あるところに動物達の住む島がありました。
ここの動物達は互いを啀み合うことなく快適に生活をおくっておりましたが
当初少ない動物の数も時が経つにつれ各種多くなっていました。
それぞれが多くなってくると治安が悪くなってきます。
種類ごとの長をたてて管理しようと試みますが、それだと種別ごとの差別が起きてしまうのが目にみえていました。
そこで各動物種の長の話し合いによって互いの仕事と、これまでの仲を保つことを約束し別れたのでした。
こうして仕事をし、生活を送っていく中で、次第に互いの親睦を忘れることのないよう仲を確認するためも
最低一ヶ月に一回親睦文書を交わすようになっていました。
そういう最中、兎だけの住むところ山村という村がありました。
その中で「剣」と「柔」の道に鍛錬に汗を流し励む者がいます。
この者の名前は秀龍(ひりゅう)と皆から呼ばれ親しまれていました。
秀龍がいつものように汗を流して勤しんで最中に長に呼ばれ用件を聞きに行ったのでした。
「今日、お前を呼んだのは他でもない。親睦文書のことについてだ。」
秀龍の前で、この言葉を発している者は、ここの村長です。
「どこの村の親睦書ですか。」
「水村のほうだ。親睦文書こそが当島にいる動物の親睦を確認する唯一の大切なもの。
これが届かないという事は、これまで一度も無かった。そこでだ。」
「私ですね。」
「そうだ。これから手渡す文書を水村の村長に手渡し、親睦書を持って水村で起きている事を報告して欲しい。」
「分かりました。」
秀龍は自部屋に戻ると旅支度を整え肩に鳥をのせ村を出た。すると鳥が心配そうに言いました。
鳥「どうした。なんだか今日の秀龍は機嫌が悪いよ。」
秀龍「気のせいだろ。」
実は秀龍自身、水村に向かうことに、あまり良く思ってませんでした。
それは水村に住んでいる同僚の虎丸を思ってのことです。
この虎丸と秀龍との仲は犬猿の仲という言葉がよく似合う険悪なものです。
任務でもなければ水村に向かうのは、まずないだろうと思いつつ、水村に足を進めたのでした。
秀龍「これは、酷いものだ。」
秀龍がそう言わせた当人の視界の前に広がっている光景は酷いものでした。
川は不衛生であり、町には人は倒れています。
鳥「病気でも流行しているのかな。」
秀龍「さあ・・・。それが親睦書の届かない理由になるかは別だ。」
二人は驚きながらも、ここの村長の家に向かおうとしたとき、
ここに住む住民の大声がどこからかして石を投げる者もいます。
「誘拐する酷い奴め。速く俺の娘を返せ!」
誰かがそう叫ぶと、さっきまで倒れている者以外誰もいなかった様子から一変、石を投げる者がだんだんと増えてきました。
鳥「いけない。まだ遠くからやってくるヤツがいる。まだまだ増えてきそうだ。」
秀龍「早く逃げよう。でも俺はどこへ逃げればいいんだ。」
秀龍の頭の中には、ひとりしか頭に浮かびませんでした。
秀龍「これから虎丸の家に向かう。人が通らない道を探して案内してくれ。」
虎丸の家に到着した二人は断ることなくドアを開け玄関間に立ちました。
家の中は散らかっていますが、塵(ごみ)だけはしっかりと捨ててあるようで、
男の住む家の中と言えば、こんなものだろうという状況でした。
そういう中で声をかけますが、その当人がなかなか出てきてくれません。
すると奥の方で茶碗が割れる音がしたような気がしました。
失礼だと思いながらも部屋をあがりました。
音のする部屋の方に向かうと、そこには飲んだくれている虎丸がいます。
秀龍「よお、久しぶりだな。前よりも憎たらしい人相になったな。」
思わず剣を手にして構えましたが相手の反応がありません。
秀龍の記憶の中にある虎丸は斧を振り回し追い出される性格だったのですが、
時間の経過のせいなのか、これは意外な光景でもあり寂しいものでもありました。
鳥「こいつが虎丸?」
秀龍「ああ。」
鳥「この飲んだくれている奴が秀龍のライバルとは思えないよ。」
