宇宙をも突き抜けるかの如く真っ青な空の下、草原にたる眩しい太陽に当たった鮮やかな色をした草原に、時折吹いてくる爽やかな風に当たり、辺り一面が目の見えない大きな生き物を証明させるかのように繰り広げられている中、秀龍は両腕を枕にし流れゆく雲を目で追っていた。
太陽に照りつけたときの草の臭いと涼しげな風が体を当てては通り過ぎてゆく体が感じる感触に澄み切った瞳が健やかに増していくのだった。
ぽかぽかと照りつける太陽と爽やかな風に吹かれて、ウトウトとしていたそんな中、見慣れた鳥が秀龍の額に留まった。
秀龍は何事も無かったかのような表情で気にもとめずに瞼を閉じようとすると、その目を鳥は軽く額を突っついたのだった。
鳥「村中を探してやっと見つけたというのに何です?それ。」
ゆっくりと起きあがると鳥は鞘を地面に突き立ててある先の方にとまると、腕を伸ばしながら鳥に聞いた。
「猪でも出て、どこかに突進してきたのか?それとも猿が何かをしれかしたのか?」
そう答えた秀龍に何かを感じたのか真剣な面もちで言い返した。
「何を言ってるんです。村長がお呼びです。」
と言い返したのだった。
意外そうな表情で鳥を見ながら立ち上がると剣をつけ服をはらい集会所へ向かった。
途中、草原を切り抜けたかのような道を抜け、村中(むらなか)へゆくと、陰を落としたかのような面もち(おももち)で歩いてゆく狐女とすれ違った。
どこかで見たことがあるような気がしつつも村長のいる部屋に入ると質難しそうな表情で頭を掻きながら机を見ている村長の姿がそこにあった。
入ってきたのを気付かない様子を思ったのか秀龍から言葉をかけた。
「先ほど、どこかで見たことがあったような女狐とすれ違いましたが、あれというのは誰・・・」
村長が秀龍の顔を見ると秀龍の言葉を途中で遮るかのように言おうとするが今度は腕を組んで椅子にもたれた。
「村長。私に用件があると聞きましたが。」
そう告げると村長は話を切りだした。
「そう、お前がさっき言った、あの女のことだ。」
「はい。」
「仮面という唄を知っているか。あれを歌っている旅芸人・・・・・」
「吉崎七瀬ですね。でもどうして、こんなところへ?
ここに来るのはよっぽこどことだから何処そこにも相談されたのでしょうか。」
「おいっ。よっぽどとは何だ!・・・・・・・でもその通りだ。」
こんなところに旅芸人が相談に来たと驚きを隠せなかったのが災いしたと思い、しまったというような仕草を見せたのを見て、ほんの軽く笑った村長の表情をよそに、咳を発したかのように鳥が机を小突くと部屋は落ち着きを取り戻した。
村長が言った話とは吉崎七瀬にもう一人の姉と喧嘩になり、それが原因のほったんとなって瓦版達に弄ばれ(もてあそばれ)職を失ったことらしい。
まさしく秀龍が先ほど気付いたように色々なところへ本件をしまいがそれぞれ相談できるところへ手分けするのだが、なかなか引き受けてくれなかった。そこでたまたま村長のところへも来たのだが村長も何をできないと断ったのだという。
それでも姉の吉崎七瀬は簡単には引き下がず、このまま汚い汚物のように扱われては断れるのは嫌と泣いたものだから話だけは聞くことにしたのだという。
その詳しい話とは姉である吉崎七瀬が旅芸人として世に出て売れ続け3年ぐらいだろうか、その人気にも陰を落としてきた最中に彼女の妹が同じく歌手として世に出たらしい。その時の勢いというのは姉である吉崎七瀬よりも凄いものだった。
「どうして、そこで復帰しようと思ったりするのです?」
そこで瓦版業界に復帰したい気持ちが秀龍には理解できないを秀龍を見て付いたのか、近くにある椅子に座るよう促すと話を続けた。
