「文学横浜の会」

 新植林を読む


2010年4月28日


「新植林44号」

「巻頭言」

 近頃聞く歌曲の歌詞から。社会変化の流れの中で、男女の価値観が覆されていると警告し、豊かさとは何かと問うている。
つまり昔はどんな人でも人力として社会に必要たされたが、今はそうでもない。「どんな人でも必要とし、生かせる社会こそが豊かさ」と言っている。

短歌「旅」               パスカルこと子

 毎回、自然豊かな環境を詠んでいますが、今回は心の「旅」を含めた歌でしょうか。10首の中から。
「流氷を砕きつつ進むオーロラ号北を旅する姪の便りは」
「幾山河移り変れど母の國異郷にあれば恋しきものを」
「澄みわたる空の青さよ裸木を点景として浮かぶ月影」

随筆「Ghost Town」「Independence Pass」
   「ELY(イーライ)」         津川国太郎

「Ghost Town」とは「無人になった町」だと言い、観光地なっているんですね。
「Independence Pass」(独立峠)はコロラド州にあるそうですが、どうしてそう名付けられたのかな?
「ELY(イーライ)」というネバダ州にある小邑を訪れた際の風景を紹介しています。

短歌「キャンパスに描く」        中條喜美子

 何れも作者の近辺から歌った10首から、
「富有柿新参者の顔つきでスーパーの隅六個並びぬ」
「真向かいて線となりたる白鷺の飛び立つ時の羽根の広さよ」
「バスタブの壁這う蟻は湯に濡れしもう一匹をひきずり上る」

短歌「闇の重圧」            ネルソン テリー

 昔のことを思いながらの歌でしょうか。10首の中から、
「夜をこめて濃霧に里は包まれて白一色の夢に目覚める」
「夕月を空ろな心で眺めみる独り負いいる闇の重圧」
「さくさくと砂利の鳴る径ふみゆきつ残生委ねる吾れの歩行器」

創作「赤い格子のテーブルクロス」   シマダ・マサコ

 作者の異国における体験を通して書かれているのだと思うが、今ひとつ解らない部分がある。

随想「俄か庭師」           花見雅鳳

 振り返ってみれば、所謂、人生における大きなターニングポイント、とみなす作者の渡米直後の庭師としての体験談。
日本にいては絶対に経験できない話だが、本人にしてみればさぞ大変な経験だったろう。一種の異文化体験だが、他国を知らない読み手としては興味深い。

随筆「北米俳句史断章」(下)  長島幸和

 創立90周年を迎える北米最古の俳句結社「橘吟社」の主宰者であり、今年傘寿を迎える宮川慶子さんからの聞き書き。
今後の会の展開、俳誌の内容、アメリカ俳句の変遷、今後の方向について聞いている。他国の中での日本語、という制約の中で様々な問題を抱えつつ、会を維持するだけでも大変だと思う。

エッセー「おじゃまでしょうが(柴犬 愛ちゃん)」 中條喜美子

 クリスマスのプレゼントに子供たちからプレゼントされた柴犬「愛ちゃん」との交友噺。子犬の観察が行き届いて上手に表現されている。

随筆「在米半世紀の回想録(その七−B) 井川齋

 作者の回想録。今回も力作で、作者21才前後、日本にいる母親の死までの話。
日本を離れた時から心の中では母のことも「既に無き母」と覚悟をきめての渡米とは、作者の渡米に際しての如何に強い気持ちだったかを知る。
 無一文で渡米した多くの日本人がそれぞれ特異な経験・体験をしているのだと思うが、それにしても読み応えがあり、アメリカの大学スポーツの一端をも垣間見せてくれる。

ノンフィクション「ある国際結婚(その三)」 清水克子

 人生を見つめ直している作者の回想録。
今回は、学生時代に知り合った彼と「悔い」を残しながら結局離ればなれになって、それの反動なのかベトナムに派遣されていた韓国人の彼と文通を再会して結婚も考えるようになり、文通相手に逢うためにソウルに向かうまで。

随筆「古典とクラシック」   和山太郎

 沖縄三線の教え方を述べ、アメリカでの西洋音楽の教え方との比較して非合理的だと言う。後継者の育成問題も絡めて「時代に沿った教え方に改善していかなければいけないのでは」と述べている。

私小説「インディアン サマー(六)」 杉田廣海

 膵臓の手術を受けた私は職を得ようと、ビバリーヒルズでの住み込みクックの募集に応じた。田村という男に邸に案内されて、そこで働く人たちを紹介される。
実技試験のように田村に料理を作るように言われて料理を作ったところで、「好美」という女が出てきて田村に紹介されるが、クックとして採用さえたのかどうかはまだ判らない。

文芸誌 in USA 新植林
第44号・春期・2010年3月
e-mail:hsugita@sbcglobal.net
homepage: http://www.shinshokurin.com
定価:6ドル+TAX


<金田>


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