鳥の言うことも、もっともでした。しかし時間の経過とは言っても、
まだ二年しかたっていないのでしたが、
ここまで時間は人を変えるのかと思うと嘆かわしいと秀龍は思い始めました。
この状態でいても虎丸とは話せないので、近くにある井戸から水を汲み上げ虎丸顔にかけました。
ここでも、思わず剣に手を置き構えた秀龍でしたが虎丸は何もしません。
目が冷めている筈だと思い、何か喋べろよと怒鳴つけました。
虎丸「とぼけたことを言うな。」
秀龍にとって、虎丸の言葉は意外なものでした。
秀龍が過去に思い描いていた以前の虎丸は確かに仲の悪いものでしたが、
久しぶりにあって話す言葉が、これとは心外でした。
秀龍「どういう事だ、言ってみろ。」
聞くと、この二年間の間に虎丸に恋人ができたそうです。
しかし、20日前に突然行方不明になってしまいました。
それと同時に、この村では変な事件が続いていて行方不明になってから、
だいたい一ヶ月経つと、いなくなった者が川に流れるらしいのです。
大抵この場合は若い者が多く、消息の分からない事件です。
次々と行方不明になっていく不安と、犯人の分からぬ状態が長く続いている状況に、
住民の不安と不満が爆発しました。
それでも進展しないことに興奮して、この村の人々は混乱しそうな雰囲気になっていったそうなのです。
そういう状況下で人々がお互いを疑っている町中で、この事件の引き金になっているのは、
この虎丸のせいであるという噂が流れたそうなのです。
虎丸は村を見る立場ですから、とてもそれは考えられないことでした。
当然、身に覚えもなく、さらには自分の恋人が行方不明になっているのに、
どうして、そのような噂がたつのだろうと思いつつ、
これを否定する虎丸でしたが、
事件の解決へ進まない状況の不満を虎丸に押しつけるのでした。
虎丸は、この状況と自分の状況とに嫌気がさし、ひとりで酒を飲み時間を過ごしていたのでした。
そこへ現れた秀龍の言葉というのは単なる当てつけのようです。
鳥「そうなんだ。それじゃあ、僕達が石を投げられた理由も分かるよ。」
秀龍「こういう村の状態で見知らぬ者が来るとなると、その者に疑いを掛けるものだ。
二年前、秀龍とライバルとして戦っていた時の、あの虎丸とは思えない、
今の表情にある陰を潜めた暗いところに秀龍は衝撃を受けました。
鳥「外の様子が騒がしいよ。」
外の騒いでいること知った虎丸は血の気がひき、ぽつりと言いました。
虎丸「・・・ではありませんように。」
秀龍「行かないのか?」
虎丸「行くさ。でもこういうのも珍しくない無くなった。」
ため息混じりに玄関先をとぼとぼと歩いて行こうとする虎丸の後ろ姿を見て
唖然とさせられた秀龍と鳥でしたが虎丸は靴を履きました。
秀龍は外に出られないので、虎丸に俺に変わってよく見ていて欲しいと言う事を虎丸に言いますが、
今の虎丸の耳には届かないようです。
とにかく虎丸が帰ってくるのを待つしかない秀龍達は部屋中を見ることにしました。
部屋の片隅にある斧があります。
二年前、秀龍と戦っていた時のものと同じ斧。
でもよく見ると最近使っていないのか、あまり良い状態ではありません。
手入れが行き届いていない状態を考えると少し考えさせられました。
横を見ると棚があります。その上に写真立てが置かれていました。
それは虎丸と恋人の写っている幸せそうな写真です。
鳥「どうやら、この部屋の荒れ方は、その恋人がいなくなってから、散らかったんだろうね。」
秀龍「そうかもな。」
棚から目を反らし次へ向かったのは台所です。そして使われているであろうマナ板を見ました。
使用されてから、そのまま放置されているような状態に見えます。
二年前の記憶では虎丸はたまに整理整頓する時が、あったと思うのですが、
恋人が行方不明になってから放置されっぱなしのように思えます。
よほど恋人がいなくなった時の衝撃が強かったのか、
