「こら。寝るならちゃんとパジャマ着ろ啓介」 「う〜〜ん……ねむ…ぃ」 「風邪をひくぞ、ちゃんと歯も磨いてこい」 「ん…う」 もっこりともりあがった布団の一部がもそもそと動き出す、と、乱れた茶パツ頭が…否その一部が半目の顔を伴って現れた。これも一部だったが…。 「こーら。もうそろそろ寝るんだろ? 明日は一限から講義じゃなかったか?」 「…も…ちょっと…だけ」 「…頭をひっこめるんじゃない」 「……やぁ…だ…よぅ」 うじゅうじゅうじゅ…と続いて、その後は言葉なんだかなんだかさっぱりわからない。 そして言葉と一緒に布団の中に埋没していく頭。 まるでカメが託宣を終えて海底深くに沈んでいくような光景だな…。 「……そうじゃなくて…」 自分ながら妙に長ったらしい想像をしたものだが、なんだかカメの託宣の啓介というフレーズが妙にハマってしまった涼介である。 フと唇の端をあげる。 今の今まで向かっていた机から離れ、布団虫の生息するベッドの傍らに座り込んだ。 ギ…とスプリングのきしむ音がする。 見事に寝姿をくっきりと浮かび上がらせながら、もう寝息を立てている啓介の丸々した様に、つい目元も緩んでしまうというものだ。 「こ〜ら、まるむし啓介」 「啓介」というところに反応するのか、ふにゅ…と意味不明な単語が布団の中から聞こえてくる。が、しかし、あくまで起きないつもりらしい。 きゅっと巻き込んだタオルケットから、天岩戸の天照よろしく、あどけない寝顔の一部がひょっこりと現れる。 タオルケットを口元近くに引き寄せて丸くなっている様からは、普段のちょっと生意気くさい悪ガキのような印象とはまた別の…、なんと言うか、一式全部に丸め込んでくるんでギュっとして突付きまわしたくなるような、そんな感じを受けるのだ。いつも。 腕の中に抱き込んで、兄弟以上の行為に肌を合わせる時ともまた違う、曖昧な気持ちがこみ上げてくる。 「本当は起こしてやるべきなんだろうが…な。俺も辛抱が足りない」 布団虫のまま、そうっと腕の中に啓介の頭を抱え込む、そのふわふわと柔らかい髪に、そっと唇を寄せて、寄せて、寄せて。額に、瞼に、頬に…耳たぶに…くちびるに…。 …ゆっくりと下唇を含んで、味わうように甘く吸い上げる。 「……ぅ」 起きたか…と、上目遣いに見やれば、それでもまだ目は覚めないらしい。少し寄せられた眉根もじきに弛緩し、すぅすぅ…という寝息に変わっていく。 「お仕置きだべ」 啓介に意識があったなら「なんでおしおき〜」と問われたろうし、その前にのその一本調子で言うのやめて〜と指をさされて、けたけた笑われたろうが、あいにく今はそれを言われた本人は夢の中。発した人間も・・・・・ごめんなさい。 何十年か昔のシリーズアニメの決り文句をお経のように口ずさみ、面白そうに唇の端を引き上げる涼介。 二人分の体重にギシギシいうベッドの音にもまだ目を覚ます気配すらない弟。 やすらかな寝顔に再び柔らかく口づけると、そのままゆっくりと裸のままの体に身を静めていく。 愛弟はまだ夢の中…夢の中……。 「……と、いうわけでな」 「…だからってよぉ〜ひでえアニキぃ」 「そうか? 」 「限度ってもんがあンだろ〜」 文句たらたらの弟を前に、一人しゃきしゃき仕度をして、もう後少しで家を出ようかという様の涼介。 方や弟は兄のベッドの上であぐらをかいたまま、ごろーんごろーんとあっちへ転がりこっちへ転がり…。 「ってーっ!」 「そんな格好でふざけているからだ」 つつつと後頭部を抱えながらベッドの縁によりかかる。落ちたのだ 「これじゃガッコいけねーじゃねーか〜」 「そうか? 虫に食われたといえば、大丈夫だろ?」 「ばかあにき! こんなワザとらしいのすぐにバレるに決まってんだろ!! くそー、アニキがつけたって言いふらしてやるからな」 「俺は、別に構わんぞ。まああと2−3日は取れんだろうしな」 「なんでわざわざ見えるトコに……ってくそぉ〜。言えるわきゃねーだろが」 よりによって5つ、しかも首筋に一直線に…縦列に5つ、5つだし〜! 「もー知らねぇ、もうアニキとはヤんねぇ、ぜっっっってぃヤんねーから!」 「そうか? それはツレないな。折角俺の気持ちを印にしたってのに…」 「気持ちを印ってなんだよそれ〜!」 拗ねて尖らせた弟の唇に、兄の人差し指が5つ、トントントントントンとリズムを刻む。 「?」 ア・イ・シ・テ・ル 兄の唇がそう形作ると、ニヤリ、人の悪い微笑みが浮かぶ。 「…! ん、なこと、口で言えよ〜!」 瞬間にして真っ赤な顔になった弟が、ぐおー恥ずかしい〜!と掛け布団の中に頭からダイブし、もぞもぞと全部潜り込む。 「≪口を使って≫表現したつもりだがな」 「声に出して言えっての!」 頭だけ出してすごんでも、布団虫に迫力なんぞあるわけがない。 「いつもの噛み虫の返礼だ。しばらくここで大人しくしていろ」 「う〜〜〜、くそっくそっ」 「一応言っておくが、起こすように努力はしたからな。何をしても起きなかったお前が悪い」 ついでに言うなら、無防備に喉なんぞ出してる方が悪い。とはかなり身勝手な兄の心の俳句字余り(苦笑) 「だってアニキ〜」 「それじゃ、俺はそろそろ時間だ。出かけるとするかな」 「う〜〜〜」 うじゅ…と拗ね小僧な様で、恨めしく上目使いをして寄越す啓介の額にひとつ、口づけを落とす。 「今日はまっすぐ帰るよ。 お前の好きなチーズケーキハウスのアレ、買ってくるから」 「あっあっ、俺4本!」 「はいはい了解。 それよりそろそろ代返でも電話で頼んでたらどうだ、今日は一限からだろ?」 「だあっ!! そうだった! やっべ間に合うか!? 中村に電話しなきゃ! くそ、ケータイケータイ」 「啓介。フリチンフリチン」 くすくすと下半身を指摘されてしまう。 「わらうなー」 「出がけにあんまり誘惑してくれるな。 おにいちゃんはまた≪愛の言霊≫をだな…」 「でぇっ(汗) お願いだからやめてくれ〜」 いつもいつもいつも、アニキにからかわれて、ちっくしょーな啓介。 いつか必ずリベンジ! とは思うけれど、それもまた幸せだったり…。 いんや、今回のばっかりはどうにも許しがたし。 笑い声を残しつつ、兄の出て行った扉をにらみつけては、なんかないもんか…と腕を組む弟啓介なのでありました なんとなく終わり(^^ゞ *********************************************************************** TOPに告知いたしました通り、実は今こんなんやってる場合じゃないんですが(苦笑) 自分自身が、更新がないという状況に「アカン〜/(T□T)\」となってしまい、 丁度思いついた話しもありましたので、ひっさびさにキーを叩かせて頂きました(^^ゞ 前回のアップからかなり間があいたのもあって、妙に緊張したけど楽しく書けましたですよ。 やっぱこの二人好きだ〜☆ by: ryoko 2002.08.19 23.10 |