「文学横浜の会」
文横だより
<1月号>平成23年1月17日
水平線…と聞くと「遥か彼方の」という常套句で形容したくなるのだが、どうやらそれほど彼方でもないらしい。
三平方の定理(中学校で習ったはずだとか)で計算すると水平線までの距離は、目の高さにもよるがおよそ4.5kmだという。
空と海の鬩ぎ合うあの境までわずか4.5km…しかしそれはどこまで行っても辿りつけない4.5km。その先にはなおくっきりと、きららなす線があるのだ。4.5kmであろうが、45kmであろうがぼくにはどうでもいい数字に思えてくる。
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では、今月の文横だよりをお届けします。
◆例会出席者:浅丘・岡部・金田・篠田・山下・八重波 / 遠藤・荻野・三宮 / 藤野
◆例会テーマ:アーネスト・ヘミングウェイ「殺し屋」。
◆2月の例会:2月5日
◆その他:
41号は2月上旬頃にできる予定です。
(以上、八重波記)
以下のまとめは今月の幹事、浅丘さんです。
<アーネスト、ヘミングウエイ>
1899(明治32)生
1961(昭和36)没。第一次大戦に参加して、重傷を受ける。
その後、セスナ機を自ら操り、二回にわたり事故し重傷する、その後遺症に悩まされ、ライフル自殺。
最もアメリカ的な作家といえる。その作品は、生前は常に、ベストセラーのトップだった。今なお、人気は衰えない。
作品はどことなく哀愁の余韻を帯び、読者を惹きつける。
バルザックは欲望を、スタンダールは権力慾を、ドストエフスキーは罪の意識を、トルストイは禁慾を描いたとすれば、ヘミングウエイは、男の闘争本能を描いたといえるのではないか。
アフリカでの狩猟、カリブ海の漁、スペインの闘牛、アメリカのボクシングなど、命がけの闘争や冒険活動を好み、題材とした。内戦のスペインに入り「誰が為に鐘がなる」という作品もある。ハードボイルド作品の原点とされる。
「キリマンジャロの雪」は、短編ながら、名作だ。アフリカの大地で、ハイエナに襲われる恐怖を描いている。映画(グレゴリー、ペッグ主演)が評判となった。その他、作品は、多く映画化された。
「老人と海」は、晩年の代表作で、カリブ海の巨大なカジキマグロと、老人が、孤独に耐え、幾日も死闘する感動的な長編だ。
「殺し屋」は、60枚くらい。(The Killers)
(ストーリー)
ヘンリー食堂へ二人の男が入ってくる。黒い胸の詰まったコートと山高帽といった風体である。ジョージと、ニック少年の二人に、「常連のアンダーソンが六時に来る筈だ、来たら、射殺する」と予告して、調理人サムとニックを縛りあげる。「ほかに客が来れば、断れ」と命令する。短く詰めたショットガンを、スツールに立て掛け、待ち構えている。
二人の殺し屋は、時間がきても、アンダ−ソンが現れないので時間稼ぎか、盛んに喋りまくる。
ニックは、アンダーソンの居る宿に、殺し屋が来たことを告げに行く。「警察に知らせましょうか」しかし、アンダーソンは、殺し屋のことを既に知っていて、何をしても、もう無駄だと、諦めた風に答える。シカゴの暗黒街の闇の掟の世界である。
書き出し。
ヘンリー食道のドアが開いて、二人の男が入ってきた。という、うまい書き出しで始まる。
サルトルにもこういう書き出しの作品があり、サルトルの文学論でも、読者を引き込む、うまい書き出しとしている。情景描写抜きに、いきなり、核心に入っていくやり方だ。
会話主体(しかも、極めて短い会話の応酬)で構成している。この会話主体を、良しとするか、煩わしいとするかの評価は分かれる。
しかし、ここでは、アウトロー二人の、脅しのきいた、事件を予感させる意味ありげな、会話の応酬が面白さであろう。裏切り者は消せが、シカゴの暗黒街の掟であろうか。
殺し屋に狙われている、ボクサー崩れの男の不安な心理を、内面描写をせずに、外面描写で読者に想像させる。
簡易食堂で射殺など、構成的には、ちょっと無理かとも思うが、その無理を感じさせない。
少年ニック、アダムスは、ほかの作品でも多く登場する。ヘミングウエイ作者自身の分身であろう。短編の多くは、ミシガン湖西北が舞台である。
私は、この作品の劇化を、無名の劇団の一幕物を観劇したことがある。
<例会で出た意見>
@数名から、へミングウエイとは思えぬ、違った印象の作品だとの感想があった。
Aムダを削ぎ落した省略の利いた作品である点。
B翻訳者次第で、別の作品かと思ったくらいだ。
C日本の私小説と比較する意味で、大いに参考になったという感想があった。
D冒険好きの、いかにも男性的な作家らしい、その自殺も、いかにも彼らしい。
E逆に、女性側からは、よく理解できない点がある、との感想があった。
F人気作家だけに、参加者は、皆それなりによく読まれていたようだ・・・等々。
(浅丘記)
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