そして、その時を消したくない整理したくない気持ちが、どこかにあるかもしれないと
秀龍が思っていた時に虎丸が帰って来ました。
虎丸「良かった、人違いだ。」
そういう虎丸の顔色が出ていったときよりも少しは良くなっていましたが秀龍は言いました。
人違いとは何事だと。この村を見る立場のお前の言葉ではないと怒りました。
でも虎丸の表情は、ここを出た時と変わらず暗いままです。
秀龍は何を励ましても良くならないと思い、これ以上は何も言わないようにしようと思いましたが、
自分には村長に手渡さなければならない文書があるので、
虎丸と共に村長の家に行ってくれないかと頼みました。
しょうがないようにゆっくりと立ち上がり歩いて行く虎丸を横に村長の家へ向かったのでした。
村長の家につき水村に山村からの文書を渡し、
それを読んだ後に腕を組んで、しばらく考え秀龍に言いました。
村長「虎丸。」
虎丸「はい。」
村長「少しの間、秀龍をお前の所に泊めてくれぬか。」
虎丸「分かりました。」
村長「秀龍殿。本来は適切な宿を勧めて泊まってもらうのだが、
ごらんの通り、恥ずかしいながら今のここは良くない。それどころか他の村を疑うような状況にある。
これでは親睦書を、そちらの村に渡すわけにはいかない。」
そういう話を村長から聞いた後、秀龍は虎丸の家に向かいました。
その途中で川で浮かんでいる死体の多さに驚いたのでした。
これの処置はどう行われているのか聞こうと思いましたが、
今の自分の身を感じ黙っていましたが、虎丸の家に着くなりそれを言いました。
秀龍は言いました。
「俺は、この村に住んでいる者ではないから昼間に行動すると住民に疑われる。
だからできるだけ外には出られまい。でも夜になったら行動しようと思う。行動しないか?」
こう言う秀龍の問い答えた虎丸の声は投げやりな的に聞こえる返答で「どうせ、ダメだ」と言い返しては、さっきまでと変わらない暗い表情のままの虎丸でした。どうして、こんな奴になったのだろうと歯がゆく思いながら秀龍は夜を待ちました。
秀龍は満月の月夜の下で、それに照らされている沢山死体の川にいました。
中には膨れて崩れ、よく分からぬ遺体もありましたが外傷はこれといったものが見あたりません。ただ気になる点は首筋に粗って穴があいたような傷があります。
秀龍は見識の専門ではありませんので、これ以上知ることはできません。そこで秀龍は自分の村で起きたことを考えて思いましてみました。
自分の村で起きたことを考えて、ひょっとしたらコウモリの仕業かも知れないと思いました。でも秀龍は自分の頭に留めておくのみで思ったことを安易に口に出しませんでした。今のこの村の状況下で余計な事をして混乱を招くことがあってはならないからです。
とにもかくにも、この村の状況を報告しなければならないので秀龍は今の村の状況を鳥に託して飛ばすことにしました。
数日後の朝、ここの村長の使いが虎丸の家に来ました。向かった先での大まかな話では、お前の村を信用するという話で、この事件の真相を調べて報告して欲しいと言い渡されました。
この時、秀龍は山村村長と水村村長で議論をしたのかもしれないと思いましたが、それ以上は考えませんでした。そして正式な書類を村長の側近から当村当事件の範囲である特例捜査許可書をもらいました。
やっと虎丸の家から出られた秀龍は、どこからその死体が流れてくるのかを調べることにしました。側近の話では、この村にある川の源流は滝らしく、川の両側を挟む人の入れる場外と言ったら町と滝付近しかないという事でした。
そこで滝の付近を徹底的に調べますが何もでてきません。こうして活動中できる一日はあっという間に過ぎたのでした。
その夜。
寝ようと布団に入ると自分の頭の近くで何かが動くカサカサとした音がするで、布団をはがし部屋の角に経つと、そこにはムカデがいました。叩いて変に動かれると困るのでムカデを剣の切っ先で突き刺しました。
