「文学横浜の会」
文横だより
2008年(平成20年)
<12月号> 平成20年12月7日
文横だより(2008年12月号)
先月末、高校時代を過ごした山陰のまち、松江を訪れた。
さて、いよいよ極月。今年最後の文横だよりをお届けします。
例会出席者:浅丘・石原(恵)・落合・金田・河野・陳・新開・堀・三浦・益野・八重波・山口・藤野 ※神尾
神尾さんは今回初参加。
テーマ :中島敦/南島譚より「幸福」「夫婦」
33才の若さで亡くなった作家、中島敦は、多く、中国の故事に材を取り、漢文調の格調高い文体で知られている。いずれも、珠玉の作品である。今回取りあげた南島譚の幸福、夫婦の2篇は、異色で、作者がパラオに赴任して、その島に伝わる民話を、作品として仕上げたものであろう。喘息で亡くなる直前の作品に拘わらず、健康的で、無駄のない簡潔な文体である。
「幸福」は、島で最も哀れな男と、島一番の権力者が、偶然、互いが相手の対場に入れ替わった夢を見た、という物語である。幸福とは、意識の問題という、風刺であろう。
「夫婦」は、島の女が、腕力で凄まじい格闘して、勝利者が男を取るという、島の風習をユーモラスに描いている。南の島らしい大らかな物語である。読後感は、いずれも、開放的で、楽しく爽やかである。
●39号の進捗:
●会費について:
●次回の例会:
以上 文責:八重波
<11月号> 平成20年11月2日
文横だより(2008年11月号)
生き物の多様性の保持がグローバルなテーマとなって久しいが、絶滅の危機に瀕している動植物はなお増え続けているらしい。
イギリスBBC制作のNature番組によれば、地球上の生き物を絶滅から救う最も効果的な方法、それは人間が一日も早く絶滅することだという…嗚呼、宜なるかな!
11月の文横だよりをお届けします。
●例会出席者:
●テーマ:久米正雄「手品師」
主人公は場末の劇場の戯作者。高尚な文学に憧れながら、糊口を拭う手段として ‘客が入ってなんぼ’の世界に浸かっている我が身を託っているのですが、そのうち自分の書いたものによって泣いたり笑ったりする客のダイレクトな反応に喜びを感じるようになります。
そこへアメリカ帰りという触込みの手品師が現れ、見事な手品を披露し、首尾よく興行主の意を得ます。それを見ていた主人公は手品師に「はじめから手品師になるつもりだったか?」と尋ねます。手品師は「初めは真っ当な仕事をするつもりだったが、食うに困ってこの道に入ったらもう止められなくなった」…と答えます。
ただそれだけの、ひとつの職業観を表現した短篇と言えるのですが、通俗小説作家として生きることを選択した(あるいは余儀なくされた)作者、久米正雄の開き直り(?)の弁のようにも思われます。
それにしても昨今の文庫本の寿命の短いこと。短篇小説シリーズなどすぐ書店から姿を消してしまいます。したがって例会時の読書会のテーマは当分「青空文庫」の中から選ぶことになりそうです。
●39号初校:
●次回テーマ:
中島敦「南島譚(1)幸福(2)夫婦」…「青空文庫」からダウンロードできます。
以上、文責 八重波
そう言えばあれほど賑やかだったツクツクボウシの鳴き声がいつの間にか熄んでいる。
さて、10月の文横便りです。
●例会出席者:
今月は読書会のテーマが間に合わず、39号の原稿や、河野さんが自費出版された「鳥ちゃんのこと」が主な話題になりました。
39号の原稿はほぼ出揃い、現在金田さんが耕文社への入稿準備に入っています。執筆者は50音順に浅丘・石原(憲)・金田・河野・新開・原・藤野・三浦・八重波の9氏。ボリュームは350枚程度になる予定です。執筆者のみなさん、初校時までに後記としてのコメント(200字以内)を用意しておいてください。
また39号への出稿が間に合わなかった同人のみなさん、特に今年になって入会された須網さん、石原(恵美子)さん、増野さん、小島さん…半年後の記念すべき40号にはデビュー作をぜひ!
