Fame!
「次のはAmerican Songだよ。」Fame!観客をトリップ状態に引き込む。Glastoほどではないが、過去のヒットカタログ。しかしこれ迄Bowieを聴きこんでいるファン達が聴く場合には意味が違ってくるだろう。どの曲も素晴らしい。でもそれだけじゃなく、望むと望まないとに関わらず、ひとつひとつに、時代とその頃の彼というものを一緒に想起させられずには済まない。だからアメリカ時代の曲は少し痛い。曲に呑まれて頭を失い、ハイになるしかない。

次はどうやら曲順を間違えたBowieが、ドラムのSterling Campbellに訂正されたらしい。セットリストを確認して、Stayを紹介する。Earl Slickと一緒にアルバムStation to Stationのためにレコーディングしたもので、彼の貢献が大きいのだと。Earlに拍手を!
Stayはとても好きな曲。Bowieの一曲を選ぶというのは不可能だけど、無理やり考えたとき、私の中でかなりの確実で挙がってくる曲。"Stay"彼の声はまっすぐに我々の体を貫く。

再びoutsideから、Hallo Spaceboy。The Motelに象徴される重厚な雰囲気を敷き詰めた空間に、照明の色と影が折り重なって別世界を作り出していたoutside tourのステージ。あれに比べて、今ここで行われているのは、白日の下のピクニックのよう。なんの翳りもない。

Cracked Actor。この曲を今、一時的な不調は別として、基本的にクリーンで健康、タバコさえ止めようとしているBowieが歌っている幸せ。だからこそ観客も遠慮無く高揚して叫んで歌って発散できる。"Crack, baby crack!"エネルギーを吐き出すように力を込める!

Earthlingから、I'm afraid of America。アメリカ人のバンドメンバー達にBowieがまず謝ってから始めた。
そして、これがメインステージ最後の曲になった。

Bowieの体調が悪いのは明らかだった。しばしば、曲間に一歩下がっては調子を整える。喋る声に微妙にかぶさる気管支の不調。なのに、歌う声にはそんな気配は微塵もなかった。もう終わっても構わない、休んでもらわなければ。皆、頭の中ではそう思っていただろう。でも心はまだ求める。二つの相反する自分に引き裂かれながら、手はアンコールを求めて打ち続ける。
この素晴らしいステージを見せてもらった後では、もう歌えなくても、この場が終わる予感を少しでも引き伸ばしてさえくれれば良かったのかもしれない。既に場は完成されていて、そこに主役さえいれば私達はまだ感じ続けていられたに違いない。そんなこと、プロであるBowieにはきっと許せないことだろうけど。手は打ちながら、でも無理でも構わない、せめてもう一度姿を、と願う・・・。

多分、たった数分の後、バンドメンバーが再登場。ポジションについて、弾きそうな気配。大丈夫?本当に?
でもさすがにBowieはまだ出て来ない。
気がつくと(私の脳はしょっちゅう目や耳との接続を切ってくれる)ステージ上のGail Annに客席から声が飛んでいた。「Gail!You, star!」に「Me, Star?」なんてきょとんとして返す可愛いGail。ステージ上でBowieがGailに絡むときって、いつもBowieがGailに甘えてるように見えるのが好き。Gailの存在の大きさは皆感じている。Bowieを見に来た私達にとってもGailは十分スターだよ!そしてこのまましばらくが過ぎて、Bowieが喉を少しでも長く休められればいいのに・・・。でもその時、Gailが横を向き、「ほら!本物のスターのお出ましよ!」。
黄色い長袖のTシャツに着替え、水のボトルを手にしたDavid Bowieが現れた。

☆<Encore>☆
アンコール一曲目、Ziggy Stardustは当然すべてのファンを狂喜させる曲。しかし歌いかけてその途中で喉がつまり、彼は中断した。
ああ、やっぱり・・・。自分達のために無理をさせているのが辛い。
声が一箇所のびなくたって、途切れたところがあったって、構わない、私達は部分部分の完成度を求めているわけじゃない、全体はもう素晴らしいパフォーマンスなんだから。観客の立場としてそう思う。でも、ステージ上の彼にはそうはいかないところが辛い。躊躇せずバンドを止めてしまった。
でも、それでどうしてこんな状態で、冗談が言えるの?「喉がむずむずして」「普段はむずむずさせられるのは好きなんだけどさ」
とにかくこの日のBowieは、終始余裕を失わず、こんな状態でもにこにこと笑みを絶やさなかったのだ。常に楽しそうでリラックスしていたことが本当に嬉しかった。
そういえば、お決まりの“後姿で一人抱擁”をしたのも、咳き込んだ後だった。後ろを向きうつむいたまま、中々、振り返らないBowieに、一瞬張り詰めた空気。けれど、それを見事に裏切ってもぞもぞと背中を這い始めたお馴染みの指!おいおい、また、それ?緊張の糸が切れて笑い転げちゃう。でも一番嬉しいのは、大丈夫だったんだ、ってこと!
そんな様子で、ずっとずっと楽しげでお茶目なBowieだったのだ。こんな彼は初めて。生活やキャリア、すべてが充実した状態で、Glastonburyも大成功。とにかくもう幸せいっぱいとしか言い様のない様子で、この日の小さなステージを彼もこの上なく楽しんでいる。そのことが、さらに私達を幸せにする。

