銘醸地探訪 奉行所ロゴ小

喜多方(福島県) 

福島県会津地方の一部をなす喜多方市は、「末廣」「名倉山」など多数の有力蔵元がある会津若松市の北方に位置する。米と水に恵まれている喜多方の地は、古くから酒や味噌などの醸造業が盛んであった。醸造業では蔵が最適な建物であることから、このまちには多数の蔵が残っている。現在は 2,600棟余りの蔵が残る「蔵のまち」として、また、喜多方ラーメンの「ラーメンのまち」として観光客の注目を集めている喜多方を、最近再び訪問する機会があったので、以前に訪れた時に見聞したことも含めてここに紹介したい。
(奉行※平成6年10月20日記事作成)
酒のまち−喜多方》                        
 喜多方市内には12もの蔵元がある。37,000人ほどの人口に対して蔵元数が非常に多く、このようなまちは全国でも珍しい。地下には飯豊山系の伏流水が流れ、この良質な水が酒造りと美味しい麺造りに貢献している。「五百万石」や「京の華」、「華吹雪」といった酒造好適米が栽培され、これら地元産の米を中心に酒造りが行なわれている。
 福島県の各蔵元では、平成5酒造年度から福島県ハイテクプラザ会津若松技術センターの食品醸造科が4年をかけて完成した「うつくしま夢酵母(F701)」による醸造を開始し、春の東北新酒鑑評会で秋田県に次いで2番目の好成績を得た。喜多方の蔵元も多数入賞し、私が訪れた5月、蔵元の玄関には入賞を知らせる看板が多数立ち並び、まちは活気づいていた。また、すでに新酵母を使用した純米大吟醸酒が発売され、蔵元ではきき酒を行なうこともできた。
大和川酒蔵・北方風土館
 建物としてのを見学したい方には、蔵が集中している市中心部本中町の商店街から10 0mほど脇道に入ったところにある大和川酒造の大和川酒蔵・北方風土館がお薦めである。

 寛政2年(1790)創業当時の伝統ある蔵と屋敷が無料開放され、見学コースとなっている。館内に入ると広い空間があり、天井を見ると太い大きな梁が縦横に走っており、大きな酒林(杉玉)が下がっている。

 酒蔵は大きく2部屋からなり、最初の部屋では酒造りの道具、仕込みタンク、稲穂などが展示してあり、パネルを用いて仕込み水と使用米について従業員の方が説明してくれる。

 仕込み水は当然ながら飯豊山系の伏流水であり、蔵の敷地内数箇所に豊富に湧き出し、観光客は杓で自由に飲むことができる。使用する米は、地元(会津熱塩加納村)の農家によって契約栽培されている有機低農薬の酒造好適米「華吹雪」で、平均精米歩合は58.5%。
 次の部屋は瓶詰めされた酒の倉庫のようで、各種商品の展示も兼ねている。蔵を出るときき酒コーナーがあり、気に入った商品を購入することができる。ここの酒は、「弥右衛門酒」という銘柄で、平成4酒造年度全国新酒鑑評会金賞、平成6年東北新酒鑑評会吟醸・純米の部金賞受賞に輝いている。うつくしま夢酵母使用の華吹雪を45%にみがいた「F701純米大吟醸や華吹雪50%(901酵母使用)の純米吟醸酒星眼回などやや独特な味わいながらも、しっかりしたコクのある酒と思われた。

 この北方風土館内でも酒造りの一部が行なわれているようだが、少し離れたところに飯豊蔵(見学不可)があって、そこでほとんどの酒が醸されているようだ。
【データ】(資)大和川酒造店 (喜多方市字寺町4761  0241-22-2233)
商店街に面する2蔵吉の川酒造店と清川商店
 脇道から商店街に戻ると、通りに面して吉の川酒造店と清川商店が200mほど離れて立地している。「吉の川」醸造元の吉の川酒造店も平成6年東北新酒鑑評会吟醸・純米の部の金賞を受賞していて、その看板が創業明治3年(1870)の古い屋敷の建物の前で非常に目立っていた。その後、平成5酒造年度全国新酒鑑評会においても金賞を受賞した。この蔵元も蔵見学を受付けている。   
 会津清川を醸す清川商店も平成4酒造年度全国新酒鑑評会で金賞を受賞した実力のある蔵である。創業は寛永8年(1631)。自由に蔵を見学でき、団体の場合は蔵元が説明をしてくれるが、特に見学用に蔵内が整備されているわけではない。甑、放冷機、仕込みタンク、槽などがビニールをかけられ今年の造りが終わっていることを物語る一方、瓶洗浄機、瓶詰機などは、いつでも作動できる体制にあった。他に酒造りの道具や日本酒度計などの計測機器が仕込み期間中と同じ状態で置かれていた。甑は一度に 1,000sの米を蒸せる大釜である。貯蔵タンクのある部屋だけは一般の見学者は入れず、隙間から覗くとタンクが数本並び、白熱電球の灯りの下でぼんやり見えた。全体に薄暗く、やや雑然とした雰囲気が蔵の歴史を感じさせる。
 ここの杜氏さんは珍しい女性の杜氏さんで、しかも専務の奥さんである。神奈川県相模原市に生まれた杜氏の佐藤浩子さんは、大学時代にご主人(現専務)と出会い、結婚して喜多方に来たのだという。それが、平成3年11月、長くこの蔵で勤めていた杜氏の体調が悪く、今年は造りに来れないかもしれないとの連絡があった。急なので他の杜氏さんを探すわけにもいかず、知り合いの「末廣酒造」に相談に行ったところ、「面倒をみてあげるから、自分たちで造りなさい」ということで急遽杜氏の仕事に携わることになったのだという。試行錯誤で造った吟醸酒はその年の東北新酒鑑評会でいきなり金賞、全国新酒鑑評会にも出品し銀賞、翌年の全国新酒鑑評会は金賞という素晴らしい成績をあげた。昭和30年生まれ、3人のお子さんがいるという。(その後、平成11年にも金賞受賞!)
 きき酒コーナーもある。大吟醸雪花は兵庫県産山田錦を40%にみがき、9号酵母で仕込んだ味わい豊かなスッキリした酒。うつくしま夢酵母使用の純米大吟醸天界航路は、会津産の華吹雪を45%にみがいたやや不思議な味わい。印象は良い。
【データ】(資)吉の川酒造店 (喜多方市字1-4635 0241-22-0059)  
【データ】(資)清川商店 (喜多方市字2-4659  0241-22-1001)
http://www3.ocn.ne.jp/~kiyokawa/