すると窓の外の方にカサリという物音しました。誰かがさっきまでそこに居たらしいように思えます。しかし庭の外に飛び出したが誰もいません。急いで寝ている虎丸を起こして聞きました。
秀龍「最近この村でムカデが出てきているのか?」
虎丸「いいや。この村ではあまり聞いたことがない。山の村のほうでは時折見かける時もあるけどな。」
この時、俺がねらいで誰かがやったのかと思い始めていました。そうしていると今夜はあまり寝付けませんでした。ましては先ほどのムカデを考えると無性に気になります。
そこで何かで気を紛わらそうとゲームかなにかをやろうと思いましたが虎丸はそういう性格ではありません。それでは時刻はどうだろうと部屋を見渡すと壁に掛けている時計を見つけました。それには午前3時を差していました。
このまま起きていても何もやることが無いので、しょうがなく死体の見える元のなるほうの川へ行こうと思い家を出ました。行った先で何かあれば寝ているであろう虎丸を無理矢理家から出して探してまわることにしようとしました。
川の畔に沿ってあるいていると昼間には見かけなかった新しい死体が浮いていました。秀龍が見ると衣服がさほど濡れてなく今先程濡れた様子だったので、これは新しく出来た死体だと思いました。そうなると今もどこかに、その死体を捨てた者がいると想像できます。この辺りでそういった不振な人物は見かけなかったかと思いましたが、今の時刻は午前3時頃。当然の事ながら誰も起きていそうなものでもなく、辺りはひっそりと佇んでいます。
虎丸を急いで起こして手がかりの無いので、くまなく川岸付近の様子を片っ端から調べるしかありませんでした。秀龍は左側の川岸を虎丸は右側の川岸をたどって行きました。鳥が居れば楽なのにと思いつつ帰ってこない鳥を思いました。
すると川の麓にある崖のふもとに光あるものを秀龍が発見しました。虎丸を呼ばずに、すぐに秀龍は入り込むと、そこは以外と深い空間になっていました。
やがて広い場所に出ると沢山の女性が檻に入れられていました。すぐに助けたいのですが檻のドアには鍵が掛かっています。閉じこめられているその女性に聞くと自分を閉じこめた奴が、どこかに箱を隠していたということを教えてくれました。
これを探し出すのは滝のふもとを探すときよりも容易なものでした。その隠されていた箱の中には、鍵と一緒に鈴が入ってました。なんだかよく分からずに、その鈴を手にした秀龍。何の変哲もない鈴を耳元に試しに鳴らしてみました。音のほうも何ということもなくチリチリと鳴ります。
秀龍「普通の鈴じゃないか。何も起きない。」
そう言う秀龍の後ろから誰かが襲いかかっていました。女性の危ないという声が背後から聞こえました。思わず振り返って見ると、そこには大きな石をもった虎丸がいました。投げた石をすぐに避けると手に持っている鈴を投げて剣を抜きました。すると意味も分からず突然苦しみ始めました。
もしやと思い、先ほどの投げた鈴を拾ってさらに鳴らしました。すると更に耳を押さえて痛がりました。背後を向けている者に対して殺そうした虎丸の行動に嫌な気分だった秀龍はこことばかりに鈴を鳴らし続けたのでした。すると少量の血と共に虎丸の耳からムカデが出てきました。
秀龍「こいつ頭の中でムカデを飼っているのか?」
と冗談を言いつつも今の驚きを押さえようとする秀龍。すると、さっきまでぼんやりしていた虎丸の眼がだんだん鮮明になってきました。そうすると今起きたようなあくびをしました。どうやら虎丸は我に返ったようです。虎丸は何が分からずに辺りを見渡し初め、そして放心状態になっている感じがしました。
そして正気の戻った眼で秀龍を見ると、
「すまない。お前を寝床の時にムカデを仕組んだのは俺だ」と言って自分のやったことにうなだれました。
どうやら自分のやっていることは鮮明に覚えているようです。
「そうだよ。なんて卑怯なヤツだ」と言いつつ、秀龍は腹に一発拳を入れました。
