「文学横浜の会」

 上村浬慧の旅行記「アムステルダムの異邦人」


2001年2月24日


C「Bergen Village( バーゲン 村 )… 自然の中で」

 アムス中央駅は、日本でいえば東京駅か大阪駅にあたる。切符売り場はかなり広いスペース。 日本と違うのはあちこちに売り場が分かれていないこと。延々と見渡す限り切符売り場といった感じ。 行き先に応じて窓口の前に列ができている。 窓口から少し離れてラインが引かれ、切符を買う人以外はラインの外側に並んで待つ。空港の税関と同じだ。 スタッフはみな英語を自在に話せるから、行き先さえはっきり言えたら、切符を買うのには困らない。 窓口はガラス張り、目の前に丸いターンテーブルのようなものがあって、少し上の方に小さな穴があいていた。 こちらからの声が伝わるためのものらしい。

その穴に向かって「to Alkmaar. Round ticket please.」と言うと 「11,50 fl(フローリン)」と頭の上から聞こえてきた。ガラス越しのスタッフは丸いテーブルを指差している。 そこへお金をのせろということらしい。言われた通りの金額をのせる。 テーブルを回転させてスタッフがお金をとる。代わりに切符をのせて戻してくれた。
「Go turn the right. And go down step to No.7. It starts at 4:25.」

また分かりやすい英語が頭の上から聞こえてきた。 スタッフはデスクの左側にあるマイクらしいものに口を向け、目はこちら、なにやらジェスチャーしている。 頭の上から聞こえてきたのはスピーカー越しの声だったという訳。

 Alkmaarまでの往復切符は日本円で600円位。 往復切符を買った人には、切符を入れておく小さなビニール製のケースまでくれた。親切だよね。 親切っていえば、すぐ前に並んでいたおばあさんは少し耳が遠い人らしく、 スタッフは、マイクに向かってじゃなく、体を乗り出して、小さな穴に口を当て、大きな声で説明していた。

 ここでちょっと忠告。アムス中央駅界隈では、荷物は絶対に体から離さない事。 盗難が多いらしい。以前ハズの連れがカバンを置き引きされたんだって。 そんな危険はあまり実感しなかったけど、確かに、今話したおばあさんは並んでいる時、 床に置いた大きな荷物を足で挟んでいた。治安はあまりよくないのかもしれない。

 さて改札は…と見回しても、どこにも見当たらない。とにかく聞いたとおりホームへ向かった。 階段を上がったところに120cm位の高さの自動券売機があった。ここでも切符が買えるということだ。

 シィティーレイルのホームは天井も高く、頻繁に列車が発着している。さすが首都。 スリーナインのアニメで、てつろうがメーテルに初めて出会ったステーションのようだ。 Alkmaarまではいくつくらい駅があるのだろう。なにも分からないではちょっと不安。 そこで、ホームにいたご婦人に訊いてみた。 「I'll go to Alkmaar. How many stops to there?」すると、そのご婦人、困惑したように言う。 「Sorry. I don't.」とほんとにすまなそうに、なんども振り返りながら足早に行ってしまった。 ジャンパーを着た仕事がえり風の男の人に訊いてみた。今度は即座に答えが帰ってきた。 「4 stops.  Are you OK?」

 4ッ目だって。列車には1等と2等(普通)があるが、われわれは2等車。

 中央駅を出てすぐに、窓の外に大きな看板…「NISSAN」という文字が目に飛び込んできた。 もしかしたら日本の日産自動車(株)…? その敷地の広いこと。 7分ほどもある次の駅近くまで続いていた。面積にしたらいったいどの位あるんだろう。 日産といったら、経営不振で日本国内の工場をいくつか閉鎖したのではなかったかしら。 社長も、ルノーをたて直した、フランス系のカルロス・ゴーン氏に代わったという話もきいた。 それなのに、こんな広大な支社がアムスにあるなんて…。

写真(Nissan) リンク削除

 Alkmaarはチーズの町。市の開かれる時は、それはそれは賑わうという話。 着いたのは夕方だったから、アムス郊外の静かな町という印象だった。 小さな広場のある駅前の感じはドイツのFussenに似ていた。建物は平屋か2階建て。 空をさえぎるものはひとつもない。駅前のファーストフード店でコーヒータイム。 ミネラルウォーターを買った。これは日本円で105円、値段も味も日本と変わらない。

