ある日のこと、いつものように暑い気温の続く中で、
剣を装備し馬にサーフボードを乗せて山をおりて海へ行きました。
海に到着すると、目の前に広がるその風景はなんとも爽やかです。
いてもたってもいられなくなった兎は早々と着替えてサーフィンを楽しみ始めました。
しばらくたってから思わぬ波の大きさにサーフボードが折れてしまいました。
サーフボードが折れるなんて珍しいと思いつつサーフボードを扱っている近くのお店に行きました。
ところが行った先で驚きました。お店にある筈のサーフボードが全く無いではありませんか。
ここの状態を困った顔で呆然と立って見続けるお店の人にどうしたのか聞きました。
するとお店の人は言いました。
「この町で作られる多くの物は油によって作られているんだ。
でもその油が無ければ何も作れない。だからお店にあるボードもお店に無い。
だからみんなが我慢しなければならない。」
そう言って困った表情に戻ったお店の人に、
どうしてそれが無くなったのと聞くと更に困った顔をして、
しばらく考えた後に油の王様に聞いてごらんと言いました。
その王様は今現在どこにいるかと聞くと
王様も今日は運良くここの海に来ているから、そこらを探してごらんと教えてくれました。
沢山のパラソルが開いている海岸の下でサングラスをかけて寝ている人に
王様は何処にいるかを聞いてまわると知っている者がいて、その方を指さして教えてくれました。
指さすほうを見ると、すぐに分かりました。
王様のいるらしい付近はスーツを着た人が多くいて、周りにはあまり動物達がいません。
とにもかくにも、話さないと分からないと思って王様のいるところに行きました。
でもスーツを着た人がなかなか通してくれません。
大声を出して強引にしようとするタイプではありませんので、とにかく粘ばってお願いしていると、
遠くから何事かと言いつつ誰かがやってきました。
スーツを着た人が「何でもありません王様」と答えたので、
この人が王様なんだと思って急いで言いました。
「どうしてそんなに意地悪するの?」と聞くと驚いた表情で言いました。
「そんなことは無いよ。それは君の思い違いかもしれないよ。」
と答えました。でもこのままじゃ僕がサーフィンできないと言うと
右手を顎につけるようにして考えて実は困っていると兎に言葉を返して
ため息をつきながら言いました。
「いつもいつも沢山の人達が僕のほうに来る。中にはいじわるな魔法使いもいる。
だから誰を信用すれば良いのか、それを見分ける為に日々疲れているんだ。
だから今日だけは休ませて欲しい。」
と言って、とても困った顔で答えました。
兎は言いました。「王様の言うことは僕にはよく分からないけれど、
どこにでもそういう人がいると思うよ。」と言い、そして続けて兎は言いました。
「でも僕は今サーフィンしたい。でもそれをする為のサーフボードが壊れたんだ。」
王様は、とても分かりやすい話に口笛を吹いて言いました。
「君はそれでいいかも知れないけれど、僕はそれだけじゃあ済まないよ」と、
さらに困った顔をしました。
それでも兎は食い下がらずに
「王様がどうにかしてくれないと僕はサーフィンをすることができないんだ。」
と言いました。
「ほうら。君もそうやって僕に頼む。みんなそんな奴ばっかりなんだ。」
「僕は王様だから何でもできるんだと思ったのだけれど、
どうしてそんなに、いじわるするんだ。」と言いました。
いじわると言われたら王様も黙っていません。
「王様と言って僕を馬鹿にする奴がいる。俺はそんな風に言われるのがイヤだ!」と、
王様も先ほどの様子とうって変わり怒鳴り返しました。
このままでは、何にも変わらないと思って兎は言いました。
「そうしたら王様を困らせている、いじわるな魔法使いをどうにかすれば、
どうにかしてくれる?」と兎が質問しました。
王様は言いました。
「君みたいな坊やに何ができると言うんだい?俺を馬鹿にしないでよ。」
そう言って笑う王様に兎は怒って言いました。「王様だって『坊や』じゃないか!」と。
王様は今度は笑って「あはは。怒るな怒るな。」
兎はそう言われて、なおさらムシャクシャな気分になっていました。
こんな風に言われたのは初めてだと思いつつ、
