裏『スパイラル 推理の絆』
偽りの仮面

                      法皇


鳴海歩は逃げていた。

自分自身から。

その、弱さから。

自信はあったのだ。ブレードチルドレンを封殺する自信は。

しかし、ブレードチルドレン竹内理緒の、一見無謀とも思える手段により、流れを狂わされた。

そして、己を信じる力のみが勝敗を決するあの勝負…自分自信を誰よりも信じていない歩が勝てる道理が無かった。

あまつさえ、協力者たる結崎ひよのを敵陣に残したまま逃亡。

なんで…なんで俺はこうなんだ…

問いかけても、返答するものなどいない。

情けない…

自己嫌悪に陥りながらも、自宅に電話する。

友達の家に泊まるから。

そう言った後の義姉からの返答はこうだった。

「明日は…明日はちゃんと帰ってくるんでしょ?
 まさかあんたまで清隆さんみたいにい消えちゃうなんてことないよね?
 あんたまで私を独りにするなんてことないよね…?」

ああまたか。

失望する。ここでも兄貴。兄貴兄貴兄貴。

所詮自分は兄の影でしかないのだ。

「…当たり前だろ。俺は兄貴とは違うよ…」

兄とは違う、無能で無力で自分を信じられない臆病な負け犬。

「俺は兄貴とは違うから…
 兄貴と全然違うから…」

そう、何をやっても兄には勝てないのだ。

全て奪われて、うつむいて生きるしかない負け犬。

いつでもよく出来た兄の後ろにしかいられない…

そこで一つのことに気がつく。

なんで、自分で自分を兄と比べているのだ?

適うことが無いのは分かっているのに。

そうなのだ。気がつきながらも兄の影を追っていた自分。

兄のように事件を解決し、そこでまた兄の影を見つけ、それをまた追う…

馬鹿馬鹿しい。

ならば…負け犬ならば負け犬らしい生き方があるではないか。

「どうしたの、歩?」

何も話さない歩を不審に思ったのだろう、まどかから話しかける。

「いや、なんでもない。
 やっぱり帰るよ」

一方的に言い放ち、電話を切る。

…負け犬は負け犬らしく汚く生きてやるよ。

歩は口の端を歪ませ、歩き出した。

闇の奥へ。

 

 