酒塾喜多の華酒造
 商店街と平行に南北に走る歴史的街路に面して、喜多の華醸造元の喜多の華酒造がある。創業大正8年(1919)の比較的新しい蔵で、平成4年から3年連続全国新酒鑑評会で金賞を受賞している吟醸蔵として名高い。ここの酒蔵見学はかなりの通向きで、その名も酒塾と称する。米の種類、精米歩合、酵母、仕込みの過程などかなり詳細な説明が蔵元よりされたあと、一緒に蔵内の設備を見学する。参加者の中には日本酒通の方もいて、蔵元に質問をするとそれに対してきちんと説明してくれる。酒造りのすべてが理解できた気になる。
 蔵に入るとまず甑と放冷機があり、この部屋で洗米も行なう。洗米時間は、精米歩合35%の山田錦であれば、洗い始め40秒、水洗い20秒、漬け時間7分という。放冷時間は米一粒一粒の大きさ、すなわち精米歩合の差で長くしたり短くしたりする必要があり、適度に放冷するのも難しいという。奥の部屋は、仕込みタンクや貯蔵タンクが並んでいる。
 隣の部屋には比較的新しい槽が2台並び、隣に濾過機が置かれている。原酒についての説明があった。原酒とは、槽から搾った酒に手を加えてはならない酒である。原酒のアルコール度数はその年の造りやタンクによって異なるが、商品のラベルには原酒のアルコール度数をすでに印刷してある。もろみの時点で印刷された度数を越えている時には、搾る前のもろみに加水して度数を調整してから搾るのだという。また、搾る前に加水した場合と搾ってから加水した場合では、結果的に同じアルコール度数となっても、搾る前に加水した方がコクや味わいの点で優っているという。濾過された酒はパイプで隣の部屋にあった甑に運ばれ、甑の蒸し釜内部に渦状に張り回らさせたパイプの中を通過することによって火入れされる。酒を通す速さで火入れの温度を調節できるという。 
   数種類の酒をきき酒をしたが、うつくしま夢酵母使用の 純米大吟醸は、45%にみがいた広島産八反錦を使った日本酒度が-2.0とやや甘い酒であった。大吟醸は、さすがに馥郁として味わいのある酒である。
【データ】(資)喜多の華酒造 (喜多方市字前田4924 0241-22-0268)
モーツァルトを酵母に聞かせる
小原酒造店》            
 市中心部からやや外れた東町土蔵小路にも蔵が立ち並び、そこには國光を醸す小原酒造店がある。
 この蔵はもろみが醗酵している期間、酵母にモーツァルトの曲を聞かせていることで有名である。蔵内にモーツァルトの曲を流すと、その音楽の周波数の作用で酵母の働きが活性化され、死滅率が下がり雑味の少ない酒になるという。いろいろな作曲家で試してみたがモーツァルトが一番良い効果が得られる
のだという。最近は、他県の酒蔵でも同様の試みがなされているが、この蔵元がその最初ではなかろうか。國光よりは「蔵粋(クラシック)」という銘柄の方が有名で、大吟醸交響曲とか「純米吟醸管弦楽」などクラシック音楽に掛けた名称が酒質に応じ付けられている。クラシック音楽ファンの私などには、大変興味をそそらされる酒だ。創業亨保2年(1717)。現在生産量は 1,300石で平均精米歩合53%という。
 平成6年東北新酒鑑評会で金賞を受賞。酒蔵は特に一般公開していない。              
【データ】居ャ原酒造店(喜多方市字南町2846 0241-22-0094)
喜多方には、県下最大手の会津ほまれのほまれ酒造、夢心の夢心酒造、米美川の米美川酒造といった全国新酒鑑評会金賞受賞蔵がある。また、「笹正宗」醸造元の笹正宗酒造は、全国でも古い昭和50年から純米酒造りを続けている。この数年間、喜多方の酒は鑑評会等において入賞を重ねており、その実力を上げつつある。そして、うつくしま夢酵母という新酵母を得た各蔵元は、これからもさらに素晴らしい多様な吟醸酒を造り、我々消費者に提供し続けてくれるに違いない。酒造りに興味のある方なら、それぞれの蔵ごとに個性があり、しかも蔵を観光客に開放している蔵元が多い喜多方を是非一度訪れてみるとよいだろう。                                    
(奉行 ※平成6年10月20日記事作成)

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