 驚いたのは飲食店でもペットの同伴がOKってこと。 あるワンちゃんが、テーブルの下でおとなしく、連れの人間がティータイムを終えるまでじっと待っているのをみた。 その光景はとても不思議な気がした。 ハズが行こうと催促したのだけれど、もう少し…と、彼らが店を出ていくまで観察してしまった。 ベターっと床に寝そべった真っ黒なワンちゃんは、組み合わせた前足の窪みに頭を埋め、目を閉じていた。 人の方は…濃茶のジャンパーを着た初老の男性だったのだが、ゆったりとティータイムを過ごしている。 新聞を手にして、コーヒーを飲んでいた。ワンちゃんは寝そべったまま、時折テーブル越しに飼い主の顔を見上げる。 だが、すぐまた目を閉じる。チェーンは椅子の背に無造作にかけられていた。 ワンちゃんは自由に動けるはずなのに、じっと同じ姿勢を保ったままだ。 満席の客は、誰一人ペット連れの彼らに特別の目を向けたりしない。

 老人が席を立つと、ワンちゃんはすっと起きあがり彼を見上げて千切れんばかりに尾を振った。 老人はワンちゃんの頭をなで、かるく促した。そして、ひとりと一匹は出ていった。

 彼らの出ていった後、すぐに店のスタッフが来た。何をしたと思う?  彼は、ワンちゃんの落としていった、テーブルの下の毛や泥を塵取りに集め、 ごく当たり前の顔をして厨房に戻っていった。いやな顔をする者なんてひとりもいない。 こういった光景は当然のこととして受け止められているのだろう。日本では信じられない光景だった。

 人にもペットにもそれぞれのルールがあるのは勿論だが、彼らを受け入れる環境にも、 歩み寄りを基盤にしたルールがあるはずだ。 日本にはまだ根付いていない、人とペットとの関係の本来あるべき姿をみせつけられた。 それを、改めて教えられた気がした。 

 並んで歩いていくひとりと一匹。ワンちゃんは時々老人を見上げ、 老人はワンちゃんに向かってなにか話しかけて行く。 店内は何事もなかったかのように、それぞれのテーブルで話に花が咲いていた。 なんだかとっても温かい気分だった。

 Taxiで、三キロほど離れたところにあるBergen Villageに向かう。 道々、至るところに小さな運河があった。家並みは、アムスとは違って日本でもよくみかける造りの家が多い。 1キロ感覚で、鉄筋の四角いビルも建っている。 この辺りはアムスの郊外、近代建築も許可されているということなのだろう。

 Bergen Villageは鄙びた田舎村といった感じ。そこの、Maruke Hoeye(マーレージホテル)にチェックイン。 おとぎばなしに出てくるような青い旗がひらめいている入り口を入る。室内もブルーでコーディネートされていた。 真っ白なレースのカーテンが風に揺れている飾り窓に、若草色のローブがかかっているふかふかのベッド。 サウナまである。アムスの宿と同じ値段なのにとてもゴージャス。シーズンオフのリゾート地だからなのだろう。

 夕方六時、村の唯一の繁華街、駅前広場のレストランでディナー。

写真(Station street) リンク削除

 ハズの仕事の間係者たちと会った。ディナーはオープン形式。それぞれが自分の好きなものを注文する。 注文した料理はなかなか運ばれてこない。 きっと漁に出ているのだろうとか、種植えが済んだところなのかもしれないとか、 みな勝手なことを言って空腹感を紛らわしていた。隣に座ったSchneider氏がゆっくりの米語で話しかけてくれた。 わたしが学校で学んだのは英国英語。ちょっとニュアンスが違うけれど、よくきけば、なんとなく意味は分かる。

適当に相槌を打っていると、斜め向かいに座っていた英国紳士のPeterが大きな目をむいて話しかけてきた。 「Mrs. Schneider said, she felt bored in a country like this. How do you feel?」だって。 そんなあ、わたしは喧騒の都会に住んでるんだもの。 自然に囲まれている村で、こんなにゆったりディナーできるなんて、メチャ幸せ。 さあてなんて答えよう。頭の中をフル回転させる。

