんだから、すぐにまた点くよ」 怯えた声を出すエマの額にキスをして囁く。 額へのキスは、すぐに捕らえられて、強引に唇に移動させられた。 両腕が俺に巻きついて、エマから誘ってきたちょっと激しめのキスと共に、髪がくしゃりと乱される。 「んっ・・・・・・」 エマが先に吐息を乱して、俺はそれを追いかけて。 誘われるままに俺の掌は愛撫を始める。 闇に慣れてきた目に、シーツの波間でエマの肌が見え隠れして、俺は見失わないようにきつく抱き寄せる。 窓を叩く雨の音と、風の音。 交じり合う、二人ぶんの熱い吐息。 また部屋の中を、雷光が照らしたけれど、既に行為に夢中のエマは、別に怯えもしていない。 ――――やっぱり、嘘じゃん。 可笑しくて笑ってしまう。 久しぶりの逢瀬だから、妙に照れて、二人きりになっても暫く何もしなかったからかな。 そういえば、まだキスもしてなかった。 焦れてきっかけを作るために、雷に怯えたフリをするなんて、ベタだよ、エマ。 作戦にのっかって、俺もベタな囁きを返してあげよう。 「かわいいね、エマ」 こういうふうに言うと、エマは決まってキッと俺を睨むんだけど、そうそう、瞳は拒絶してないのね。でも今日は、停電でそれもよく見えないから、よく見えるように、覆いかぶさって額をくっつけよう。 甘ったれの仕草ほど、エマが喜ぶものはない。 そして、俺もそんなエマが大好きなんだ。 ほら。 エマとこうしてるだけで、すっかり身体は昂ぶってる。 熱を押し付けると、エマも同じように返してくれた。 興奮で荒くなった息遣いと、時折ちいさく上がる嬌声が、暗い部屋の中で遠慮もなく混じり合って。 再びキスでエマを喰らおうと、手探りでその顔を引き寄せた瞬間。 カチ。 小さな音と共に、あっけなく復旧した灯りが点いた。 「「あ」」 思わず上げた声が、二人してハモって、時ならぬ停電の演出に酔っていた自分たちを自覚させられる。 停電してたのなんて、多分時間にしてほんの1〜2分。 その僅かな時間で、シーツは既にくしゃくしゃに乱れてた。 顔を見合わせて、その有様に笑い合って。 だけど興ざめすることなく、俺たちはまた睦みあう。 また空を稲妻が走って、エマは思い出したように怯えた表情で、わざとらしく顔を隠した。 「邪魔」 シーツを取り除けて、やっぱり本当は平気なエマの瞳を捕らえ、もう演技も忘れさせる意気込みで挑んでく。 演出なんていらないの。 欲しかったら欲しいと言って。 きっかけなんか作らなくたって、俺はいつでもあなたに夢中。 今夜、窓の外は嵐。 部屋の中、シーツの中も嵐。 end |
本気で雷が怖かったんなら、どうするつもりだったんだ、吉井・・・。 私は本気で雷が嫌い。今年は雷多くて嫌だ。この間、電話してる最中に激しい雷鳴が轟いて『わかりました。よろしくお願い致しま・・・うわぁっ!』と叫んで、爆笑されました。ほっとけ。 |