「…ぅ…ん……?」


「おはよう啓介」

「あれ…にぃちゃ?」


起きたばかりで、ほえほえしたひよこ頭にやさしく手が添えられる。




「昨日はごめんな、遅くなって。一人でさびしかったろ」

ベッドの端に座り、くしゃりと啓介の前髪をかきあげる。

まだ眠気の抜けない啓介の表情に苦笑しながら、その額に唇を寄せた。


「ん、おはよ…」

くすぐったいような感触に目を細めると、兄に向かって両手を差し出す啓介。

もう起きる、という合図に、涼介の腕が差し伸べられた。




さびしかった?

うん、ちょっとこわかったけど…。

でも…。



やさしく微笑む兄の顔を見て、その目の中に自分の顔が映ってるのをみたら。


「けいちゃ、一人でおるすばんできたんだ。

だからね、サンタさんプレゼントくれたんだぞ」

「…プレゼント?」

「うん」



そう言って自分に向かい笑いかける弟を見るのは、何より好きな涼介だが…。



まだ、リビングに降りてきてないはずだぞ。

なのに、どうしてわかったんだ。



今起きたばかりの啓介が、

リビングのツリーの下にあるプレゼントのことを知るわけがない。

ましてや包みも開いていなかったはず…。



いぶかしげに首を捻る涼介の腕を、ぎゅ〜っと抱きこんで、

その胸に顔をうずめる。


「けいすけ?」


(兄ちゃまのにおいだ☆)

くんくんと鼻をおしつけて、えへへと兄の顔を見上げる啓介。



「だって啓ちゃのいちばんは、兄ちゃまだもん。

サンタさん啓ちゃのおねがいきーて、

朝いちばんに兄ちゃまつれてきてくれたんだよね? 

サンタさんだいすき! だけど兄ちゃまはもっとだぁい好き」


「……」


そういって、嬉しそうに抱きついてくる最愛の弟。

まだ、寝起きの子供の体温がやさしく、じんわりと体に染み入ってくる。

昨日のパーティは最悪だったけど…。


「そっか…」


朝一番じゃなかったけど…。

どうやら自分も、サンタクロースからプレゼントをもらったみたいだ。



どんな子供にも必ずやってくるクリスマス…12月25日。

昔からサンタなんぞ信じていなかったが。


自分にもどうやら、本当のサンタクロースがプレゼントを運んできてくれたようだ。



「さ、顔を洗ったらリビングにおいで。

今日は母さんがクリスマスの料理を作るってはりきってるぞ」

「ほんと!? 啓ちゃしちめんちょーたべたいんだ! 

あとしちゅーと、ぷっちんぷりんと、あとね、あとね」


ぴょんとベッドから飛び出して、嬉しそうに跳ね回る啓介。

この分だと、リビングで<本来の>プレゼントを見つけた時はどんなことになるだろう。



もつれるようにじゃれあって階下へ降りていく二人。

静かに閉じたドアの向こう側、部屋の窓ガラスには、

今年最初の雪が白く舞っているのだった。





         F I N 
            DEC.25.2000  Ryoko

「おそいな、兄ちゃま」




すっかり白いスリガラスになってしまった窓に

息を吹きかけて、大きな猫目が外を覗き込む。



子供にとってはもう寝ていなくてはいけない時間、夜の9時…。

あの恐い音楽が聞きたくなくて、大急ぎでテレビを消したけど、


サスペンス劇場の他にだって番組あったんだし、

チャンネル変えても良かったんだと思ったのは、

しんとした屋敷内の、静けさが耳についてからだった。




今からテレビをつけても突然恐いシーンだったら恐いし、

それよりも、テレビに変なものが映ってそれが出て来るかもしれない、

「さだこ」みたく…。



さっきまで、わいわい騒がしくしてくれた面白い箱が、

途端になんだか途方もなく恐いものに見えてくる。

もうこれでラジオもCDも同じ理由で聞けなくなってしまう啓介である。

今日は両親と兄が偉い人のパーティに呼ばれて県庁のそばのホテルに行っている。



遅くなるとは聞いてたけど…。

先に寝ていなさいと言われてたけど…。



頭に置かれたやさしい指に早く触りたくて…安心したくて…。



啓ちゃんは男のこなんだから、がまんできるよね?。



「…がまん…するもん」

ベッドにもぐり込んで、ふにゅ…とタオルケットを抱えこんでみる

柔らかい感触が大好きで、

お日様のにおいのするタオルを、くんくんするのが大好きで、

いつもはそうやってるとすぐに寝ちゃうんだけど…。



「はやくかえってこないかな…兄ちゃま」

タオルよりテレビよりミニカーよlり。

自分の額にやさしく口づけてくれるくちびるが好きなの。

やさしい目がすきなの、長い指がすきなの、まつげが好きなの、

けいすけって呼んでくれるこえがすきなの。



「……けいちゃ、おとこのこだもん…」


し…んとした屋敷の中、

外を走る車の音と、どこかで騒ぐ女の子の声が、楽しそうに響いてくる。

怖いからと電気も消さずに潜り込んだベッドの中、

目をつぶると視界の隅に白いものが見える気がして、

頭まですっぽりと毛布を被ってしまった。



いつまでも、いつまでも、聞きなれた音を待ちながら……寝返りをうちながら…

兄の笑顔を思いながら………。
X'mas X'mas