河野さんの「鳥ちゃん」は世田谷文学賞を獲った作品です。すでに作家を生業とする錚々たる面々からも賛辞が寄せられています。何部かいただいたので、順に回覧します。来月までお待ちください。
●次回例会は11月1日です。テーマは追ってお知らせします。
( 以上、文責:八重波 )
<9月号> 平成20年9月9日
真夏の炎天下でもやはり‘歩き遍路’はいた。ほとんどが20代、30代の男で、中には外国人の姿もあった。「願をかける」…もはや彼等にそんなイメージはない。
●例会出席者:
●テーマ:村上春樹「蛍・納屋を焼く」
日本人の作家の中では一番ノーベル文学賞に近いと言われている村上春樹、「蛍」はその短編で、二十数年前に書かれたものです。
とにかく今回は女性に押されっ放しの読書会でした。
●次回の例会:
●39号について:
文責:八重波
<7月号> 平成20年7月7日
7月になった。
(7月の文横だより、お届けします。)
★例会出席者:
※今月も新しく2名の方の出席を得て、総勢14名と盛況でした。
お二人はベートーベンのピアノソナタをこよなく愛しているという小島裕子さんと、文横同人の平均年齢40代という「いにしへ」の情報に ‘惑わされて’ やって来た若山聡さん(42歳)です。
●テーマ:
本棚のどこかにあるはずだと思いながら探したけど、どうしても見つからない。面倒になり結局、新潮文庫を求めました。そして奥付けを見てびっくり。今年の6月25日で、101刷となっていました。
日本文学史におけるプロレタリア文学の記念碑的な作品として、細々と読み継がれてきた理由はわかるけれど、ここまで版を重ねていたとは…やはり若者が競って買ったということでしょう。
マスコミではこれを一つの社会現象として捉え、「ワーキング・プア」や「ニート」と呼ばれている現代の若者たちの置かれている状況と、蟹工船で働く者たちの抑圧された状況とを重ね合わせ、この作品に対する若者たちのシンパシーはそこから生まれたのだ…と説明しています。
しかしあらためて読んでみて思いました。「蟹工船」を読んでほんとうにインスパイアされた若者が果たしてどれだけいるだろうか?この本がここまで売れているのは、一つの「ファッション」ではないか…と。
昭和4年に書かれたこの小説は、資本家(その手先)と労働者、搾取する側とされる側というシンボリックな構図から成っており、資本の論理の必然の趨勢である非人間性に立ち向かうには、労働者が団結しなければならない…というわかりやすいメッセージを発しています。この ‘浪漫的共産主義’ とも言えるメッセージを若者はどう受け取ったのか…残念ながら文横にはこの世代の同人がいないのでわかりません。
昭和4年と現在とは社会状況が全く違う。若者がこの本を読んだとしても自分とダブらせることはないのではないか…そもそも今の若者がそこまでこの本を読み込んだりするだろうか?…そんな声が大勢を占めました。
視点を変えて、純粋に文学作品としてはどうか…糞壷と言われている船倉での閉塞状況の描写にリアリティはあるけれど、一人ひとりの人間像が希薄なためか、メッセージが透けて見え、文学作品としての完成度は高いとは言い難い…というのが大方の感想であったように思います。
ある同人が冗談混じりに言いました。「もし今の若者が健さんの「網走番外地」や「唐獅子牡丹」を知ったら、一挙にそちらの方に走るんじゃないの」…うん、あり得る。なんだか、そんな気がしないでもありません。
★会場がかなり騒々しかったですね。無料だから贅沢は言えないけれど…
●次回の例会:
●39号原稿締め切り:
●会計係:
<6月号> 平成20年6月8日
★例会出席者:
※ニューフェイスの益野さんは山口県出身の建築士。芸大を含む二つの大学を中退し、各地を放浪(?)、十数年前、横浜に流れ着いた(本人の弁)という方です。
★テーマ :
●小説を書くという作業は単純労働の一種である
「小説作法」についての話し合いがいつしか「純文学とは何か」というテーマに移り、各人各様の定義が飛び交いました。
★次回のテーマ:
★講座のお知らせ:
●日時:6月15日(日)午後2時半開場 3時〜5時半
<5月号> 平成20年5月13日
5月の中旬とは思えない冷たい雨。台風2号の影響だったら生温い南風になってもよさそうなものなのに…
【例会出席者】:
*石原(恵美子)さん・河野(かわの)さん・須網さんは当日新しく見えた方で、河野さん、須網さんはジャーナリスト、石原さんも豊かな文学体験をお持ちの方で、「文学横浜」活性化のためにもぜひ入会を期待したい、と思います。
【テーマ】:
小説を書くという行為は言うまでもなく密室での孤独な作業です。独りでシコシコ書くしかない。ではなぜ同人雑誌という場を持つのか? すでにその役割は終わった、とさえ言われ(事実、文学界の同人雑誌評はなくなるそうです)、流行遅れの感すらある同人雑誌に属することの意義はどこにあるのか?