姉は自分の妹が売れ出すのを見て複雑な心境だったのだが次第に身の回りで目に見える変なことが起き出したのだそうだ。
姉は恐ろしくなり身を寄せる生活が続く中で、仕事面でも嫌がらせに近いことを受け始めたそうだ。
そんな中、妹が映画を出すということで宴会に招かれたのだが、姉がみたそれというのは有頂天になった吉崎七瀬の妹は瓦版の口車の罠にかかってしまい、つい姉よりも自分が秀でているような口車にのってしまった。
本人は気にも留めず、そのまま有頂天になっているのをみて吉崎七瀬は手にある酒を妹の服にかけてしまったらしい。
普段の日常的家庭内の状況なら、だたの姉妹の喧嘩だが、この件を基軸にして吉崎姉妹の話が新聞や雑誌に取り上げられ瓦版のおもちゃにされた挙げ句の果てに旅芸人の仕事が無くなって、もう半年になると続けたのだった。
「・・・・・とまあ、こういう話だ。」
ああいうところで、よくありそうな話だという様な感じで頷くと怪訝そうな表情で言った。
「そこでこの私に、その女へ何かをしろというのですか。」
村長は平静した表情に戻ると、
「気に入らない奴には言わんよ。ただ・・・。」
「ただ?」
「あまりこういうようにを面白げに人に話をしていると今度は自分が巻き込まれる時があるから、そういう話に安易にのらないように気をつけるよう細かいことかも知れんが他の奴にも言っておけ。」
椅子をたって部屋を出て建物を出ると近くの喫茶店に入った。
中はなかなか落ち着いた店の様子で、一呼吸おくのに丁度良い環境だ。
ここで面白そうな感じで雑談に興じて話している者達がいた。ミルク入りコーヒーを注文した丁度そのとき誰かの話になった。
ここは悪いがその話を聞こうと席を変えて近づき座りかえると吉崎姉妹の件では無かったが別の似たような話をしていたのだった。
飲料を飲み終え、ちょっとばかり時間を過ごすと、ぶらぶらと町中を散歩し今日事なきを得たのだった。
次の日。
辺りが寝静まった午前5時頃。またも鳥が秀龍の頭を小突いた。
「早く起きて下さい。」
「何だ・・・・今何時だ。」
近くにある目覚まし時計をとろうと、あくびをしていると鳥は言った。
「勇犬の死体が発見されました。」
秀龍が手にしている目覚まし時計を寝床に降ろして目を見開いた。
「勇犬が死んだ?お前、冗談じゃすまさんぞ。半年前に行方不明になった・・・。」
「はいっ。犬正村(いぬまさそん)出身の勇犬英(ゆうけん_ひで)監長殿です。」
秀龍は急いで顔を洗って身支度を整えつつ村長の家に向かった。
「遅かったな。話は聞いている、報告書はまだだ。」
「どうされるのですか?」
「もう手は打ってある。本件は猿犬(さるいぬ)に任せてあるから以降は心配せんでいい。」
「それで・・・」
「ああ。勇犬の実家にさっき電話をしたところ一足早く別のところから連絡があったそうだ。
そこで、お前は実家へ行ってくれ。」
こういうのは初めてだと思いつつ秀龍は彼の実家へ向かった。
犬正村の勇犬家実家。
農作業などの作業を行う工具を納めた大きな家、道具小屋のその隣りに彼の家がある。
すでに誰かが来ており玄関にはここの家の者の数より4,5人分の靴がある。
玄関先に、その一人と思わる者が、ここから出ようとしていた。
「大変な事になりました。」
「ええ・・・・・。まさか、ああいう形で息子と再会することになろうとは思わなかったでしょう。」
そう行ってすれ違い、彼の実の親に向かうのだが、とても行けるような場ではなかった。
そういう雰囲気の中、他の3人ぐらいが座布団に座っていた。