思わず虎丸が殴り返してきました。
「はは。やっと正気に戻ったようだな。」と言って肩を叩いて笑うと虎丸は
「久しぶりだな、この生意気野郎が」と言い返えしました。
そうしていると横で牢屋に閉じこめられている女性が「はやく出してください」と言い始めましたので、これはすまないことをしたと感じつつ頭を掻きながら笑いつつ、誤魔化しながらも牢屋の鍵を開けました。
「ところでこの虎丸の顔を見たことあるかい?」と秀龍が聞くと女性のほうは、「いいえ、初めて見たわ。でも、やったのは側近の奴よ」と言い始めました。どうやらこの女性は側近のことを良く知っているらしい。その言葉に虎丸は驚きました。
それでは誰が君を捕まえたのか、その顔をよく覚えていれば教えて欲しいことを聞くと、
女性「だから・・・さっきも言ったように側近のあの人よ。私が、お客さんと飲んでいたら、ぞろぞろと黒い服を着た人が、私のお店に入ってきてね・・・・・・・それで、ここに閉じこめられた訳なの。」
虎丸は胸元から行方不明になった自分の彼女の写真を見せました。秀龍は「どうせ駄目だ」という駄目な思いでいる頭にムカデが存在していなかった以前の正常な虎丸の時は彼女を探していたのだろうと推測しました。そうして虎丸の方を見ていると考えていると、思い出すように考えていた女性が何かを言い始めました。
女性「・・・・・・・そうだ。この娘知ってるっ!さっきの・・・の人に連れて行かれたよ。」と答えたのを聞きましたが、考えていたときの不意な返答だった為に他の言葉が聞き取れませんでしたが、虎丸は礼を告げていたので、女性が何と返答したのかは後にしようと思いました。
そしてこの場所から出ようとしますが、異常な虎丸の時が予想されたため件念の為にも、女の両耳に鈴を鳴らして見ましたがムカデはでてきませんでした。
虎丸は、一方的にアイツが悪いのかもしれないがお前も悪いんじゃないかと冗談ぽく言うと、唾の嵐の如く、口では勝てませんでしたが、そういう会話を交わしながら洞窟を出ました。
すると辺りは明るくなっていました。こうしてこの洞窟から出し解放した後、女の気持が気が晴れてき始めたのか、助けてくれたのだから今日お店に来たらと誘ってくれました。そうすれば助けてくれたのだから少しは安くしてあげると言い始めました。
そういう女を後目に気にしないよう勤めていましたが内心気になるのを押さえつつも、このまま足を止めることなく村長の家へ向かいました。そしている間にも「眠い。疲れた。」と言い始めましたが、そういう女性を宥め(なだめ)ていると、いつの間にやら村長のところへ到着していました。
女の相手をしていると時が経つのが早いものだと思いつつ、
村長を起こし、今までの いきさつと、その女性の生の証言を直接伝えました。それを聞いた村長は当然のことながら驚きをました。
そうして驚いている村長を後目に秀龍は、村長の後ろに音をたてずに村長の椅子の後ろの方に足を忍ばせ耳元に鈴を鳴らしてみました。すると何てことでしょう。正気でなかった虎丸の耳からムカデが出てきました。さっきまで文句言っていた女がそれを見て驚き叫び始めましたが、出てきたムカデを剣で突き刺して殺しました。
すると次第に村長の目には、さっきまでの曇った眼でなく、だんだんと鮮明になってきたように見えます。村長も虎丸が異常だった時と同様に自分を見る意識は無かったものの自らの行った記憶は確かのようで、やったことを思い椅子に座っては手を顔に置いては怪訝な表情を表しました。虎丸が自分もさっきまでそうだったと思い出したのか村長を励げまし
ました。誰でも間違いはあると。
虎丸は中にいる恋人が気がかりでなりません。ここで秀龍と虎丸とで、面白い試みを考えましたようで、その事を虎丸の耳に告げました。これは一度やってみたかったと言い終わった後に付け加えると、側近の家に虎を集結させ包囲させ、虎丸と打ち合わせ通りに側近の家にドカドカと踏み込みました。