…手っ取り早い発表の場だから…文学的刺激の中に身を置いていたいから…多分それが昨今の多くの同人のホンネ(文横に限らず)であろうし、それはそれで尤もなことだと思います(おそらくそれ以上は期待できないだろうから)。
ただ、もしそれに加えるメリットがあるとすれば、ごく少数ではあるけれども同人という名の熱心な読み手がおり、自分の作品について、思い思いの批評をしてくれるということでしょう。
それは時に正鵠を得た痛い評のこともあれば、的外れの評のこともあるのですが、少なくとも自分の書いたものが他人にどう読まれたかはわかる…そして自分の気づかなかった誤字や表現の誤りを指摘してもらえる、というごく実用的なメリットもある…これは案外‘めっけもん’かもしれない……と、ぼくが言うのは何だか妙なものだけど。
【魚せいにて】:
<4月号> 平成20年4月8日
さ く ら の さ は さ よ な ら の さ
月並みな感情だなあ、と思いつつ、降りしきるさくらの花びらが夕風に溺れる様を見ていると、柄にもなく春愁めいたものを感じます。人が花の下で騒々しく酒を酌み交わすのは案外そのせいかもしれない。
例会出席者:
今月の例会では「文学横浜」への掲載基準等、いくつかの懸案事項について話し合い、以下のように決まりました。
●掲載基準:
新規加入者の作品について、掲載にあたっては編集員(複数)が判断することとします。
●チェック:
●発行:
39号の締め切りは2008年9月とする。(300枚以上の場合は先着順として、残りは次回分となります)
●合評会:
懸案事項についての話し合いの後、38号の作品の中から今月は「ガン」を取り上げ、文章のディテールについていろいろ検討しました。また視点のずれという合評会での問題点に関して、複数の同人から「外国文学の場合は視点のずれはよくあるし、三人称で書く場合にはそれほど気にしなくていいのではないか…」という話が出ました。
翻訳小説を読んでいて視点のずれに気付いた経験はないのでなんとも言えないけれど、もしかしたらそれは訳者の問題かもしれないし、あるいは、ずれをずれと感じさせない文脈上の必然がそこにあるのかもしれません(たとえば一葉の「たけくらべ」のように)。しかし何らかの表現上の効果を狙って意識的にそうするのでない限り、小説を書く上での原則として「視点がずれない」よう心しておくべきだと思いますが、いかがでしょうか。
★5月例会:
<3月号> 平成20年3月5日
ものみな息吹く3月。何があるわけじゃないけれど、陽を恋う一匹の動物として妙に心弾む季節…。
同人雑誌はいまや‘老人雑誌’になっていると聞くと苦笑しながら頷くしかないのですが、いつ果てるともない
この「大いなる助走」を倦むことなく続ける行為自体が、己の不確かな生への抗い、今を留める果敢な所業だと
考えればそれはそれで意義あることのように思えてきます。
さて、今月の文横だよりは先日の38号合評を通じて浮かび上がった共通の問題点や、次号へ向けての検討課題
を取り上げてみたいと思います。
合評会出席者:浅丘・天馬・石原・井上・上村・陳・金田・新開・小池・山口・名取・原・三浦・藤野
<合評会より>
●視点のずれについて
●専門知識が生むリアリティについて
●タイトルについて
●人間への迫り方について
<次号への検討課題>
●ボリュームを半分にしても年2回の発行とする…現実問題として可能かどうか
次の例会(4月5日)では、38号の掲載作品についてより細かい検討を行うことになっています。作者にとって
みれば「もういいよ」という心境かもしれませんが、自分が気付いていない改善点も案外多いもので、第三者によ
るディテールへの指摘はけっこう役立つのではないと思います。
したがって、みなさん、次回はぜひ1次会からご参加ください。もちろん38号をお忘れなく!なお、上記の検討
課題については2次会の席で話し合ったらどうでしょうか。
それはそうと勝又先生はディテールまでしっかり読み込んでくれていましたね。次号もぜひお願いしたいところで
すが、発行が年2回となると、予算的に相当キビシイのでは。
<2月号> 平成20年2月4日
●2月例会の出席者:
★原さんはこの日初めて見えた方です。これまで児童文学のジャルンルで活動されていたそうですが、それに飽き足らなくなり、新境地を拓くべくチャレンジ中だとか。すでに児童文学では5冊を出版、江戸川乱歩賞に700枚を書いて応募されたこともあるそうです。700枚と聞いただけでぼくなどはそのエネルギーに畏敬の念を抱きます。もし原さんが文横に入られるとしたら、次号が楽しみです。
★久々に小池さんが出席されました。なんでもここ4年、江戸の歴史、特に宝永年間を猛勉強中だとか。何のために? もちろん時代小説を書くために。藤沢周平は架空の「海坂藩」。小池さんはやはり「会津藩」が舞台かな?あるいは江戸の市井に生きる庶民の日常の機微を?勝手な想像がどんどん膨らんでいきます。たしかに食べ物一つをとっても考証が必要だし、1枚書くのにも大変な労力を要すると思います。もし、次号に間に合うなら、ぜひその成果を発表してください。
●合評会について:
●一葉文学散歩:
●提案:
●魚せいにて: |