2009.08.08
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死の生を歩まねばならぬ子供であると、そう言われた。
「傅役を頼みたいと言うたはそういうことだ」
生まれ落ち、その両の目を開いた時よりこの方、この伊達の城に入れることはならなかった。
人のものではない、黄金の両目。
縦長の光彩が蛇のようだと、実の母親からも疎まれた。
しかしながら世継ぎは必要であり、このまま子が生まれなんだらと、城を離れた山の中、人の目に晒さぬよう秘して来たが、於東の方に第二子である竺丸が誕生し、いよいよ異形のものは無かったことにしてしまうのがよろしかろう、という気持ちが強くなってきたのだった。
しかし…。
なかなか授からぬ子宝に対して、高僧に願をかけてすら授かったものでもある。
そして夢にまで現れた長きものの影がそら恐ろしく。
また今まで一握りの近習しか知らぬ子供の異形を、一体誰に託せば良いのか検討がつかなかった。
そんな不安を抱えながら年は過ぎ、いつの間にか異形の子供は十歳を数えていた。
病がちゆえ、といつわり、山中に秘すもそろそろ限界であった。
元服の儀式の話が出始めるその前に、なんとかしなくてはならぬ。
八幡神宮の神官の血を引いているという小姓の話をきいたのは、そんな焦りもある中でのことであった。
殿の徒小姓であり、米沢八幡社の次男である片倉小十郎は、養子に出された藤田の家でさまざまな武芸学問を修め、更には家が代々担ってきた、伊達家の影の兵法も収めたと聞いている。
藤田に遅い嫡男が誕生し、不運にも寄る辺を失った身であれば、殿の小姓へと召抱えられたと。
文武両道で神官の血
代々陰の仕事を生業とする家での修行も行っているのならば好都合ではないか。
寄る辺もない身の上とはなおさらに…。
彼の者をあの異形の元へ、傅役として使わそう。
元服を前に作法、学問、武芸を修めさせると皆にはそう言えばよい。
「じゃが片倉の。わが子なればこそ今までこのように処しては来たが。あれは伊達の家に仇なす異形である。そなたに申し付けるはこの義に於いて。わかるな」
閉じた扇で小十郎を指し示す面は能面のように白く冷たく、何の感情も読み取れない。
「御意」
主家からの命ならば、伊達家のためとあれば返答はひとつ。そのように教えられてきた。
此度の命についてもそれは変わらない。
自分の中に問題があるとすればひとつ。
その対象が子供である、ということだけだった。
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