王様の言ういじわるな魔法使いをどうにかしようと思って
その場を離れようとすると王様が兎の背中に声をかけました。
「ごめん。さっき言ったのは謝るよ。見たところ君は面白い奴だ。
だから、いじわるな魔法使いに手を出すような事をはするな。」
思わぬ王様の優しさに驚いた表情を見せると、それを見た王様は、クスクス笑いながら言い加えました
「ならこうしよう。ここからでも海の見える反対側の方に丘が見えるだろ?」
そう言って指さす方向を見ると、
かんかんと照りつける太陽と、さわやかな風を受けてなびいている草原の丘が見えました。
「ここの言い伝えでは、あそこの丘のてっぺんに黄金色の葉があるらしい。
それを取ってきてくれないか。そうしたら考えてやってもいい。ただし・・・あの太陽が沈むまでだ。」
兎は、「取ってきたら本当にやってくれるよね?」と言うと
王様が手を差し出してくれて握手を交わすと、いちもくさんに王様の言う丘に行きました。
ところが、その丘の上に行っても王様の言う黄金色の葉らしい物が見あたりません。
草原と言っても全てが均等に草の葉の長さが有るわけでもなく、
ところによっては深いところもあります。
一体どこにあるのだろうと、必死に探していると、
ふとどこかで見かけたような黄色と黒のシマシマの模様の誰かの尻尾がひょこひょこ動いています。
まさかと思いつつ、その尻尾を引っ張ると兎の想像していた通り、体格のいい虎丸でした。
この虎丸と兎は犬猿の仲です。
兎はとりあえず「よっ!」と明るく挨拶を交わすと虎丸が驚いた様子でいて、
「お前はここで何をやってる?お前の行動は、
いつも根拠がないから遊んでいるだけなのかも知れないけど。」と聞いてきました。
兎は答えました。「それは、こっちも聞きたいよ」と頭をかいて、
こんな奴にかまっている暇はないと一瞬思いましたが、
今はそう言っている場合でない事に気がつきました。
ここはできるだけ人が多い方が良いと助けてもらおうと思いました。
「実は王様に頼まれてさ。ここらに黄金色の葉があるらしく、
それを今日の太陽が沈むまでに取って来いっと言われたんだ。」
「確か今日海に遊びに来ているのは確か・・・・・えっ!まさかあの王様か?」
そう言って驚く表情を見ながら兎はにっこりとして頷く様子に虎丸は慌て始めました。
「どうしたんだよ。急に慌てて。サインでも欲しいのか?」と平和に答える兎を見た虎丸が
イライラしながら言いました。
「いや実はその王様にかまっても良いんだが、こっちも忙しくてさ。
でも俺の件を解決したら、お前の方のもすぐに解決できるかもしれない」
と言いました。
どういう事なのか言ってみろと兎が聞き返すと
「実は、この島に昔から住んでいる猿がいるんだ。
その猿なら、その黄金色の葉を探すことができるかも知れない。」
兎は喜びました。簡単に済みそうだと思いました。
虎丸はその雰囲気は間違っているという口調で、そんな簡単なものじゃないと言うと
話を続けました。
とにかく俺の後をついてこい来いと言われた兎は、
その猿の居そうなところに案内されて、虎丸の言うそこに到着しました。
「これがその、お猿さんだ。」
兎は猿を見ました。猿は一生懸命、耳を塞いでいます。
これがどういう事なのか聞いてみると虎丸は恐らくという言葉を付け加えて説明し始めました。
どうやら、この猿は耳を塞ぐことで何も聞く必要もないし
同時に言うこともできないから彼はそう実行している、とか言いました。
これじゃあ良く分からないと、いつも一緒にいる鳥に聞こうとしましたが、
管轄外もあって時間がかかりそうです。ここは、この付近にいるコウモリに聞いた方が良いと思い、
このあたりで飛んでいるコウモリを捕まえて聞き出しました。
その捕まえたコウモリの言う内容は、
この猿は黄色いコウモリが気づくまで、ずっとこうしていたらしい。
それはこの島に王が来る前からだったとか。
ありがとうと言ってコウモリを解放すると兎はどうしようか考えました。
とにかく今は目の前にいる猿をどうにかしないといけないと思った虎丸は、
猿が動くように大声で叫んだり、眼の前で手を振ったりしました。
でも反応がありません。そこで虎丸は強引に装備している斧を猿の頭へ叩こうとしました。