秀龍「側近さん。あなたの悪事もこれまでです。」
側近「何を・・・・・ばかな。冗談のほどを。大体証拠は何処にあるのですか。私がそんなことをやってもしょうがないでしょう?」
そうやって言っている側近の言葉にも動揺を隠せないように秀龍の目には写って見えました。
秀龍「冗談だと言うなら、コイツはどうだ?」
秀龍の後ろから虎丸が出てきました。
虎丸「よお。俺に見覚えがあるかい?」
側近の顔色が変わりました。慌てて、捉えていた女性と思われる髪を引っ張りました。
側近「コイツが殺されたくなかったら、俺をここから逃がすんだな。」
虎丸「ははは、まだお前は分からんのか。
すると虎丸の後ろから、あの写真に写っていた虎丸の恋人が現れました。
虎丸の恋人「ばーか!そいつと一生、つき合ってなさいよ。」
それを見ていた側近の顔はみるみる青くなりました。側近の掴んでいる髪を強く引くと、それは顔にハズレと書かれた人形でした。
虎丸「お前にぴったりだ!」
そう言うと、みんな笑い始めました。
側近「いつの間に・・・」
秀龍「実は、この家を取り囲む前に助けておいたんです。」
虎丸「秀龍。おまえの徹底的な演出には惚れぼれするよ。」
側近はコウモリになりました。側近に化けたコウモリのようで窓を突き破って逃げていきます。虎丸は卑怯で陰湿なやり方を教えるコウモリなんかいらないと言いつつ石を投げつけました。しかしコウモリの身のこなし方はとても素晴らしく、なかなか当たりません。
こういう時は速いと思いつつ、両脇に手を置いて、そのコウモリを見たのでした。その後、側近は殺されて川で浮かんでいたことが判明しました。そして沢山の犠牲の中で、ようやく落ち着きを取り戻し始め、やがてこの村では、川を大切にする水村と呼ばれた元の状態に戻ったのでした。
こうして村が平穏な状態になり、村人の表情にも明るさが戻り始めた中で人知れず広い草原の中、金属の激しく当たる音が聞こえます。
それは秀龍と虎丸でした。二人とも草原の中で秀龍は剣を、虎丸は斧を持って戦っていましたが、なかなか決着がつかず、それは日が暮れるまで続いていました。
さすがに疲れ果てたのか、それぞれが持つ武器を支えにし立っていたのがやっとのように見えます。武器を持ち上げる元気もない二人は、まだそのまま武器を握りますが、それを握る力も失せてきたのか、そのまま大きく体が傾き始めました。
武器を持てなくなった二人はそれでも倒してやろうと秀龍は虎丸の襟首を掴んで投げようとしますが、足下(あしもと)が安定せず投げることができません。虎丸は秀龍の襟を掴んで投げようとするのですが、とうとう安定せずにそのまま倒れ込んでしまいました。
やがて二人は草原に倒れ込み、青く澄み渡る青空にある雲を見る格好になっていました。
虎丸「あの右側にある大きな雲は俺のだ。」
秀龍「左側にあるあの雲こそが俺のものだ。」
倒れても競争する気持は失せていないようです。二人が見る空の情景は、爽やかな風に吹かれてか雲は流れていきます。しかし二人はそれでも辞めようとしません。
虎丸「右下にある雲が俺のだ。」
秀龍「真ん中にあるのが俺のだ。」
やがて大きな雲が、やってきました。
虎丸「あれが俺のだ。」
秀龍「いいや、あれが俺のだ。」
次第に熱を帯び始めた二人は決して譲ろうとしませんでした。すると、その雲は雨雲だったらしく雨が降ってきました。
虎丸「俺が強いに決まってる。お前のことなぞ全然理解できない。」
秀龍「俺こそが強いに決まってる。お前が頑固な奴だ。お前の事なんか全然理解できないよ。」
虎丸と秀龍は思わず、互いの顔を見合わせると大声で笑ってしまいました。すると、さっきまでの雨雲が、あっという間に通り過ぎて青空に戻りました。その笑い声は島中に響き渡ったように思えました。
この後、水村から山村への親睦書をもらったのは、もう間もなくのことでした。