2009.08.08
「うぁっ!」
激しい雷鳴と光に、ついつい飛び上がってしまった。
空模様は最悪。
昼なのに夜のような暗さで、そういえば昨日は雹まで降ってきたはずだ。
「ひょー。 参ったなこりゃ」
これから向かう先は、まさにその元凶というかなんというか…。
「ったく誰だよ、小十兄一人でやらした奴ぁ、って当の本人か。 なら仕方ねぇな」
政宗の政務の補佐で城に詰めている小十郎にたまには休みを、
との政宗の計らいだったのだが…。
自分から言い出したにもかかわらず、3日ももたずにご機嫌は最悪。
それに呼応するかのように、天候は下り坂。
そして3日連続の大雨、大風、雷に雹、ときた。
幸い作物の収穫は既に大方済んでいるから良いようなものの。
「まさかねぇ」
とも思いたくもなる。
ってか、なんとなく納得ちゅーか、やっぱそう?
「おーい梵、起きてるー?」
ふすまを遠慮なくガラリと開く。
とっちらかった書類の中に、そっぽ向いて不貞寝を決め込む殿が一人。
「またやったん? これ、俺、今日持ってかなくちゃなんねー書類なんだけど…なぁ?」
端の方に飛び散る一枚を指で摘んでぴらぴらーとしてみる。
文の大方は記入済みで、
後は政宗が目を通し花押をしゃしゃっとやってくれれば事は済むんだけど、
こればっかりは本人じゃないとマズイわけで…。
「……」
不貞寝をする肩越しに、ぎろりと成実を見やる政宗。
おりしも雷鳴が轟いて、その瞳が金色に…うっわぁ…。
(いやー普通ありえねーって。
もうさ、俺だから良いけどさーって。
だから皆に拝み倒されてきたってのもあるんだけど…。
政務が滞って何人が難儀してることやら)
「………いつ帰るって?」
「明日」
憮然とした声で即答する。
よくよく見て見れば、とっちらかった書類の中に見覚えのある筆跡が。
「はあ〜。 もうさ、今度から二人一緒に帰れば? 小十兄んち」
「なんでそこで小十郎が出てくんだよ。 関係ねーだろ」
んなわけあるかい。
…とはいえない。
ともかく、なんだ。
俺の仕事は結局確実一日は遅れるのね。
あーまぁたジジイどもにどやされる……と深いため息をひとつ。
自分から言い出したことでイラついてるのだから、誰にも当たれず、
適当に仕事にハケ口を求めているだけなんだろーなーとは思うけど…。
「これさぁ、小十兄戻ってきたら覚悟しとけよ。 こ ご と」
「っ!」
瞬間半身を熾した政宗の表情が…。
ぷぷっ、と思わず噴き出してしまった。
「ぅわかったっ、わかったわかった!
ギブギブ! すとっぷってば! …もう、俺でもできることなら手伝ってやっから。
できるだけ手ぇいれとけって、な?」
「うー」
もさもさと体を起こす膨れ面。
ちった機嫌も直ったか? 天気も雷からしとしとした雨に変わってら。
「んで、えーっと。
この書類の山まとめといてやっから、そっちの方からやっちゃっとけよ。
半刻ぐれーで甘いもん出すように頼んどいたから」
ここんとこあんまりにも主の機嫌が悪くて、そこまで気が回っていなかったろう
と思ってたが、
おやおや、雲の切れ目から何やら薄日がさしてきたぞ…と。
ホントわかりやすくてかわいー奴だよなー。
小十兄が何やかや理由つけて離れたがらないの、よーくわかるぜ。
いそいそと文机の周りを這い回り、あれじゃないこれじゃないと書類あわせを
楽しんだ(?)半刻後。 頃合もよく小十郎帰参の報が入りましたよ。
明日帰着予定じゃなかったっけ? まータイミングの良いこって。
それでは邪魔者は退散しますかねぇ。
・・・・少し位の小言は甘んじて受けろよ、梵。
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