あるところに兎だけの住む村がありました。
この村で流れている川の水は、
とても冷たくて美味しく、空気は透きとおる爽やかさをもっていました。
ある日のこと、
いつものように餅をついていた兎に言い寄ってきた者が現れました。
その者はあまり見かけない黄色の兎でした。
黄色い兎「よお。その餅を俺に少し分けてくれないか。」
白い兎は答えました。
白い兎「お前、ここらの兎じゃないな。どこからやって来た?」
そう聞くと、黄色い兎はめんどくさそうに頭をかきながら、こう言いました。
黄色い兎「そこの、ひと山越えた隣の村からさ。知らなかったのかい?
俺は、とにかく腹ぺこなんだ。せめて少しだけでも食べさせてくれ。」
そう言うと黄色い兎は腹をさすりながら訴えました。
それを見た白い兎は、笑いながらこう言いました。
白い兎「お前の言ったことは本当らしいけど、
その本当の姿を見せてくれたら別にいいよ。山国の狐さん。」
それを言われた狐は正体を表して、白くて黄色い線のある狐に戻りました。
狐は驚いて逃げようとしましたが、
その逃げようとする狐に肩を叩いてこう言いました。
白い兎「本当のことを教えてくれたから気にすることはないんだよ。
ほら、つきたてだよ。少しだけれど食べてくれ。」
そう言って兎が狐に差し出した餅は、とても美味しそうだった。
それを見た狐は礼を言う前に急いで食べました。
白い兎「俺は何にも持っていないけど、これぐらいだったら出来るよ。」
そういって白い歯を見せておどけて笑う兎に狐は感動しました。
この日をさかいにして狐は、この兎の村に数日過ごした後、帰っていきました。
後日、その狐は兎の村の村長さんの所に行って、その兎の働いているところに行きました。
白い兎「よお。久しぶり!聞いたよ。
お前、狐の村長さんの息子さんだってな。ここの村中の評判だよ。」
餅をついていた白い兎が手を止めて、
そう言うとあの時と同じように頭を掻きながら言いました。
黄色い狐「噂は、はやいもんだな。」
白い兎「ところで、今日は村長さんの所に行ってたようだけど、何を話してきたんだよ?」
黄色い狐「それはな。何かあったら狐村に連絡して欲しいと言ってきたんだ。」
この日から黄色い狐との交流が始まりました。
狐が化かすことはあっても、この日以降は兎に危害を与えることは無かったそうです。
それからいくらかの歳月が経ち、暗雲が立ちこめてきた日のこと。
その日は兎が餅をつくことを止めて、雨宿りをしていました。
−−−「よお、そこの兎。」
そう言われて、白い兎が声のする方を振り向くと、そこには黒い狸がいました。
黒い狸「俺に、その餅と、うすを譲ってくれ。お金はいくらでもやる。だからくれ。」
白い兎はその対応を見て、断固として反対しました。
白い兎「お前みたいな不作法なヤツにはひとつもやりたくない!
金ですべてを解決しようとする黒狸なんか、とっとと帰れ!」
黒い狸「ふん。お前の作っている餅は最低だ。
お前みたいな金のないヤツに作らせるから駄目なんだ。
この世界の全ては金で決まるんだよ。」
そう言うと黒い狸は白い兎を殺しました。
それを偶然に見てしまった他の白い兎は村中に黒い狸が来て殺したことを告げ、
村にいる兎達は狐の村に避難しました。
その後、黒い狸は後からやって来た亀に、殺した白い兎の死体を処理させました。
黒い狸「なんだ、この品粗な村は。」
一方、狐の村に兎達が避難して来たことに驚いた狐の村長は、
何が起こったのか事情を聞きました。
すると黄色い狐を助けてくれた、あの時の兎を黒い狸が殺したと言うではありませんか。
それを知った村長は、敏速に行動を起こし、
兎の村を白い兎達に開放するために作戦を練り始めました。
さて、白い兎の村を占領した黒い狸と亀は、
白い兎が住んでいた家全てを調べて、どういう風に作ったのかを調べようとしましたが、
それらしき物は見つかっていませんでした。
黒い狸「よく捜せ!ここにある筈だ!」
しかし、その激励も空しく何も見つかりませんでした。
黒い狸「くそっ。何もないじゃないか!」
亀「あの白い兎を殺さずに誘拐しておけば・・・」
黒い狸「うるさい!」
いっぽう、狐の村長は白い兎の村の状況と、兵の状況を見て配備しました。
狐兵「準備が整いました。」
狐長「よし。・・・・・・・・・・時間どおりに始める。」
解放活動が始まり、作戦は申し分のない大成功でした。
さて肝心の黒い狸ですが、命からがらようやく逃げ切りました。
自分の村に戻って兎のやり方と道具を使って製造しますが、なかなか上手にできません。
その後、その黒い狸は多くの借金を周りの狸に残して自殺しました。
肝心の解放された白い兎達ですが、
死んでいった兎の作っていた餅を作ることができずに村そのものの存続に関わって大いに嘆きました。
来る日も来る日も、あの日に起きた出来事を悔やみながら生活していくうちに、
いつのまにか白い兎の目は真っ赤になったそうです。
めでたし。めでたし。