「I like the country. I love nature. I love the wind, sky, clouds, sea, river, mountains, trees, grass, flowers, birds, animals and so on.」 もっとあるんだけど、単語忘れちゃったななんて思ってたら、今度は、主催国オランダのVerhook が話しかけてくる。

「How Do you feel about canals?」
「That's a wonderful! I felt entered myself in fantasy world by the time machine.」

みなさん大きく頷いてわいわいガヤガヤ。またPeterが両手を大げさに合わせて叫ぶ。 「Oh, you are nice lady! You love nature. Me too.」彼、 ディナーがすんで、別れる時に、カカッと寄ってきて、固く手を握り、 「I was glad to see you indeed! Thank you!」だって。  me too って言うだけでよかったのに、どぎまぎしちゃって、I was glad to see you !  too.  なんてオーム返ししちゃった。彼はにっこり。握っていた手をきつーく握り返してくれた。 ほーッ。なんとか His Wife 終了。

 次の朝、ハズはPettenで開かれる会議出席のため、6時半に出発だと言う。 わたしはのんびり寝ていてもよかったのだが、昨夜の友達にもう一度会いたかった。 がんばって早起きして食堂に向かう。まだ辺りは夜の帳が明けきっていない。空に星が光っていた。 ハズとSchneider氏が何やら会議の打ち合わせらしい話をしている。 隣に座ったSieraが話しかけてくれるやさしい英語を必死になって聞き取りながら、にこやかに、 目いっぱいHis Wifeの顔をして朝食を取った。Schneider氏が、次の総会の時にまたお会いしたい。 なんて言ってくれた時は嬉しかったな。

 ハズが仲間たちと出発するころ、あいにく雨が降り出してきた。散策は無理かもしれない。 チェックアウトぎりぎりまでホテルで過ごすか、雨でも出かけるか。なんども窓の外をながめて思案。エーイ!  やっぱり出かけよう、と折りたたみ傘を引っ張り出した。 キャアー!お財布がない! 朝食のときはあったのに。 きっとホテルの食堂近くで落としたに違いない。ハズはいないし、自分ひとりで探すしかない。 お金がなかったら昼食はおろか、コーヒーだって飲めやしない。とにかくフロントに行ってみよう。

「I lost my purse. It's a small green purse. Do you know?」
「Wait a moment. This is yours?」
「Oh!Yah! It's mine. Thank you.」

あったのよ! 財布はちゃあんとフロントに保管されていた。 居合わせた子ども連れの宿泊客が目をまん丸にして、大げさに首を振って叫ぶ。 「You are lucky. Indeed! You are lucky.」ほんと、彼らのいうとおりだった。

 ホッとしたところで「Could you give me this town's map?」ときいたら、
「This village's map?」と訊き返された。

村だとは思ったけど、ちょっと気を遣って町って言ったのに。やはりここは町じゃなく村なんだ。 Yesというと、小さな地図を渡してくれた。真ん中に教会のマークが大きく入っている。 その教会を取り囲むように道が走り、動物園と、なにやら十字マークのついた大きな敷地が目に付いた。 肢体不自由者の施設だと分かったのは、その近くまで行ってからだった。 Kinder School(幼稚園)もある。教会へはどこの道からでも戻れるようだ。 地図を片手に村の遅い秋を探索に出かけた。

 歩き始めて気づいたこと。アムスの道にはごみが多かったが、この村は、 どこを歩いてもゴミどころかチリひとつ落ちていない。歩道と車道が美しい並木で分けられた道が続いている。 家はほとんどが大きな三角屋根、庭がとても広い。しかもみな自然にとけこんでいる。

写真(street) リンク削除 写真(house) リンク削除

 村でたったひとつの繁華街、 駅前通りのスーパーでニシンの酢漬けとチョリソー(日本で売っているのはフィンガーサイズだけど、 ここで売られていたのは、直径3cm, 長さ15cm位ある)を一本、 名前はわからないけど美味しそうな果物を2個、そしてふかふかのパンを1個買った。 しめて日本円にして350円。ほんとに安い。それを、コートの大きな二つのポケットに入れた。

