あーーヤバイ。 　ぜんっぜん足りない時間がない。 　慌てて揃えた材料はついさっきの大失敗で足りなくなっちまったし・・・。 　あーーもお〜、くそう、一体なにがまちがったんだよ〜俺〜。 　めったに入らないキッチンの中をウロウロしてても、 　いいアイデアなんて思い浮かぶ筈がない。 　　………やっぱやめよかな。 　「……初志貫徹…だよな高橋啓介〜」 　ちらりと浮かんだ、ちょっと負け負けな考えを 　ぶんぶん頭を振って打ち消すと　唸るように口に出してみる。 　　うーーーっと気合一発。 　「出かけるっ」 　ＦＤのキーを引っ付かんで飛び出した。 　　　………………………………。 　　にがつじゅうよっか・・・。 　実のアニキと、いわゆるそーゆー関係になってから２回目のこの日。 　クリスマス、誕生日についで気持ちが浮つくこの日の意味を、 　よーく分かるようになった高橋啓介であった。 　　だってまだ、２回目だしよお・・。 　一緒に暮らしてきたということならば、 　少なくとも１９回は一緒にこの日を迎えてきてる。 　…けど、その間に実の兄に対して 　「そういう意味で」「この日に」プレゼントをあげたということは 　一度もなくて…。 　 　それならばと、毎年、二人して見るのも嫌…というチョコレートを、 　わざわざプレゼントする気も当然なくて…。 　去年は…結局アニキに流されちまって…。 　プレゼント＝俺みたいになっちまったしよ（赤面） 　女の子から「もらう」ことには慣れていても、 　自分が、兄に、プレゼントするだなんて、もうどうしたらいいのだろう。 　こんな時、当の高橋涼介に希望を尋ねたのならば、 　即答で『高橋啓介』の返答が帰ってくることは必至だろうが、 　プレゼント第一候補たる高橋啓介本人は、 　そんな、自分にリボン巻いて裸エプロンで出迎える…的な想像には、 　まったく行き着かなかったのだった。 　バレンタイン………どっかの聖なんたらってゆーおっさんの日だって、 　そういえばさっきどっかに書いてあったけど、 　何時の間にやらチョコレート交換の日になったんだろうな。 　でも､チョコなんて食いたくもねーよな、俺もアニキも。 　そうこうしているうちに日にちばかりは過ぎて今。 　なんの準備もないままに結局その当日になってしまったのだった。 　できるかどーかは別として、テレビ番組でタマタマ特集していた 　「アレ」にすがることにした啓介である。 　「感嘆！簡単！」なーんて題名がついてて、 　実際レポーターも簡単そうに作ってて、 　これならもしかして俺でもできるかも…。なーんて考えは、 　キッチンに転がった卵の殻と飛び散った小麦粉の惨状に目を向ければ、 　その後どうなったかなんて聞くまでもなかった。 　「こんな時にバトルなんて仕掛けてくンなってんだ、ばかったれ〜」 　信号待ちの間に、隣り合ったＮＳ−Ｘが、ふかしこみながら 　こちらをバカみたいに牽制してきたのには参る。 　そんなことしてるヒマはホントにないんだから。 　なんたって今日が刻限。当日なんだ…バレンタインの。 　しかも肝心のブツはまだ一度も成功してないっつーの！ 　散々パッシングされ、ブチギレ寸前になりながらの帰宅、 　そしてキッチン入りである。 　ホント、マジに時間ないんだ。頼むよマジに。 　アニキが帰ってくる前までにｆなんとかしてたいんだから！ 　 　「５回目の正直っ。最初からいくぜ。たのむぜ先生〜」 　まるでミミズがのたくったかのような字のメモを片手に。 　誰が先生なんだろうと、心の片隅で一人ツッコミを入れつつ。 　小麦粉の袋に手を伸ばす。 　 　「えっと…ザル、使うんだよな…確か」 　いいかげん分量も覚えてきた。 　出口は近いかもしんない……多分(苦笑)　 　　…………………………。 　　……チン☆ 　 　バタン！ 　　　　　　　　パタパタパタパタ………。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ガション☆ 　　「…うおーしっ。できたぜ〜っ♪」 　　「…なんだかいい匂いだな啓介…」 　　「あっ、アニキ☆」 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　★ハイ、いただきます★ 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　2002.02.14(thu) 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　dear manorin 　(ryoko)