「文学横浜の会」

 文横だより

<11月号>

過去の「文横だより」

平成23年11月8日


晩秋にも拘わらず、今年は虫の音が聞こえて来ないのは気のせいだろうか。

海外では、タイで百年に一度と言われる大洪水に見舞われ、まだ水の引く気配はなく、 庶民の暮らしが日常に戻るまでにはまだまだ時間がかかりそうだと言う。

日本においても局所豪雨や、台風の齎す豪雨は、激しくなったような気がする。

地球の温暖化が言われて久しいが、諸外国の気候変調と併せて、 地球規模で気象が変化していると考えるのは考え過ぎだろうか。

地球規模でみれば、地球そのものは動いている。

何万年前の日本列島は大陸と地続きだったし、アメリカ大陸も今の場所にはなかった。 つまり大陸移動説だ。

今回の東北大震災で大地が動いた距離は場所によって異なるが、センチの単位だと言う。 大陸の移動は長い期間、徐々に動いたと考えられるが、例え一度に1センチ動いたとしても、大地に大きな変化を齎したに違いない。

つまり地球は生きているのだ。 地球に言わせれば、今回の東北大震災もクシャミ程度、或いはそんなでもない動きなのかも知れない。

人間が考える百年に一度の災害対策とか、千年に一度の災害とか等、所詮、地球生命の視野から見れば噴飯ものだ。

               ★

文横だより2011年11月号を送ります。

◆出席者  浅丘、山下、岡部、河野、三宮、金田、篠田、/藤野

◆読書会テーマ
 11月5日(土) 横光利一作「上海」、「微笑」

(1)『上海』について
 長編である上に、文章が読みにくいにせいか、出席者の中では数名が半分ほど読んだが、読み終えたのは少数だった。 そのため、この作品については余り議論することが出来なかった。

(岡部は担当者として熟読したので、 1925.5.30の死傷者も出た上海市ゼネスト事件の具体的な場面や当時の列強に食い散らかされようとしている 上海の情勢が首尾良く描かれている、 日本人の登場人物たちの恋愛模様や彼らがその社会情勢に飲み込まれて不安にかられて行く様などが巧みに語られているなど、 この長編を十分に楽しむことが出来たが、しかし)読みにくい長編を選択したのは適切さを欠いたかもしれない。

反省!

(2)「微笑」について
 日本の敗戦一年前の秋に始まる、「天才的な若き数学者(小説家"梶"が彼のえも言われぬ美しい微笑に魅了されたのが物語の発端だ)が 殺人光線兵器の発明に成功しつつある」という噂の真偽をめぐって物語が進められる。

もしそれが成功したら苦しい戦況を一変させるかもしれないという願望。 しかし研究は絶対的に秘密裏になされねばならないから憲兵が四六時中数学者の周りに張り付いているという状況。 しかし気分転換のため趣味の俳句の会への出席は認められている。

一方では、数学者の時折の奇怪な言動は彼が天才であることを表すのか、それとも、正気でないことを示しているのか、等々。

スリルとサスペンスに満ちた短編であることは確かだが、こんにちの観点からみて、 この作品が我々にどの程度に感動を与え得るかに関しては意見が分かれた。

(3)新感覚派について
 横光利一は、大正文学の潮流たる自然主義の文学や私小説に対して、新感覚派を立ち上げたことで有名であり、 高名な文芸評論家の間でも注目されてきた。

例えば、小林秀雄は彼の「機械」を、篠田一士は「微笑」を高く評価している。 しかしこれら両評論家の時代から既に半世紀経過しようとしている。

本日の読書会の出席者の読後感想から察するに、こんにちの大抵の読者は長編『上海』をスラスラとは読むことは出来ないだろう (もしくは、少なくともスラスラと読む気にならないだろう)。

また短編「微笑」からも、恐らく当時の読者よりは、感動を与えられることは少ないだろう。 どちらの作品も、テーマは興味をそそるものだが、読みにくくしているのは新感覚派の凝った文体・文章のせいだ、という可能性がある。

もしそうだとすると、我々に投げかけられているのは、 両評論家の有していた(文芸作品の)評価基準と我々がいま持っている評価基準は一体どのように違ってきたのか (我々の進歩または退化の可能性も含めて)、という問題なのかもしれない。

  以上、岡部、記

◆次回
 12月3日(土) 18時〜
 幹事は篠田さんです。
読書会テーマはアベ・プレヴォー作「マノン・レスコー」

岩波文庫(河盛好蔵訳)、新潮文庫版(青柳瑞穂訳)
詳細は別途メールにて連絡します。

◆その他
 42号の初校は来週以降になる予定です。届き次第郵送します。
 43号は2月末に締切とします。(若干の枚数、追加掲載可能)



以上(金田)


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