「雨」

少年時代は雨が好きだった

よく傘もささずに雨を肌で感じながら外を歩いた

時の風は 痛みだけを僕に刻み付けて立ち去って行ったけど

雨だけは 痛がっている僕のために泣いてくれている気がしたから・・・

少年時代は雨が好きだった

 

少年は大人になり

雨が僕を見る表情も変わった

傘の下に 一人増えた

痛みを共有してくれる君がとなりに居る

この道が終わるまで

一緒に歩いてくれるよね?

 


「珈琲」

 

久しぶりに君に会った

”逢った”なんてフレッシュなものじゃなくて

 

何年もの間 お互い知らない時間を過ごした

「お互い少し老けたね」と苦笑

 

彼女できた?

別に。おまえは好きな人いる?

ぜんぜん。

 

カフェの喧噪が二人の間の距離を推し量ってた

珈琲の味がいつも以上に感じられる

話す事なんてない きっとない

距離を詰める理由も意志も持たない二人

話す事なんてない きっとない

何も言わず ベッドで体を重ねた

 

「情報は、受け手の側で、受け手の物語に沿って、意味を持つ」

君の人生と僕の人生がクロスした期間

僕の言葉 仕草 行動は

君にとってどんな意味を持ってきたのだろう

 

寝顔の君は 昔と同じだった

 


「雪の街」

故郷に帰ったその翌朝には

懐かしい匂いのあるこの街に

一面に雪が敷き詰められていた

朝日の光が反射する

眩しい白い朝を踏みしめたくて

白い吐息と一緒に

白い道を歩いた

 

懐かしい君に偶然出会った

一瞬言葉が出ない

 

あなたは覚えていますか?

図書室で僕と初めて知り合った日のことを

僕があなたに告げた日の晩の思い出を

君があの人を選んでからの僕の無理な笑顔を

僕が病院に一人で見舞いに来た日のことを

「元気に暮らしてる?」「うん」

 

あの頃は

君が「思い出にしたい」といっただけで

深く傷ついた

今はただ・・・忘れられなければ・・・

 

無論 僕は君の事を忘れやしない

 

白い道を踏みしめて

懐かしい校舎を訪れた

誰も居ない・・・

 

あの教室に入った

かつて柱に彫り込んだ「香織」の名前を探す

 

あった!

昔のままの「香織」の文字が、朝の光の中に現れた

震える手で触れてみた

柱のその傷の感触だけが

心の中のかすかな何かを打ち消した

はっきりみえていた「香織」の字が

ぼやけてきた


「一杯のお茶」

あなたにもう一度湯のみでお茶を飲ませてあげたかった

 

あなたは良くお茶を楽しんだ

90年近い歳月の中で

あなたが何度お茶を嗜んだかは分からぬが

カーテン越しの柔らかな日差しを浴びながら

その老いた手で すこしづつ口へと運んだ

あの満足そうな笑顔

その一つ一つが 僕の脳裏に有る

 

病床で

あなたはよく 喉が乾いたというので

頻繁に白湯やお茶を飲ませてあげた

ときおり 湯のみで飲みたいと呟いていた

ごめんね・・・今の状態じゃ ガーゼに含ませて飲ませてあげる事しか出来ないよ

湯のみで飲めるぐらい回復したらそうしようね・・・そう言い聞かせた

ガーゼでお茶を吸う姿がなんとも哀れだった

 

結局その夢も叶う事無くあなたは逝った

あなたにもう一度湯のみでお茶を飲ませてあげたかった

 

住みなれた家に戻ったあなたの遺体の前に

温かいお茶の入った湯のみを置こう

 


「永遠」

すぎさった美しい季節は

いつまでも美しく 哀しく

 

降りつもりつづける・・・。


「レター」

 

ふみにじられる事に慣れ

裏切られることに慣れ

傷つくことに慣れて

人の気持ちを踏みにじり 裏切り 傷つける事に鈍感になっていく

 

自らが堕ちてゆくことに気づきながらも

自らを守るために堕ちて行く

 

自らを汚して生きて行く

自らをすり減らしても愛しつづける

 

そうしている事に疲れも哀しみも感じなくなった

 

そして ずっと前から

愛されずにいつづけることを 待ち望んでいたような気がする

 

重ねるたびに

あの感覚の鮮やかさは色褪せて行く

それでもなお

あの遠い日々の鮮やかさ

胸にそっとしまいこんで生きていくんだ・・・。

 


「あなたのBirthdayに」

 

わがままだったから

包んであげることできなくて

変わっていくあなたを責めてばかりいた

二人が優しかったころ―――――――――――――――――

”これを幸せって言うんだね”

