ささやき



「ただいま」
「おかえり」

ちゅ。

「今日はどうしてほしい?」
「知らないよ。好きなようにすれば?」

片眉を上げて、吉井の手が、悪戯を企む。

「知らないよ、本気出しても」
「どうぞ?」
「あ、ホント?」

こしょこしょと、内緒話。
俺の肩口に顔を埋め、愛撫の手を止めないままに、吉井が囁く。

「胸元、跡ついてるよ?」
「え?」
「昨夜の、跡」
「・・・・・・・・・・・」

「ほら、ここ」
「あ」
「胸元肌蹴すぎだからだよ」
「お前に言われたくないよ」
「うん。俺にもついてる、ここ」

吉井が指差す先に、仄かな赤。・・・見に覚えは、ある。

「キスして、ここに」

促されるまま、キスを贈る。
満足げに微笑んだ顔が、再び俺の唇を塞ぐ。

「あ・・・もうタイムリミット。行かなきゃ」
「うん。いってらっしゃい」
「じゃあ、あとでね」

名残惜しそうに、ゆっくりと吉井は俺から離れ―――――・・・



「それでは素敵なメンバーを紹介します!」



大きな歓声に包まれる。
それをきっかけに、俺の耳に吉井の囁き以外の音が戻った。



ステージでの不埒な囁きは、俺たち二人だけの、密かな楽しみ。
誰にもないしょ。



end



SUCK OF LIFE

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