調子を整える間、演奏させた、インストのThe Jean Genieを終わらせ、再度Ziggy Stardustへ。歌詞は2番なので端折るのかなと思ったら、2度同じところを歌ってしまった。それでも、声は問題無い。どうして?あれだけ歌って、なにもなくたってかすれてもよさそうなものなのに。どうしてこんなに声がこの状態で出るの?どうしてこんなに歌えるの?
・・・ああ、この人はSingerなんだ。

しかし次のAll The Young Dudesでも再度の中断。まだ続けられるのか?でもバンドに再開の合図をし、再び歌い出したときには!どうして?何度も何度もその繰り返し。

Starman!上を見上げ手を振る。
Sound+Vision tour前に行われたファンによる人気投票で、日本では一位に輝いた曲。だけど、1位2位は比較の問題で、何曲歌われたところで、きっと我々が次に欲する曲は尽きない。それだけの資産を持っているアーティストが、過去の存在ではない凄さ。それらの曲が、本人が今も愛する宝であることの素晴らしさ。

特にアンコールに入ってからは、いつも以上に、終わりが近づいているという危機感が募った。体力が尽きてもこのまま聴いていたい、踊っていたい。この瞬間が永遠に続いて欲しい。真摯な願いを抱いて'Heroes'を惜しむ。

そして。とうとう、その時が。
「じゃあ、次が本当に今夜のラスト」という言葉に反射的に「えーっ?!」と漏れる声。でも、「ごめん、もし歌えるならほんとにもっとやるんだけど・・・」なんて仮定法の文法そのもので言われてしまうと、何も言えない。
咽頭炎、気管支炎、NYで声が出なかった、Glastonburyで21曲も歌い上げ大観衆を巻き込んだ、それでどうやってこの日のようなライブが出来たのか?その方が不思議。でもそれは奇跡ではない。彼のプロフェッショナリズム。凄すぎる力。

・・・?しばらく何の曲だか分からなかった。今まで聴いたことのないようなイントロ。知らない曲のカバー?違う・・・。集中する意識に飛び込んできたのは、Let's Dance!躍動感弾けるポップな曲が、妖しい趣を帯びて再生している!もう、これが今夜の最後。今この瞬間だけは思いきり踊ろう!

10:30pm、ショウは終わった。皆の為に祈って去って行ったBowie。拍手でバンドを見送った後は、もう誰も無理なアンコールなんて望まなかった。
静かに帰途につく。今日の感動をどう胸に収めればいいのか苦労しながら、2時間15分の至福を反芻する。

地下鉄に乗るべく、Oxford Circusに向かって歩いた。Nikkieと一緒に閉店前のパブで喉を潤し、今日の感動を反芻する。
凄すぎて幸せすぎた完璧なライブ。
なんて素晴らしかったんだろう。なんて彼は幸せそうだったんだろう。公私ともに充実しきった今の彼を、このイギリスの地で、親しみ溢れる小さな空間で見ることが出来て最高だった。
不調をものともせず、力を見せつけたDavid Bowie。でもそのために演奏しかけた曲を中断までしたことを・・・どういうのだろう、悔しい?悲しい?そういうBowieのファンであることは誇らしいけど、もっとラフでいてくれた方が心配しなくて済むような、気を揉ませられるような、複雑な気分。しかし、彼はそんな感傷など及ばない高みにいた。
ショウの間、時折ステージの後ろに下がって喉の手当てをしなければならなかった。不本意だろう、2度もの中断があった。しかし、問題は本当にそれだけだったのだ。彼が歌い通したパフォーマンス部分から、喉の不調や体調の悪さを察知する人はいないだろう。
David Bowie、あなたは最高だった。

Bowieのステージを見た後はいつもだが、私は焦燥感に駆られる。不遜な私は、彼の到達度を眼前に突き付けられて悔しいのだ。
でもそれも幸せの中。Thanks a lot!


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