写真(super market) リンク削除

 駅前通りをのぞけば、歩いている人は少ない。すれ違うのはほとんどが自転車か車だ。 時折、散歩しているらしい人に会うが、どちらからともなく軽く会釈してしまう。そんな村の中をのんびりと歩く。 降ったりやんだりの天気だったが、道沿いに続く草や木がなんともいえないくつろぎを感じさせてくれる。 日本でもみかける庭木の花や実なのに、鮮やかな色が、なんだかとても大きく感じられた。 緯度の関係なのか、それとも、空気が汚染されていないせいなのかなどと思いながら、 めちゃくちデジカメで撮りまくった。 絵本でしか見ることの出来ないきのこも、運河の岸辺に息づいて、カモさんたちと共に、自然に共存している。 みんな見せてあげられないのが残念。

写真(flower) リンク削除

 教会を意識しながら、大きく村の外側を歩いていると、道で会った人に話しかけられた。 「Will you go to meet your child?」異国人だと思ったのか英語で話しかけてくる。 この国の人は、自国語の他に英語も堪能なのだろうか。外国人に対してはみな英語で話しかけてくる。 (日本じゃ考えられない)わたしは幼稚園のお迎えに行くのだと思われたのかもしれない。間もなく幼稚園があった。

写真(kinder school) リンク削除

隣接して、肢体不自由者の養護施設もあった。 大きな入り口の前に、車椅子が何台も置かれていることからそうだと分かったのだが…。

 それらの施設と、小さな運河を挟んで動物園があった。このあたりは、アムスの賑わいとはかなり違う。 自然が豊かに息づいている。動物園に行くと、角が立派な牡のカモシカが1等、胸をそらして、悠々と歩いていた。 彼は群れを指揮しているらしい。小鹿の群れにヌウやバクが近づくと、彼は、居丈高に角を振り上げ、声高に威嚇する。 時折、綿羊にけんかを吹っかけたり、カラスやアヒルなどを追い払ったり、見ていると面白い。 彼に守られている雌鹿と小鹿の群れは、楽しそうに黄色い落ち葉の中で戯れていた。 1頭の小鹿がかわいらしい仕草を繰り返すのでカメラを向けた。 すると、逃げる逃げる…柵があるのに必死になって逃げる。柵越しに追いかけ、やっとのことでシャッターを押した。 ところが小鹿は藪の中。そのせいか目はハレーションで真っ白に写ってしまった。しかも、怯えた表情をしている。 ほんとはとってもやんちゃな顔をしていたのに…。 

写真(fawn) リンク削除

 柵越しに、小さな男の子が小鹿に触ろうとしていた。手が届かない。 べそをかいていると、おとなの雌鹿が男の子の手をなめた。 男の子はびっくりして飛びのき、連れの女の人にしがみついた。彼女とわたしは顔を見合わせて笑った。

 雨混じりの公園で、子ども連れやひとり歩きの人に何人も会った。 ファランドールの絵本のページをめくっている気がした。 この村の人は、自然と動物と人との共存を、どう保持して行くかを真面目に考えている。 でなければ、これほどの敷地を、村の中心部に当てるはずがない。 しかも、こんな雨模様の日でさえ、訪れる人がこんなにもいるのだから…。 

 雨が本降りになってきた。これ以上散策は無理かもしれない。駅前通りに戻る。 昨夜ディナーを取ったレストランに入った。メインのフロアーの他に、テラスのようなところもある。 朝食が早かったせいで少し空腹だった。ランチをとることにして、テラスに席を見つけて座った。

写真(terrace restaurant) リンク削除

 大きなガラスに囲まれたそのフロアーは、刻々と代わる気紛れ天気の合間に、 時折たっぷり太陽の恩恵を受けることが出来る。クラブサンドウィッチとコーヒーを注文した。 昨夜ほどではないが、やはりちょっと待たされた。 コーヒーはすぐに出てきたのだが、サンドウィッチがなかなか出てこない。 二時までにはホテルに戻っているようにとハズが言っていた。戻れるかどうか心配。

 少し後に入ってきた人たちが突然話しかけてきたが、英語でもオランダ語でもない。 巻き舌のラ行とパ行の連続。イタリア語みたい。 「Sorry! I don't speak Italian.」と言うと、彼らはいっせいに驚いた顔をした。 両手を開いて、OH! NO! You aren't Italian? と言う。 他の人も、ホラ、イタリア人独特の大袈裟なジェスチャーで口々になにか言うのね。 ちんぷんかんぷん。仕方ない、わたし、日本人なんだもの。