実親の前に誰も座っていない座布団を三人らに勧められ、そこへ座るのだが目前にいるほうに声をかけても俯いたまま黙っている彼の父をよそに彼の母が遠いところを有り難うと挨拶を交わすだけで会話にならなかった。
そういう雰囲気の中で彼の兄弟らは未だに到着していないぐらいの話だった。
そして秀龍は村長のところへ行き報告した時には日も墜ちていたので、そのまま帰宅することにした。
この日は、こういうことが初めてだったのか、よく眠れなかった。
いくつか日付が至ったころに彼が書かれた報告書ができ、目を通す秀龍だったのだが、それは遺体をいくつかに切断した上、なんらかの処置が行われていたことが明記されていた。
そこで気になる彼自身の遺体である決め手になったのが、想像通り、それが歯である、と大ざっぱに言ってしまいえばそういうことだった。あとこれといって本件に何らかのことをするにしても場が落ち着かなくなるので、ここで踏ん切りをつけたのだった。
いくつか日も過ぎ何か無いかと思いつつ事なき平和の中過ごして秀龍が、ちょっとだけ吉崎姉妹の歌う唄はどういったものか、町を行き交う人達にそれとなく聞いてみることにした。
するとなかなかの好印象でこういう感じの話が帰ってきた。
「なかなか明るい感じですよ。」
「何というか、一部の曲で歌詞に棘を感じるが・・・。」
「小悪魔のような可愛さがありますね。」
この吉崎姉妹はどういったのを歌っているのかまでは興味が至らなかったのか、そこまで終わる筈だった。
後日、いつものように書類に目を通していると行方不明だった人物の水死体が先日発見されたと記されている。この書類処理を行ったところへ行き、確認していなく確かなものでなくても良いから今ある情報が欲しいと聞くと軽く頷いて、その死んだ人物というのが同じ瓦版に勤めていた人物らしい話が出てきているそうだ。
まさかと思いつつ、その書類責任者に名前を聞き鍵を借りて自ら市民記録室へ向かい旅芸人のスタッフの瓦版と書庫にある過去の吉崎姉妹が出演していた旅芸人瓦版を調べて見ると同じだった。
「これを偶然と思って良いのだろうか・・・・・。」
たまたまその場には鳥が居なかったので気付いた点に関し適切な記録を取るよう指示をして、また行きつけの喫茶店に寄った。ちょっとだけ興奮したのか、これを落ち着かせるよう暖かい飲み物を注文した。
「本件に関しては胸にとめておこう。担当外の変な話で時間を潰してはいかんだろう。」
さっき注文したのが、いつもより早く来たそれを飲みつつ嫌な予感が芽生え始めていたのを感じていた。
次の日、村長から依頼されていた猿犬の方が報告完了となった。
その内容はどうかと村長に訪ねると、これという決めてというまでには至らない内容なものの、そういう風に彼自身が思っただけの彼の持論であるというところに留めておこうというものだった。
彼から提出された書類を見ると『郊外秘』と押された赤印があった。
村長が当初から言っていたのが気になることもあり、その文書は読まないことにした。
そこで思った。人からくる身内の話に安易にのらず出来るだけ避けて、人づてから聞いた人の悪い話を聞いてもあまり耳に入れない。自分がそう思っているだけでも、それでいいんじゃないだろうかと思ったのだ。
後日、草原の中で雲の流れを見ていたとき鳥から話がきた。
「また吉崎姉妹の話か。」
というと直ぐさま言い返してきた。
「今でも人気があります。」
そういって始まった鳥から聞いた話は、やはり吉崎姉妹の旅芸人のものだったが、吉崎姉妹は周りに与える影響を考慮し身を引いたらしい。
これ以上吉崎姉妹のことを、ひとまず終わらせるにしても気になることと言えば誰が放火したかということより何の目的で放火したのかが唯一の心残りだった。