「文学横浜の会」

 新植林を読む


2018年 5月17日


「新植林60号」



「巻頭言」

多くのニュースがある中で、「圧倒的に悪いニュースが飛び交い、寡聞にしてあまり良いニュースは耳に届かない」と言う。 悪いニュースとしてシリアや北朝鮮に関連する例をあげている。 悪いニュースの種は尽きない感じだが、如何なる理屈や大義があるにせよ、犠牲になるのは普通の人々だ。

良いニュースとして大リーグに移った大谷選手を取り上げている。大谷選手の活躍は日本人として嬉しい。

小説「福島ラプソディ(三)」            中野隆一郎

 「恋のプレリュード」の副題で、小林早苗、その友人の堂門美紀が登場する。 早苗は美紀が経営する「パンドラ」の店を手伝っている。
小林早苗は小林信吾の妻だが、信吾は仕事中心で、思春期にある娘の千恵との関係もギクシャクしている。 そんな折、店に松岡信弘が現れて、早苗は信弘と親しくなり、NPO福島支援隊の集会に誘われる。

 松岡信弘は早苗を誘ってはみたが、多分来ないだろうと思ている。 自分はホームレス村で学者と呼ばれている井村宏とのNPOの活動で忙しくなる、と考えている。

短歌「朝日歌壇の入選歌」              中條喜美子

 筆者は朝日新聞の「朝日歌壇」に、1998年から投稿され、今迄に77作の入選作があり、それを順次紹介しています。、 今回は五回目で2007年から2009年の15首の入選歌。何れも秀作です。

ノンフィクション「八十才 ホームレス」       柳田煕彦

 毎回、作者はアメリカで自ら体験され、見聞されたことを書いておられますが、今回も興味深い内容です。 それも日本の都会の片隅で、逞しく生きる人との交流を交えたホームレス生活を書いています。 どこまでノンフィクションなのか興味がありますが、まぁ読んで面白い作品です。

エッセイ「おじゃまでしょうが(喫茶 ミッシェル)」 中條喜美子

 作者の姉の思い出、と言う事でしょうが、姉の生涯はそれだけで一つの物語、ですね。
最も、人それぞれが生きた航跡はそれぞれの物語なのですが、どういう訳か人生と言う航跡は人様々で、 試練も出くわす事象も様々。作者の姉に対する思いやりが伝わってきます。

随筆「砂漠のブランコ(九)」            ケリー・晴代

サブタイトル「家の中での役割変化 U」
 アメリカ生活になって、日本にいた時と違うのは、込み入ったことが生じると夫に頼むようになり、 また子供の宿題も夫に任せるようになった、と言うことだろうか。

サブタイトル「暴力・いじめ 秋ーU」
 学内でのいじめ問題の対処についての日米の違いを書いている。 恐らく、いじめ問題は各国にあり、どう対処するのかも国によって異なる、と言うのは判るが、 実際に自分の子供が巻き込まれれば親として看過できないだろう。ましてや不慣れな異国では。
読んで、アメリカの学校の方が日本よりフランクで、少なくともとも日本の学校のように、無かった事にしよう、 とする動きはないみたいですね。でもアメリカは広いから、他はどうなんだろうと思った。

ノンフィクション「私見・環境と人間(三)」     清水克子

 韓国から来日した夫と同居するためにカトリックの女子校の寮を出てするが、その夫は2年後にアメリカに渡る。 私も渡米するために女子高を退職するが、ビザの関係ですぐには渡米できず、東京都の産休補助教員となる。

小説「南の国」                   シマダ・マサコ  なんとも不可思議な小説だ。ある女が南の国に立ち寄る。どうしてその国に立ち寄ったのかも不明。 女は島で知り合った彼との愛撫にふける。滞在した家には島の住民コック家族が棲んでいる。 南国の風景が手に取るように描かれているが、なんとも幻想的な内容だ。

随筆「在米半世紀の回想録(第二十二稿)」      井川齋

 主に69年当時の事が書かれている。

副題「大学院からの使命を受けてのロサンゼルス行」
 69年の10月初旬、筆者は研究所のフィズマン所長から 「南カリフォルニア地域から優秀なマイノリティ背景の学生をオレゴン大学ポリ・サイ学部の大学院レベルへリクルートする、 との方針のもとで、第一弾として2名の候補者を見つける」と言う役目を仰せつかった。ロサンジェルスに行く事になる。

副題「アイデンティティ問題への目覚め」
 ロサンジェルスに派遣されたことは、筆者に「階層の概念」に関連した考察を進める方向性を示してくれるものでもあった。 CSULBのイヌイ所長にも教えを受け、考察の末、アメリカ社会における位置づけについて抜本的な再考察が必要、 と考えるようになる。

副題「博士課程修了時の資格試験受験」
 冬季の新学期開始後間もなく、所長のフィズマン教授から「オレゴンで博士課程を2年過ごしたのだから、 博士課程修了時資格テストを受けるべきで、申し込みリスト名前を入れた」言われる。 資格試験は2週間後にあり、全く考えていなかった筆者は崖っぷち立たされた自分を悟る。

辛うじて試験には合格したが、感動らしきものは全く覚えず「高いハードルを一つ、 なんとか超えることが出来た」と言う安堵感だけだった。

副題「小林文次先生との出会い」
 日本大学建築学部の教授で、オレゴン大学への招聘教授として来られた小林文次先生と知り合ったのは69年度のその頃だった。 小林先生とは任期を終えて帰国後も、80年に氏が亡くなるまで交友関係は続いた。

副題「学部内での交友関係・陳さんと宇野徹君について」
 交友を続けていた台湾出身の陳王秦から、台湾独立運動の中心人物として著名な彭明敏・教授の事を聞き、 台湾独立運動についての厳しい実態を知らされる。陳さんとはその後、金銭にまつわる未解決の問題で疎遠となる。

筆者がオレゴン大学ポリ・サイ学部大学院博士課程に在籍中にいたもう一人の日本人、宇野徹君についてふれている。 お互いに切磋琢磨、時にはライバル関係でもあっようだ。

小説「インディアン サマー(二十二)」       杉田廣海

 略奪の続く暴動の中、私は裁判絡みで、どうしても暴動のただ中の街を通り抜けなければならなかった。 幸い何事もなく、パサデナのビルの一室にたどり着き、デポジションの供述書作りが始まった。

ポリス・ブルタリティと呼ばれる警察官の暴力行為を告発したもので、私が告発したのはポリスではなくシェリフだ。 ポリスとシェリフの違いは管轄権の違いで、ポリスは市町村を主に管轄し、シェリフは局、郡やジェイル等を管轄する。

私は住所を間違えたシェリフに暴行を受けて緊急入院をせざるを得なくなったのだ。


文芸誌 in USA 新植林
第60号・2018年 春期
e-mail:shinshokurin@aol.com
homepage: http://www.shinshokurin.com
定価:7ドル+TAX

<金田>


[「文学横浜の会」]

禁、無断転載。著作権はすべて作者のものです。
(C) Copyright 2000-2004 文学横浜