「それじゃ彼の場合無理だよ。ここからは僕に任せてよ」と言いつつ
両手を耳で塞いで両脇ががら空きになった状態のところを、くすぐり始めました。
最初は何ともありませんが、次第に体が震え始めました。
それでもお猿さんは頑張っています。そこで虎丸は、面白いような表情で猿の鼻を塞ぎ始めました。
すると、とうとう猿は吹き出して笑いました。でもすぐに表情はうって変わり、怯えた表情になりました。
「ああ喋ってしまった。僕はおしまいだ。どうしよう」
それはどういうことかと聞き出すと、
黙っていないとお前のことを脅すと言う、いじわるな魔法使いが言ったらしく、
彼はずっと、その、いじわるな魔法使いに怯えていたのでした。
兎はすかさず黄金色の葉を知らないかと聞きましたが、
いじわるな魔法使いをどうにかしてくれれば教えると答えました。
彼自身の命が関わっているから、
彼にとって、こういう手段でしかできない猿の身を思えば当然かもしれないと思うと
兎はかわいそうに思いましたが、今はその気持ちに浸っている場合ではありません。
猿に、その、いじわるな魔法使いのいるところへ案内させました。
いじわるな魔法使いの屋敷の前に到着すると、猿は「僕はここで待つよ」と言うのを後目に
兎は剣を抜き、そして虎丸は斧を掴み身構えました。
薄暗く、青い炎の多いお化け屋敷のような中の廊下は、気分がよくありません。
なんて悪趣味な奴なんだと思いつつ、いじわるな魔法使いを捜すと、
それは寝室にいて眠っていました。
起こさずに襲うのも卑怯なので水をかけて勝負を挑もうと思いましたが、
どうやっても陰湿な魔法でやられたらかなわないから、どうしようと思っていたら、
虎丸の分厚い皮のベルトから、すこし小さく特殊な瓶を取り出しました。
よく見ると、その中には胡椒を入っていました。
この瓶は小さいながらもより多くの物が入るように、
中に入れるとそれが圧縮されるという特殊な瓶でした。
いじわるな魔法使いを起こしてから、その胡椒を使おうという魂胆です。
食事にうるさい奴だけれど、こんなところで役立つなんて兎には想像すらしていませんでした。
準備が整い兎が水をかけて起こすと、予想通り杖をとって魔法をかけようとしました。
すかさず、いじわるな魔法使いに大量の胡椒をかけました。
対策にしてはあまりにも胡椒の量が多かったのか部屋中が灰色になってしまい、
お互いのクシャミが止まりません。これはもはや戦いとは言えない状態で最悪でした。
なんとかお互いのクシャミが収まりつつある時、
くしゃみがでては呪文を唱えることはできませんが剣はなんとか形だけでも降ることができます。
そうして、いじわるな魔法使いを倒し、いじわるな魔法使いの屋敷から出ました。
門の前で待っていた猿は二人の無事な姿に喜びました。
それではと教えてくれと兎は猿さんに約束の黄金色の葉を教えてくれと言うと、
「そんなものは無て見たことがない。」
その言葉を聞いた兎は真っ白になりました。
今までの苦労はなんだったのだろうと思ってがっかりましました。
あまりのショックに兎の耳も_しょげて_しまいました。
空の方を見るとすっかり夕方のこがね色になっており、
あと数時間もすれば、太陽が沈んでしまいそうです。
猿も虎も兎のがっかりした様子を見て同情してか虎丸は周りの人達を、
そして猿は沢山の仲間を呼んで黄金の葉を探しますが、見つかりません。
もうすこしで太陽が沈んでしまいそうなところで、諦めて王様のところへ行きました。
「ごめん見つからなかった。」
王様は答えました。
「あはは。そんなの無いのは最初から知ってたさ。」
兎は怒りました。君のために僕たちは、どれだけ苦労したことかと。
王様は答えました。
「君は正直者だ。それを知りたかったのさ。」
すると王様が言いました。
「でも、いじわるな魔法使いは退治できたんだろ?」
そう言われて気づきました。この周辺の者達と猿達の呪いを解くことができ、
同時に、たくさんの人達が助け合うことができたのでした。
数日後。
兎は、まだこの海の町でサーフィンを楽しんでいます。そして王様も休養を楽しんでいました。
王様は言いました。「どうだい。海もいいものだろ。」
兎は
「今度は山の方で一緒に遊んでみないかい?」
と言って、お互いに笑いました。