口に出さずにいられなくて  口づけして笑った

階段を駆け上がる足音  あなただって分かった

同じバイクの音でもあなただって分かった

電話のベルでさえ特別だった

・・・・・・不器用だったから・・・・・・

あなたが私でない誰かを見始めたこと

きづいてたけど うまく好きだと言えなかった

私だけの笑顔でなくなった日―――――――――――――――――

一年の月日が悔しくて

信じてたことが悔しくて 悲しくて

でも  もういいよ・・・

 

   いい彼女になれなかった私から最後のプレゼント

 

許してあげる  自由をあげる

もう あの子のところへ行っていいよ・・・・・・

 

 


「早春の日差しに包まれて」

 

春萌えて

夏映えて

秋燃えて

冬冴えて

季節はうつろえど

傷は癒えざりたり

故郷の姿はうつろえど

沁みるが如き

喪失感

そしてまた

春ぞ来ける

 

 


「日ざしのソリチュード」

 

あんなに楽しかった日々も

あの日の笑顔も

ずっと昔のことのようで

けれど忘れられなくて

3人でふざけあった日々を

日ざしの中 ふと探してみる

 

初夏のキャンパス

踏みしめるたびに

日ざしのアスファルト

痛くのしかかる・・・。

 

君はあの人を選び

僕は何度も苦しむ

ああなんて自然なことだろう

 

今日も日ざしは変わらない

3人でふざけあった日々を

日ざしの中 ふと探してみる

 

 

 


「ひとりぼっちのクリスマスイブ」

 

一人で過ごすクリスマスイブ・・・

一通のはがきが届いた

前より少し綺麗になった君が右に、

僕の知らない男性が左に写ってる写真がのってた・・・

 

君に新しい恋人が出来、僕の前から立ち去ったあの日・・・

あれから一ヶ月でまた別の人に変えたんだって?

知らないと思ってるかも知れないけど、知ってるよ

あんなに苦しんで君のことをあきらめたのはいったい何だったのだろうと腹が立って、傷ついて・・・

それから約一年・・・

「コンニチハ!

 わたしたちクリスマスイブに結婚します!

 ビックリしたでしょ?

 幸せになります!」

 

返事を書かなきゃいけない

お祝いのメッセージを送らなきゃいけない

「おめでとう!よかったね。幸せになるんだよ」

とでも書こうか

口では何とでも言えるから

 

あいつは冷静に考えればあの程度の子なんだよね

わかってるよ わかってるけど・・・

それがわかっていても

それでも!彼女のことが好きなんだという自分がたまらなく歯がゆい・・・

 


「去る人」

 

一緒に仕事していたK氏が月曜限りで会社を辞めていった。

理由は訊かなかった。

訊いても意味ないと思ったから。

 

誰も見送らない中、僕だけ見送った。

遠のいていく彼の後ろ姿。

彼の手が涙を拭ったように見えた。

 


「波打ち際の 砂のように儚く」

 

あともうすこし 生きられたなら

そんなことを思いながら

病室の天井を見る

あともうすこし 手を伸ばしたなら

家族の輪の中に 戻れるのかな

あともうすこし 暖かければ

このまま逝けるのかな

すーっと意識が遠のいて

眠るように 旅立つことが できたなら

窓の外で 雪が降ってる

このまま全て つつみこんでよ

苦しみも 悲しみも 全部

 


「しーちゃんが天国へ」

しーちゃん さようなら

しーちゃん さようなら

短い間だったけど、ハルちゃんに出会えて よかったね

ハルちゃんに たくさん愛情をもらって 幸せだったよね

天国行きの列車に乗りながら どんなことを思い出してる?

しーちゃんは今夜からもう居ない

でも しーちゃんの事をずっと覚えていてくれる人が居るんだよ?

列車の窓から その人と暮らした街が見えるかな

しーちゃん 幸せだったよね?

君の目 君の口元 君のしっぽ 君のおしり 君の脚 君の声 君と過ごした時間・・・ハルちゃんは君を愛してた

しーちゃんは他界しても きっとハルちゃんのそばでいつものように・・・


「消息」

君の消息が知りたい

いま 君はどうしてる?

どんな思いで過ごしてる?

あの宝石みたいな時間はもう二度と無い

ごめんねなんて とてもいえないから

電話もかけられない

君は悪くない

君は悪くない


「自販機」

寝る前に家の外に出て、缶紅茶を一本買った

ガタン、と取り出し口に落ちる音

「ありがとうございました」と機械的な音声

取り出し口に手を伸ばすと、予想外の音声が自販機から聞こえた

「毎晩買いに来てくださってありがとう。私は今夜までで終わりです」

「え??」

「びっくりさせてごめんなさい」

「…」

「明日の朝、私は撤去されて廃棄処分になるんです。だから、今夜でお別れです」

翌朝、おきてすぐその自販機のある場所に行ってみた

彼女は既に撤去され

彼女が居た跡だけが地面に残っていた


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