戸惑っていると、中のひとりの男性が、今度はゆっくり、なにやら言葉を探すようにして、 チップはいるのかと英語で訊いてきた。いらない、と言うと、安心した顔をして、みんなでまたガヤガヤ。 体の大きな女の人が、いきなりわたしを抱き締め、ほっペにチュ‐ってキッスされちゃった。 ほかの人はみんなにこにこしてそれを見てる。ほんと、陽気なイタリアの人たちだった。

 やっとクラブサンドウィッチが出てきた。なんと驚くほどボリュームがある。 そばにそえられているデザートらしいチョコレートまで大きい。 この国の人の胃袋はどうなっているんだろうなんて思ってしまった。

 どうにかランチにありついた後、いったんホテルに戻る。 チェックアウトぎりぎりまでベッドに寝転んで過ごしチェックアウト。雨も小降りになってきた。

「Could you store?」…フロントに荷物をたのんで小雨の中をもう一度村をひとまわり。 時間の許す限り自然を感じたかった。小さな運河に、白鳥やおしどり、カモさんが幸せそうに水遊びをしていた。 村の中心にある教会の庭で、オランダの田舎の静けさを、しっかりと胸に刻み込んだ。

写真(Village's Canal) リンク削除 写真(church) リンク削除

 ホテルのロビーにドカッと腰を下ろした途端ハズが飛び込んできた。 タクシーを待たせてあるから、すぐに出れるかと聞く。あたふたと荷物をうけだして、Alkmaarの駅へ向かう。 やはり改札はなく、今度はアムスに着くまで車掌さんも回ってこなかった。 これじゃあ無賃乗車を奨励してるみたいじゃないって言ったら、ハズが言う。 「人件費を払うのが大変なんだよ。この国は貧しいってことなのさ」改札がないのは 人件費削減のため。無賃乗車が発覚したら数十倍の罰金を支払わされるのだという。 そうきいても、こういった政策は国民の良識を信じなければとれないのでは…と思 う。貧しいからではなく、人の心が大切に扱われているのだ…と羨ましい気がした。

 アムスに帰ったのは夕方。 中途半端な時間しかないから、お土産買いをすることにしてダムラック広場沿いの土産物店を回る。 ミニチュアの木靴が可愛い。お土産をそれに決めて買った。

 ハズが、夕食はダム近くの神戸屋にしようと言う。 神戸屋でお寿司と酢の物、そしてJapanese Sake(日本酒)を頼んだ。 日本酒はワンカップ大関、なぜか枡までついてきた。それに注いで飲めっていうことか。 ハズは苦笑して、「僕はこのままの方がいいな」って、can tapを開けるなりクイクイ飲み出しちゃった。 わたしは、せっかくだからと、枡に注いで頂戴しましたが…。

 笑ったのが酢のもの。なんとマグロまで酢づけにされていた。これには参りました。 いろんな国で日本食が注目され、それなりの店ができている。 でも経営者が韓国人か中国人であるせいか、時として予想もできない日本料理にお目にかかる。 今回の酢のものもそうだが、カリフォルニア捲きもしかり。 トロピカルフルーツのお寿司なんて邪道、という人の怒る声が聞こえてくるようだ。

 それはそれとして、日本食を出す店には日本語を話すスタッフがいることが多い。 この神戸屋にもそんな青年がいた。彼はわたしたちの世話をかってでたようで、しきりに日本語で話しかけてくる。 それなら、とこちらも出来るだけ正しい日本語を使って注文をする。 壁に「清酒・白鶴」のポスターがあったので、それを指差し「あれと同じお酒はありますか」と訊ねると、 青年は、「ハイ、ございます」と言う。

「では、あのお酒と同じお酒をください」と言ってみた。

「かしこまりました。少々お待ちください」彼は自信たっぷりで厨房へ戻っていった。 ハズがニヤニヤする。「彼は分かってない。きっと別なものを持ってくるぞ」 ハズの言ったとおり、 彼の持ってきたのは、ワンカップ「大関」でした。

 この次はオランダの夜の話。

(Lie)

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