●法話「石を投げるおばあさん」

 92歳の天寿を全うされたおばあさんがおりました。このおばあさんはいつも道路の脇に腰を掛け、通る人を眺めておりました。それがおばあさんの日課でしたので、誰も余り気にかけなかったのでした。

 実はある日、おばあさんが不思議な行動をしているのを見てしまったのです。そのことは、多分ご家族の方もご存じないことだと思うのですが。

 おばあさんは腰掛けながら、おぼつかない手で一生懸命周りの小石を拾って自分の足下に置き、やがて、その内の一個を手に持ち、道路の向かい側の方に投げるのでした。

 気になったものですから、おばあさんに近づき、耳が遠いものですから、大きな声で、「おばあさん、どうして石を投げるの」と尋ねました。

 すると、おばあさんの口から意外な言葉が返ってきたのです。「向かいのゴミに寄ってくるカラスばかりも、追払ってやりたいと思って・・・・・・・・」。 その日は生ゴミの収集日でした。

 そして、「もう年をとって、なかなか他の人のお役に立てなくなってしまったので、せめてこのくらいぐらいのことは・・・」と話されるのでした。

 普段からおばあさんは非常に信心のある方で、どこか違うと思っていたのですが、人の為に生きる事を喜びとして、年を重ねてこられたのです。なんと素晴らしい生き方かと、思わず頭が下がり手が合わさったのでした。

 その後、何回かお会いしたのですが、いつも口から出る言葉は「感謝!」、お嫁さんに感謝、家族に感謝、年を取ると、どうしても愚痴が多くなるのですが、いつもおばあさんから聞く言葉は感謝、感謝の言葉でした。

 年を取られ、杖をつき、歩くことも思うようにならない、おばあさんが、何とかして人様の為に尽くしたい、尽くさずにはいられない、尽くすことを喜びとして生きてこられたのです。

 おばあさんの生きている限りの願いであった「さりげなく、めだたなく、人様の為に生きる」ということを、これからの人生の指針として生きてゆきたいものであります。



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