家に帰ると、まどかが怒りも露わに詰め寄ってくる。

「歩!!あんたねえ…」

「そんなことより飯にしようぜ。材料は買ってきたから」

とりあえず、それには異論は無かったようだった。

食卓に皿が並べられたのはそれから三十分後。

「…もう怒る気も失せたわ」

料理をつつきながら、心底呆れたような表情で言うまどか。

歩も少し食べる。なかなかいい出来だ。

「ったく、そもそもあんたは…」

がたっ

多々愚痴っていたまどかが椅子から崩れ落ちる。

「ねえさん、どうしたんだ」

白々しさを隠すことなく声をかける。

「熱でもあるのか?」

確かに顔が紅潮し、息が荒くなっている。

「歩…あんた…」

まどかは、生きも絶え絶えに声を搾り出す。

歩はそれを見るなり、クスリと笑って、

「……んんーっ!!」

なんの前触れもなくまどかの口腔を下で犯す。

歯茎の裏まで舐めまわすような舌に、まどかは抗うことが出来ない。

たっぷりとまどかの口を味わってから、歩は口を離した。

「ふ〜ん、今日はビール飲んでないのか」

唾液で汚れたくりの周りを手の甲で拭きながら言う。

まどかは、歩を思いきり睨み付けると右手を振りかぶる。

しかし、その掌が歩を打つことは無かった。

振り下ろそうとした瞬間に歩に捻り上げられてしまったのだ。

「い、痛い…離しなさい!!」

「力が入らないだろ。
 まだ薬が効いてるんだから」

冷淡に言い放つ。

「クスリ!?」

「そう。媚薬さ」

まどかが顔を歪める。

「何をする気!?」

しかし、それはあまりに愚問すぎた。

「男が女に媚薬を使ってすることなんて決まってるだろ。
 犯すのさ。これから、ねえさんを」

しれっと言ってのける。

「あんた正気!?」

「すぐ分かるさ」

まどかのYシャツに手を掛けると一気に引き裂く。

すると、ブラに包まれた豊かな乳房が露わになる。

「随分大きい胸じゃないか。
 兄貴に揉んでもらってたの?
 それとも自分で?」

歩の言葉に容赦はない。

「ねえさんはまだ若いんだからたまにしたくなることもあるだろ?
 兄貴がいなくなってからどうしてるんだ?
 自分でやってんの?それともどっかで男でも咥え込んでるの?
 ああ、あの和田谷とかいう冴えないおっさん?趣味悪いな」

恥辱と怒りで更に顔が赤くなる。

しかし、そんなことを気にするような歩では最早無い。

「まあいいさ。どっちにしたってこれからよがらせてやるんだから。
 何回くらいイきたい?」

「誰があんたに…」

未だ気丈に対するまどか。

しかし、それは逆効果だった。

歩は目を細め、まどかの胸を思いきりわしづかむ。

「痛っ!!」

「まだ自分の置かれた状況が把握できてないのか?」

さらにぎりぎりと力をこめる。

「あんたはこれから俺に犯される。
 これはもう決まったことだ」

そして、ブラをはずし、乳房に口を近づけ、舌を這わせる。

「あひっ…」

久方ぶりのその感触にまどかが声を上げる。

「ふぅん、敏感だな。薬が効いてるのか、もとから淫乱なのか…」

まどかは答えない。少しでも抵抗しようと試みてはいるのだが、体が言うことを聞かないのだ。

円を描くように下を這わせ、その尖った先端を軽く噛む。

「いやっ!!」

その反応すらも楽しむようにそのまま愛撫を続ける。

ただひたすら唇を噛んで耐えるまどか。

「義理の弟に弄ばれて喘ぐなんて、ねえさんは本当に淫乱だな」

たまに口を離すとしても、それは辱めるときのみ。

まどかはもう抵抗など忘れたように喘ぐだけだった。

そして、歩は下着の方に手を掛ける。

そこはもうかなり潤っていた。

「すごい濡れ方だな」

「いやぁ…」

「もしかして、欲求不満か?」

「言わないで…」

まどかの声は弱弱しかった。

「脱がせるぞ」

その一言にも反応しない。

面白くなかった。

「ちっ…、やるぞ!!」

怒鳴って、いきりたつ自分自身を思いきりまどかにつきたてた。

「はあああああぁぁぁぁんっ!!」

それだけで大きな声をあげるまどか。

義弟に犯されて、混乱しきっていた。

夫には、弟のことを頼まれている。

だが、こんなことをされて黙っているほど弱気でもなければ寛容でもない。

しかし、それ以上の快楽に突き動かされ、理性は一時的にとろけていた。

「ああ、はぁんっ…」

歩の動きに手加減は無かった。

そして、言葉による辱めにも。

「くっ…随分イイ具合いじゃないか!!
 どうやって兄貴に抱かれてたんだ!?そら!!そら!!」

「…そ、そんな…こと…」

「狂っちまえよっ!!」

「ああっ!!あんっ、あんっ、あん、あんっ…」

激しい突き上げに、まどかは高みに向かう。

「くっ…イくぞっ!!」

しかし、歩のその一言で我に帰る。

「イく…?
 いやぁっ!!中は!!」

「うるさいっ!!」

クリトリスを思いきりつかんで黙らせる。

そして、弾けた。

「くっ…」

どぴゅっ、どぴゅっ、どぴゅっ…

「いや…ああ!?
 ひゃあぁあぁぁぁぁぁぁんっ!!」

熱いほとばしりを受け、まどかも達する。

脱力してぐったりと倒れこむまどか。

歩は萎えた自分自身を引き抜くと、カメラで乱れたまどかを撮る。

「…ねえさん、もうあんたは俺の物だよ。
 兄貴なんかに奪わせはしない…」

カメラのフラッシュは、フィルムが無くなるまで焚かれつづけた。

 

<了>