「文学横浜の会」

 文横だより

<6月号>

過去の「文横だより」

平成23年6月7日


決して物見遊山で出掛けた訳ではない。無論、仕事で出掛けたのでもない。

一ノ関駅から復旧した大船渡線に乗り、終点の気仙沼駅で降り立つと、そこは静かな街並みだった。 3月11日以前だったら更に先、大船渡或いは古川まで行けるのだが、今回の津波で線路は流失して復旧の目途は未定だと言う。

降り立った駅と周辺は幸い被害を免れて、既に震災の面影は何処にもないが、街の静けさが異様に感じたのは私の感傷だろうか。

人気のない街を港に向って歩く。 暫く歩くと道路は少し下っていて、後で訊いたのだが、 なだらかに下る道路の途中まで津波は押し寄せ、震災直後は車や瓦礫が方々に散乱していたとの事。

更に歩き、港に近づくにつれて、ニュースで目にする凄惨な光景を目の当たりにする。 破壊され、或いは傾いた建造物の解体撤去作業は続いていて、処々に瓦礫が散乱していた。 津波の洗礼を受けてなお建造物の外観を残すビルも、ガラスは割れ内部はメチャメチャだ。

駅を降りてから二十分も歩いていないのに、この有様をなんと表現したらいいのか…。 内陸部から電車を乗り継いできた者の眼には、このほんのちょっとした差が、地獄の境目のように思われる。 運命の境目とは斯様に厳然としてある。

威勢のいい掛け声と活気ある巨大な市場はもはや見る影もない。 どのような復興であれ、巨大なマグロが並び、フカのヒレが並ぶ長い長い魚市場をまた見たいと切に思った。

               ★

【文横だより2011年6月号】

◆出席者
 浅丘・遠藤・岡部・金田・三宮・清水・新開・篠田・山下/藤野・河野

◆読書会テーマ
 「火車」宮部みゆき(担当、三宮さん)

<参加者の感想>

:カードローン社会への問題提起として理解すべきだろうか。ミステリーとしては、あっけない。

:面白く読めて、ひきこまれる。 が、犯人を特定する具体性に欠け、すべて推理にもとづくところが、ミステリーとしての弱点。 作者にとって一番苦しいところを、最後まで書ききってこそ、「作品」といえる。

:なかなか長編を読みきれないが、作者は会話文を多くしてページ数を稼ぎ、読みやすくさせている。時代性がよく現れている。 素材の見つけ方が上手い。

:読んだことのある作品だが、内容は忘れていたので再び読んだ。 児童文学から出た作家かと思っていたが、どうだろう。 描写がくどく、まどろこしい。カード破産と言うテーマも、、今では古いのでは。
犯人像も素直すぎる。人を殺し、その身分を乗っ取るような女が、殺した相手がカード破産者とわかったくらいで、行方をくらますだろうか。 婚約者の和也のような単純な男は、容易に騙せそうだ。 エンタメ小説としては、犯人の新城喬子はあっさり逃げださず、もっとねばって食い下がるところを見せてもいい。

:宮部みゆきは初めて読んだ。 自分は純文学畑なので、エンタメ系を読んで、違和感がある、むだな文章が多い一方、物足りなさがある。 一番好きな作家は、宮尾登美子。

:活字が小さく読みずらいので、読んでいない。

:物語の半分は読んだが、自分の好きな種類の作家ではない。

:宮部みゆきは好きな作家。安心して読むことができる。

:宮部みゆきは、友人から薦められて初期から読んでいる。 ミステリー、時代物と、幅広く展開される宮部ワールドの中で課題本に「火車」を推したわけは、犯人像に一抹の共感を覚えるから。
もちろん、人を殺すことに肯定の余地は無い。しかも、どんな恨みも無い相手を、ただ身分を乗っ取るにふさわしい条件を持つ、 と言う理由で殺すことは、冷酷無情だ。 一方、ゆがんだ経済機構の中で、身ひとつで追い詰められ、逃げ惑う若い女性が、 保身のため牙をむき、身寄りの少なさで似た立場にある同性を殺す状況に、やるせなさを感じてしまう。
この犯人像に、恐ろしさと同時に、哀れさを感じる。

以上、三宮記

◆次回
 7月2日(土) 18時〜
 テーマは「オイディプス王」藤沢令夫訳(岩波文庫)
 幹事は藤野さんです。
<藤野さんより、以下の観点から考察してほしいとの事です>
1.オィデイプスが秘密を知ったのはどのあたりか。
2.イオカステが秘密を知ったのはどのあたりか。
3.テーマは何か。
4.スフィンクスの暗示したもの。
その他
5.エディプスコンプレックスについて。

◆その他
 今回から二次会の場所が「おもいで横丁」になりました。
全品300円のリーズナブルな金額で、若者向きのサラリーマンが気軽に立ち寄れる店です。

以上(金田)


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